17.ピンチ脱出
村に降り注いでいた“生命の雨”は、今は完全に降り止んでしまっている。
魔王軍三幹部により“生命の巨塔”が破壊され、“生命の水”が全て奪われてしまったためだ。
「大丈夫ですか、ラデクくん、サラーさん……」
「げほっごほっ……。息が出来ない……!」
「頭がー、くらくらするー……」
人々の健康の源“生命の雨”が止んでしまったためか、ラデク、サラーの病気が再発。
「ぐっ……。このままでは……。ん? 宿屋に人が集まってますね……」
ラデクの実家である宿屋に、コハータ村の民たちが集まっている。マーカスの姿もあった。
何事かと思い、痛む脇腹を押さえながら、
集まっている村民たちは、顔色も良く、見るからに健康そうであった。
「楽になったあ! 助かった!」
「メルルさん、ありがとうございます!」
「貴重な“生命の水”を、こんな私なんかに……」
村民たちは、ラデクの母——メルルへ口々にお礼を言っていた。
メルルは、集まって来た村民たちに、あらかじめ蓄えておいた“生命の水”を飲ませていたようだ。
「おお、勇者ミオン様!」
マーカスが
「マーカスさん……!」
「勇者ミオン様、残念ながら……“生命の巨塔”の力は完全に失われてしまったようです。さあ、早く“生命の水”をお飲みになり、回復なさって下さい!」
メルルも
「お待ちの皆様、すみません。世界を救う勇者様を優先して回復させねばなりません」
「ラデク……無事で良かったわ。さあ勇者ミオン様、サラーさん、そしてラデク……。早く“生命の水”を!」
「ごほっ……お母さん、ナイスだよ! 早速飲むね! ほら、ミオン様とサラーも!」
「ありがとうございます……いただきます」
「助かったわー。いただきまーす」
コップ1杯の“生命の水”を、ぐいと飲み干す。
すると体がポカポカと温かくなり、脇腹の痛みと身体の怠さが、一瞬にしてスッキリと無くなった。
ラデクもサラーも、たちどころに症状が快復してゆく。
「おお……! ありがとうございます、メルルさん。おかげで痛みが消えました」
「ふうー……! 息が出来る! ありがとう、お母さん!」
「わあー……頭の中がスッキリしてきたー。助かったー!」
翌朝——。
「お母さん、“生命の水”は、あとどのくらい残ってるの?」
「まだ、たくさん残ってるから心配いらないわ。冒険を続けるために、3人分、水筒に入れておいてあげるわね」
「ありがとう! じゃあ“生命の水”が無くなる前に、早く“生命の巨塔”を直さなきゃね、ミオン様!」
「そうですね……。あ、私の分の“生命の水”は結構です。私の持病は、元からですので」
「ダメだよミオン様。痛いのなら冒険に差し支えるじゃん! ちゃんと持って行って!」
「……そうですね、すみません」
“生命の水”を水筒にたっぷり入れ、準備を整えた
「では、行って参ります。ありがとうございました」
「お母さん、絶対に“生命の巨塔”を復活させるから!」
「また時々、寄らせてもらうわねー」
メルルは笑顔を見せながら、見送った。
「くれぐれも無理しないでくださいね。お気をつけて」
その笑顔に、どことなく翳りのようなものがあるのを、
大切な一人息子のことが、やっぱり心配なのだろう。
しっかり守らねば。
メルルが蓄えている“生命の水”が尽きる前に、再び“生命の巨塔”を復活させることが出来るのだろうか——。
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