17.ピンチ脱出


 飛田ミオン、ラデク、サラーは、“ワープゲートの素”を使い、コハータ村に戻ってきた。


 村に降り注いでいた“生命の雨”は、今は完全に降り止んでしまっている。

 魔王軍三幹部により“生命の巨塔”が破壊され、“生命の水”が全て奪われてしまったためだ。


「大丈夫ですか、ラデクくん、サラーさん……」

「げほっごほっ……。息が出来ない……!」

「頭がー、くらくらするー……」


 人々の健康の源“生命の雨”が止んでしまったためか、ラデク、サラーの病気が再発。飛田ミオンの脇腹の痛みも悪化した。


「ぐっ……。このままでは……。ん? 宿屋に人が集まってますね……」


 ラデクの実家である宿屋に、コハータ村の民たちが集まっている。マーカスの姿もあった。

 何事かと思い、痛む脇腹を押さえながら、飛田ミオンはラデク、サラーと共に宿屋へと向かった。


 集まっている村民たちは、顔色も良く、見るからに健康そうであった。


「楽になったあ! 助かった!」

「メルルさん、ありがとうございます!」

「貴重な“生命の水”を、こんな私なんかに……」


 村民たちは、ラデクの母——メルルへ口々にお礼を言っていた。

 メルルは、集まって来た村民たちに、あらかじめ蓄えておいた“生命の水”を飲ませていたようだ。


「おお、勇者ミオン様!」


 マーカスが飛田ミオンたちに気付き、声をかけてきた。


「マーカスさん……!」

「勇者ミオン様、残念ながら……“生命の巨塔”の力は完全に失われてしまったようです。さあ、早く“生命の水”をお飲みになり、回復なさって下さい!」


 メルルも飛田ミオンたちの姿に気付くと、集まっている村民たちに声をかけた。


「お待ちの皆様、すみません。世界を救う勇者様を優先して回復させねばなりません」


 飛田ミオンたちは、順番を譲る村民たちに頭を下げながら、メルルの元へ向かった。

 

「ラデク……無事で良かったわ。さあ勇者ミオン様、サラーさん、そしてラデク……。早く“生命の水”を!」

「ごほっ……お母さん、ナイスだよ! 早速飲むね! ほら、ミオン様とサラーも!」

「ありがとうございます……いただきます」

「助かったわー。いただきまーす」


 コップ1杯の“生命の水”を、ぐいと飲み干す。

 すると体がポカポカと温かくなり、脇腹の痛みと身体の怠さが、一瞬にしてスッキリと無くなった。


 ラデクもサラーも、たちどころに症状が快復してゆく。


「おお……! ありがとうございます、メルルさん。おかげで痛みが消えました」

「ふうー……! 息が出来る! ありがとう、お母さん!」

「わあー……頭の中がスッキリしてきたー。助かったー!」


 飛田ミオン、ラデク、サラーは、しっかりと身体を快復させるため、そのまま宿屋に泊まることにした。



 翌朝——。

 飛田ミオンたちは朝食を摂り、再びコップ1杯の“生命の水”を飲む。


「お母さん、“生命の水”は、あとどのくらい残ってるの?」

「まだ、たくさん残ってるから心配いらないわ。冒険を続けるために、3人分、水筒に入れておいてあげるわね」

「ありがとう! じゃあ“生命の水”が無くなる前に、早く“生命の巨塔”を直さなきゃね、ミオン様!」

「そうですね……。あ、私の分の“生命の水”は結構です。私の持病は、元からですので」

「ダメだよミオン様。痛いのなら冒険に差し支えるじゃん! ちゃんと持って行って!」

「……そうですね、すみません」


 “生命の水”を水筒にたっぷり入れ、準備を整えた飛田ミオン、ラデク、サラーは、今後どうすれば良いかを決めるために、マーカスの家へ相談しに行くことにした。


「では、行って参ります。ありがとうございました」

「お母さん、絶対に“生命の巨塔”を復活させるから!」

「また時々、寄らせてもらうわねー」


 メルルは笑顔を見せながら、見送った。


「くれぐれも無理しないでくださいね。お気をつけて」


 その笑顔に、どことなく翳りのようなものがあるのを、飛田ミオンは感じ取っていた。

 大切な一人息子のことが、やっぱり心配なのだろう。

 しっかり守らねば。飛田ミオンは改めてそう思うのだった。

 


 飛田ミオンたちは、マーカスの家へと急ぐ。


 メルルが蓄えている“生命の水”が尽きる前に、再び“生命の巨塔”を復活させることが出来るのだろうか——。

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