16.悪の根源——魔王ゴディーヴァ


 空中に映し出されたスクリーンに、“魔王ゴディーヴァ”が姿を現した。


『聞けぃ、人間ども! ……ワシこそが魔族の王の中の王、“ゴディーヴァ”である。我々の目的は、魔族の復活と繁栄だ。全ての世界を支配するのは、我々魔族である。これから邪魔な人間どもを根絶やしにするため、魔族による血の祭典が始まるであろう。ワハハハ……』


 身の毛もよだつような笑い声が響き渡ると、スクリーンは薄らぎ消滅した。


「……あれが……私の倒すべき魔王……。私などに、そんなことが出来るのでしょうか……」


 飛田ミオンは手を震わせながら、下を向いた。

 ヴィットの声が、上空から響いてくる。


「クッフフフ……お前のような、若さを失った勇者など怖くはない! 魔族が世界を支配するために、人間どもは滅ぼさねばならぬのだ! サーシャ、やれ!」

「オホホホ、面倒ですが仕方ありませんわね」


 サーシャが桃形の飛行物体の中へ戻ると、飛行物体は空高く飛び上がった。直後、飛行物体の下底部——桃形の割れ目の隙間にある円形のハッチが開かれた。


「一体、何をする気でしょう……?」

「ミオン様! 気をつけて!」


 ラデクの忠告を聞き、身構える。

 しかし桃形の飛行物体は、飛田ミオンたちを攻撃する様子はなさそうだ。

 しかし——。

 桃形飛行物体は、生命の水を噴き上げる“生命の巨塔”の上部から覆い被さるように、高度を下げていった。

 そしてズブズブと音を立て、飛行物体の底部にある穴へと、塔の先端を挿入していく——!


「ああ! “生命の巨塔”が!」


 “生命の巨塔”の上半分が、桃形飛行物体の中へと入り込んでしまったのだ。


「今から“生命の水”を全て、いただきますわ。オホホホホ……」


 桃形飛行物体はゆっくりと上下に移動しながら、“生命の水”を吸い取り始めたようだ。

 桃形飛行物体の縦に裂けた割れ目から、乳白色の“生命の水”が溢れ出る。上下運動による摩擦で、挿入された“生命の巨塔”の外壁が一部、崩れ始めた。


「何てことするんだ! やめろー!」

「ラデクー、ダメー! こっちに来なさーい!」

「ラデクくん……相手は魔王軍幹部です。今の私たちではきっと勝てないです……辛いと思いますが、我慢してください……!」


 塔の根本の左右にある2つの“ゴールデンオーブ”が放っていた金色の輝きが、みるみるうちに失われていく。

 それをただ見ているしか出来ない、飛田ミオン、ラデク、サラー。


「いいぞサーシャ! もっと激しくだ!」


 ヴィットの声が響くと、桃形飛行物体の上下運動はさらに速さを増す。溢れ出る乳白色の水。崩れる塔の外壁。


 やがて桃形飛行物体は、底部から溢れ出た生命の水を滴らせながら浮上。ボロボロに崩れた“生命の巨塔”の上部が露わになる。

 桃形飛行物体は、底部のハッチを閉じた。


「クッフフフ! これでこの近辺の人間たちは病気になり、滅びるだろう」

「さらばだビー! 悔しかったら強くなって、ぼくちゃんを追いかけてくるがいいビー!」

「オッホホホホ……! それではごきげんよう」


 幹部たちは笑い声を上げると、それぞれの飛行物体ごと姿を消してしまった。


 “生命の巨塔”の上部は、完全に崩れ落ちてしまっている。

 そして——。

 約50メートルの高さを誇っていた“生命の巨塔”が、目に見える速さでみるみるうちに小さくなっていく。金色の輝きを失った2つの“ゴールデン・オーブ”も、あっという間に手のひらサイズの鉛玉なまりだまになり、地面に空しく転がった。

 “生命の巨塔”は、高さ5メートル、横幅2メートルにまで縮こまってしまい、周りに生えていた植物も枯れ、腐り落ちてしまった。

 もう塔から乳白色の“生命の水”は、湧き出ることはなかった——。


「うっ、ゲホッガハッ……!」

「大丈夫ですか、ラデクくん!?」


 ラデクは突然咳き込み、膝を折る。飛田ミオンはすぐに駆けつけ、ラデクの背中をさすった。

 直後、飛田ミオンの後ろからドサッと何かが地面にぶつかる音が聞こえた。振り向くと、サラーが地面に倒れている。


「サラーさんも! しっかり……! うぐ……」


 サラーの元へ駆けつけようとしたが、飛田ミオン自身も——脇腹の痛みが再発。


「勇者ミオン様……ガフッゲホッ……“ワープゲートの素”で……村に戻ろう……!」


 ラデクは手に持っていた虹色の玉——“ワープゲートの素”を地面に投げた。


 ————


 ※ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 ラデク、サラーとまた会えて嬉しい!

 早く、もう一度生命の巨塔を復活させて!

 そしてちゃんと病気を治して、みんなで魔王を倒して!


 そう思って下さいましたら、★評価、フォローを是非お願いいたします!

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