15.出現! 魔王軍三幹部!


 久々に訪れた、夢の世界——。


 夢の世界においては、飛田とびた優志まさしは魔王を討伐する、伝説の“勇者ミオン”として扱われている。


 そのことを思い出しながら窓の外を眺める飛田ミオンに、老父マーカスが声をかけた。


「勇者ミオン様、いつの間にここへ……。こんなところで寝ておられますと、風邪を引かれますぞ」

「マーカスさん! 窓の外を見てください!」


 それどころではない、とばかりに窓の外、上空に浮かぶ黒い3つの影を指差す。

 

 “生命の巨塔”方面の上空に浮かんでいたのは——皮が剥かれたバナナ、果実が2つあるさくらんぼ、そして桃の形の、巨大な飛行物体だった。


「あれは! 間違いなく、魔王軍の飛行戦艦ですぞ! “生命の巨塔”が危ないかもしれません! 勇者ミオン様、装備を整えてすぐに“生命の巨塔”に向かって下さい!」

「わ、分かりました。マーカスさんも来られますか?」

「ワシは娘を看病せねばなりませぬゆえ、同行できません。まだ完治しておらぬようで……。申し訳ない……」

「分かりました。ではラデクくん、サラーさんを迎えに行って、それから装備を整えて向かいます!」


 飛田はマーカスの家を飛び出し、ラデクの住む宿屋へ急行した。



「勇者ミオン様! どこ行ってたんだよ! 大変だよ、魔王軍が“生命の巨塔”に向かってる!」

「ミオン様ぁー! ずっと探してたんですよー。はいこれ、ミオン様の装備! もう出発準備は済んだから、急ぎましょー!」


 宿屋ではラデク、サラーが既に装備の調達と薬草の補充を済ませ、飛田ミオンを待っていたようだ。


「申し訳ないです……。ではすぐに“生命の巨塔”へ急ぎましょう」


 ラデクの剣技、サラーの魔法“プチファイア”、“プチアイス”、そして飛田ミオンの“ドルチェ”で、襲い来る【レッドスライム】、【ゾンビ】の群れを蹴散らしながら、“ダイゴの森”を駆け抜ける。


「良かった、“生命の巨塔”は無事です!」


 50メートルほどの高さを誇る“生命の巨塔”は変わらず、塔の先端から乳白色の“生命の水”を噴き上げていた。塔の根本、左右にある2つの金色の“ゴールデン・オーブ”も、眩く輝きを放っている。


 しかし、“生命の巨塔”の上空には——。

 皮が剥かれたバナナ形、2つの果実のついたさくらんぼ形、下部に葉のついた桃形の飛行物体がそれぞれ、塔を取り囲むように浮遊していた。

 3つの飛行物体は、ゆっくりと高度を下げてきた。


「やはり現れたか、勇者ミオンよ。我々こそが、【魔王軍三幹部】……」


 バナナ形の飛行物体から、男の低い声が響く。


「出たな、魔王軍め!」


 ラデクは叫び、歯を食いしばりながら飛行物体を睨みつけた。


 それぞれの飛行物体が高さ10メートルほどの所まで高度を下げたその時だった。

 バナナ形の飛行物体の上に、黒い甲冑を身につけた何者かが姿を現し、低い声を響かせた。


「クフフフ……この魔剣【ザルツ・ブルガー】に切り裂けぬ物はない! 魔剣士・【ヴィット】!」


 魔王軍幹部、ヴィット——。

 人型で、身長は175センチメートルほど。全身黒い甲冑を身につけた剣士の魔族。兜の隙間から、黄色く光る目が覗く。


 続いて、2つの果実のあるさくらんぼ形の飛行物体の片方の果実の上に、丸々とした体型の何者かが姿を現した。そして幼児向けアニメの悪役のような声で自己紹介をする。


「この【クリスタルボウル】で、どんな攻撃も防いでやるビー! ガーディアン・【サクビー】!」


 魔王軍幹部、サクビー——。

 鉛玉のような球状の身体に、クリクリとした目。身長は1メートルほど。バネのような両腕に、短い足、頭に1本のツノを持つ魔族。左手には、自身の身長より大きい、料理で使うボウルのような形状の盾を持つ。


 そして、桃形の戦艦の上には、見た目が人間の女性のような姿の魔族が姿を見せる。そして甲高い声で自己紹介を始めた。


「【ロリータ・ホワイトステッキ】の魔力、見せて差し上げますわ! オホホホホ! 魔術師・【サーシャ】!」


 魔王軍幹部、サーシャ——。

 人型で、薄い桃色のドレスを着ており、白地に金色の縞模様の入ったステッキを持っている。身長は170センチメートルないぐらい。見た目は長身、細身な色白の人間の女性だが、口からは2つの鋭い牙が覗く。

 右半分が黄色、左半分がピンク色のロングヘア。そしてオシャレメガネの奥には、髪色と同じ、黄色とピンク色のオッドアイ。


 飛田ミオンは唖然として、魔王軍三幹部の姿を見ていた。


「気をつけろ、勇者ミオン様! 今までの敵とは違うぞ!」


 盾を構えたラデクに声をかけられ、ハッとする、


「は、はい……! ひとまず盾を構え、様子を見ましょう」

「私は盾がないからー、守ってねー、勇者ミオン様!」


 防御態勢を整える飛田ミオンたちだったが、魔王軍三幹部は攻撃を始めようとはしない。

 そのまま数十秒ほど経つと、それぞれの飛行物体から、空に向かって光が放たれた。

 3つの光は空中で1つになると、巨大な長方形のスクリーンのようになり、何者かの影が映し出された。


「魔王様のありがたい言葉だ。よーく耳を傾けるがいい」


 ヴィットがそう言い放つと、空中のスクリーンに映った影が色づき始め、その正体が明らかになった。


 その者は太った体型で、カラフルな宝石をまとったマントで全身を包んでいる者であった。豪奢な玉座に太い足を組んで座っている。

 茶色くてサラサラの長い髪に、茶色い肌、頭部には太い3本のツノ。口元にはいくつものキバ、手には鋭い爪——その姿はまさしく、魔王。


「今後、全ての世界を支配なさる、魔族の王の中の王、魔王・【ゴディーヴァ】様である」

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