14.ニセ医療に注意!
検査結果——。
脇腹の痛みはやはり
喉詰まり症状については、最も
「薬、1個も飲んでへんやって? ちゃんと飲まなあかんでしょ」
「すみません……」
担当医はまたも、白衣姿のいかにも昔やんちゃをしてそうな雰囲気の50代前半の医師——
飛田の苦手な医師である。
相変わらず、ドカッと股を開いて座っている。
「今の人は多いねん、何か症状あったらすぐ検索する人な。それで怖い病名がヒットしてノイローゼになる人もいてはる。“サイバー
「ですよね……。あ、1つお聞きしたいのですが……」
飛田はこの医師に話したくはなかったが、より自分に合った治療法——“自然治癒力を活かした治療”を行う医院を探している旨を伝えた。
だが、中田は眉を顰めて言葉を返す。
「自然治癒力というのは確かにあるけど、何でもかんでも自然治癒するなら医者も薬もいらんわな。自然治癒せえへん病気の方が多いんよ。例えば心臓
「はあ……」
中田の貧乏ゆすりで、椅子がカタカタと鳴る。
「そういう代替医療とか民間医療で病状が良くなった、みたいな体験談ってあるやん? あれはちゃんとした臨床試験に基づいたデータが無いのが
「医学的根拠がない、と……」
「そう。そして代替医療の一部は、現代医療を否定してたりする。やれ薬は体に毒やとか、やれ簡単に手術するなとか、やれ製薬会社の陰謀やとかな。そういう厄介なニセ医療に惑わされた患者さんは……もしちゃんとした治療を受けていれば治ったものを、変な治療受けたせいで病気を悪化させたり命を落としたりしてるねん」
「ニセ医療……」
「“
早口で紡がれる中田の言葉を聞き、飛田は下を向いた。
「まあそれでも生活習慣を変えたら、自然治癒までは行かんくとも、症状を楽にすることは出来んこともない。でも、相当な意志の強さが要るわ。それができひんから、みんな医者と薬の世話になるねん」
飛田はため息を1つつくと顔を上げ、質問した。
「……その“自然治癒力を活かした治療”を教えて下さった方は、“病人が来ると手をついて謝る”と仰ってました。人々を病気にさせないのが医師の仕事だと……。その辺はどうお考えですか」
中田は首を傾げ、相変わらずの早口で答える。
「まあ予防はもちろん大事や。せやけど、医者はそこまで面倒見きれへんのが実情や。各々、気ぃつけてもらうしかあらへんな。医者は、病人を治すのが仕事やとワシは思ってる。そういうわけでまた新しい薬増やさないとアカンので、きっちり飲んで下さいね」
「……え、まだ増えるんですか!? もう薬の量、5種類ですよ。こんなに飲んで大丈夫なのか……やっぱり不安です!」
「出された薬は、必ず飲まないとダメです。薬というのはさっき言うた代替医療と違って、きちんとした臨床試験や追跡調査のもと、安全性と効果が証明されてますねん。その調査は何年にもわたって
「はあ……」
「で、一番大事な、胆石の手術の話やけど……」
手術。その言葉を聞き、思わず立ち上がって叫ぶ。
「嫌、です!!」
「嫌って、もう手術して
「……失礼しますッ」
またも飛田は、医師の話を最後まで聞かずに診察室から逃げ出してしまった。
帰宅後、すっかり冷めた夕食を口にする。
ひとまず喉は何も異常がないという安心感からか喉の違和感は完全に消え、するりと食べ物が喉を通った。“心身相関”というが、心の状態はこうも身体に出るものなんだなと、飛田は思うのだった。
(飲みますか、薬……)
飛田は嫌々ながらも、利胆薬をはじめとする5種類の薬を飲み始めることにした。
飲んでも、胆石症が治るわけではない。あくまで症状が抑えられるだけ。治すには、手術して胆嚢を摘出しないといけないと告げられている。
「これが神様の試練だというならあんまりです。試される身にもなってほしいです」
薬を喉に送った後、思わずぼやく。
心身共に疲れ果てた飛田は、シャワーを浴びてからベッドに直行し、眠りに落ちた。
♢
気付くと、そこは久々に見る“夢の世界”——。
ここは、“オトヨーク
以前と同じように
ちょうど窓から、外が見えた。
コハータ村の上空に、黒い影が3つ、浮かんでいる。
(何でしょう、あれは……)
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