11.さよなら猫の国


 祝賀会が終わり、飛田とびたとチップたちはすぐ近くの海岸へと向かっていた。


「地底世界にも、海があるんですね」

「海の向こうにも、猫の国があるって聞いたよ。行ってみたいね。さ、みんな砂浜にいるから、早く行こ、優志まさし兄ちゃん!」


 海岸の砂浜には、チップの家族の他、9匹のねずみの家に訪ねて来ていた猫たちがみんな集まっていた。

 暖かな海風が吹き、地上世界と同じような潮の匂いが飛田の鼻をつく。

 遥か沖では、何やら巨大な海棲の生物が泳いでおり、背中からいくつもの噴水を噴き上げている。


「あれはクジラではないですよね……。興味深いです……」

「ほら、優志兄ちゃん! 早くみんなのとこ行くよ!」


 飛田はチップに連れられ、彼の家族と合流した。

 ねずみのおじいさんは、オレンジ色のスーツを着たずんぐりとした体格の三毛猫と話をしている。


「またわしらに手伝える事があったら言っておくれ、【ライム】さん」

「ありがとう、ねずみさんたち。また、ご馳走食べに行かせてもらうよ」


 ねずみのおじいさんと、ライムという名のその三毛猫が握手をしていた。

 その名前を聞いた飛田は、ハッとする。


「ライム……? ライムって、愛美あいみさんが飼ってて、子猫の時に行方不明になったって聞いてた子じゃないですか……!」


 駆けつけ、ライムに声をかけた。


「ライムさん、ライムさん」

「ん……? お前は、誰だ?」

「あ……私は飛田とびた優志まさしと申します。もしやあなたは、愛美さんのところにいた猫さんではありませんか?」

「ああ、その通りだ」


 ライムは雌猫だと、愛美に聞かされている。しかし話し声は迫力さえ感じるほどの低音であり、身長も今の飛田と同じほどで周りの猫たちよりも一回り大きい。


「ライムさんが急にいなくなって、愛美さんが心配しておりましたよ」

「……まあ、私にも色々事情があったのだ。今の私はここ、地底国ニャガルタの首都ニャンバラの知事でもあり、これから復興の仕事が忙しくなる。だが、あそこにいるミランダのおかげで、いつでも帰れるようになったから、そろそろ愛美姉さんのところに顔を出してもいいかなと思っていたところだ」

「なるほど……色々あったのですね。気が向きましたら、是非愛美さんに顔を見せてやってください」


 ライムはこくりと頷くと、ゴマのいる方へとゆっくり歩いていった。

 ゴマは、白い猫と尻尾をつないで座り、海の向こうを眺めている。白い猫は、あのやかましい関西弁の子、スピカである。


(……ゴマくんとスピカさん、なんですか……)

「優志くん、そろそろみんな帰ろうってことになったから、今のうちに挨拶しといてね!」


 仲良さげな2匹をボーッと眺めていると、風の精霊ミランダが飛来し耳元で声を出したので、飛田は思わず「わっ」と口にしてしまった。

 ミランダは8の字に飛びながらウインクした。


「わかりました。……じゃあチップくんたちに挨拶してきますね」


 9匹のねずみたちは、みんな集まって帰る支度を済ませているようだ。チップは、波打ち際にいるゴマたちに手を振っていた。


「みんな、元気でねー!」


 気付いたゴマは振り向いて、手を振りかえす。


「お前らもな。これからはいつでも遊びに行くからな。また冒険しようぜ。約束だ!」

「もちろんだよ。待ってるよ、ゴマくん! 優志兄ちゃんもね! これからはいつでも遊びに来てね!」


 チップは飛田の方に向き直ると、ニコッと笑いかけた。


「……はい! また、あの時みたいに野原とかヒミツキチで、たくさん遊びましょう、チップくん!」

「いつでも待ってるからね!」


 飛田もチップに、手を振り返した。


 ミランダはキラキラと光を撒き散らしながら、虹色に輝く“ワープゲート”を砂浜に作り出し始めた。


 飛田は、“自然治癒力を生かす治療を行う医院を見つけ、持病を治す”という希望を胸に抱きながら、キラキラと7色に輝くワープゲートが形作られるさまを、じっと見つめた。


 ミランダが小さな手でOKサインを出す。

 ワープゲートの準備が、出来たようだ——。

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