9.“名医”との出会い
周りは、もふもふ、もふもふ——。
話し声に、ニャンニャンと鳴き声が混ざる。猫好きにとっては天国のような光景だろう。
よく見ると、フロアの端の方では、服を着た小さなねずみの群れがいた。ねずみの世界の住民だろう。彼らはミランダの魔法を受けていないためか、元のねずみサイズのままだ。
いくつものシャンデリアがある高い天井。朱色の絨毯のフロア。白く細長いテーブルには、魚中心のたくさんの料理。
壁にはビデオカメラが設置され、隣には巨大なスクリーンにフロアの様子が映っている。
「テレビか何かで放映されるんでしょうか?」
「ああ、祝賀会の様子が、ねずみどもの世界でも放映されるらしいぞ」
地底世界とねずみたちの世界。当然ながら飛田は2つの世界の正体について知らないが、全くの別世界であることは確かな互いの世界で、録画をどうやって共有するのだろうか——。
そんなことを考えつつ、もふもふに満たされたフロアをさらに見渡す。奥には、学校の体育館にあるような壇があり、マイクスタンドが置かれていた。
キンコーンとチャイムが鳴る。
ニャアニャアという鳴き声が止み、途端に静かになる。
程なくして、深緑色の神官服のようなものを着たグレー柄の猫が壇上に現れた。よく見れば、9匹のねずみの家に来ていた猫のうちの1匹だと飛田は気づく。
グレー猫はマイクを手に取ると、口を開いた。
「“
ぽふぽふぽふっ、と拍手が巻き起こる。
ねずみの街——
地底国ニャガルタの総理大臣らしい、プロキオンという名の白猫。
地底国ニャルザルの代表、軍服を着こなした背の高い、オレオという名のトラ猫——。
各国代表が壇上に出てくると、マイクが手渡された。
まずは、ねずみの街代表チュータがちょこちょこと机の上に飛び乗る。机に置かれた専用のマイクに向け、声を上げた。
「私たちは、今後も太陽の教えに従い、私どもの住まうこの星と調和し共生する道を歩んでまいりまチュー。その教えを胸に、今後は猫族、ねずみ族……共に平和と発展を願い、
ぽふぽふという拍手とニャアアという歓声が巻き起こった。ねずみの群れがいる場所では「ちゅーちゅー!」と可愛らしい歓声が起こる。
チュータがぴょこんと机の上から飛び降りると、次いで地底国ニャガルタ代表プロキオン総理大臣が壇上に上がった。
プロキオンは軽く髭を整えると机に両前脚を置き、マイクに向かって口を開いた。
「皆様、お集まり頂きありがとうございますニャ。かつて我々は、利益を優先するあまり、地底の環境を汚染し、罪のない民を巻き込み醜い戦争を繰り返してしまいましたニャ。ねずみ族の世界を侵攻した際、ねずみたち、そして猫族の戦士たちは、我々の間違いに気付かせ、正しい道を示して下さいましたニャ。次なる太陽の時代では……、地球環境を守り、調和と共生し、恒久の平和を次の世代に残していく、そんな世界を皆様と築いて行こうと思っておりますニャ」
再び巻き起こる、可愛らしい拍手と歓声。
続いて、地底国ニャルザル代表オレオが壇上に上がる。マイクを手に取った彼は、力強い口調で話し始めた。
「これは、歴史的瞬間だ。強い者のみが勝ち残る時代から、優しき心を持つ者が世界をリードする時代になった。我々は思い知った。いかなる科学技術をもってしても、この地球の大自然は支配出来ない事を。いかなる作戦をもってしても、民の心は支配出来ない事を。その様な事をせずとも、民と共に力を合わせれば、我々は悦びと共に生きていける事に気付かされた。我々は神と、勇敢なる猫の戦士たち、そして我々の罪を許してくれたねずみ族、猫族に、大いに感謝申し上げたい」
またも可愛らしい拍手と歓声が起こると、最後にまたグレー猫へとマイクが手渡される。
「神様が我々に恩恵を与えてくださっているように、我々も、与え合えば良いのです。そして、感謝すれば良いのです。それこそが、神様のお望みになる世界です……。では、三者、握手を」
プロキオン総理大臣、オレオがそれぞれ右前脚を出したところに、チュータがぴょこんと飛び乗った。
直後、グレー猫が紫色の飲み物の入ったグラスを掲げ、声を上げる。
「それでは、ねずみと猫の友好を祝して、乾杯!」
「かんぱーーーーい!!」
乾杯の音頭と同時に、フロアの猫たちはテーブルの上に並べられた料理を、自分の皿に取り始めた。
(色々……あったんですね。私たちの世界のあらゆる国も、こんなふうに国同士仲良くやっていって欲しいです)
飛田はそう思いながら、ボーッと壇上を見つめる。
壇上では、プロキオンとオレオが料理を味わいながら、そしてチュータは中央に置かれた机の上でチーズを食べながら、何やら話し合っていた。
今後の政策についての話し合いや、取り決めなどが行われているのだろうか。
(猫さんの国もねずみさんの国も、ずっと平和に仲良くしていって欲しいですね……。それにしても、この場にいる人間は私だけですね。出されている料理、人間の私が食べても大丈夫なんでしょうか……)
そう思った矢先。
「ああ、ボトルが!」
飛田の後方で、瓶の倒れる音がした。
思わず振り返る。転がってテーブルから落下しようとする、ジュースのボトル。
飛田は身をかがめ、落下するボトルをキャッチした。幸い蓋がされていたため、中身はこぼれずに済んだ。
「ふう……、良かった。人間さん、ありがとうございます」
お礼を言ったのは——白衣姿の、初老のねずみだった。
ねずみだったが、サイズは猫や飛田と同じだった。彼は、ミランダにサイズ調整の魔法をかけてもらったのだろうか——?
軽く礼をした飛田は、ひとまずボトルを初老のねずみに渡した。
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