8.もふもふの国へ、ようこそ!


 地底奥深くにあるという、猫だけが暮らすもふもふの国——。

 戦争や災害が収束し平和が取り戻された事、そして猫族とねずみ族が手を取り合った事を記念する祝賀会に、飛田とびたも参加することになった。


「もっとたくさんの喋る猫さんたちがいるんですか……。夢のような国ですね……。うーん、本当にこれは、現実なのでしょうか……?」

「さあ、ミランダを呼んでワープゲートを出してもらうぜ。ワープゲートをくぐれば、そこは猫の国だ。楽しみにしとけ、優志まさし!」


 ゴマはそう言ってから、空に向かって「ミランダ、来てくれ!」と叫んだ。

 金色の光が現れると同時に、チョウのような羽を持つ風の精霊ミランダが現れる。


「優志くん、ねずみさんたちとのひと時はどうだった?」


 ミランダは、無邪気な笑顔で尋ねてくる。


「風の精霊ミランダさん……! はい、とても充実した時間でした。今からは、猫さんたちの国に行くんですよね?」

「うん! 地底都市“ニャンバラ”へ、ワープゲートを繋げるわね。それっ!」


 ミランダが手に持ったステッキのようなものを振ると、虹色に輝く円形の“ワープゲート”が、庭の地面に出現した。

 ゲートというより、3Dゲームなどでよく見かけるワープゾーンのようなイメージだろう。渦巻く7色の光を見ていると、吸い込まれるような不思議な気分になる。


 飛田の後ろには、9匹のねずみの家族と猫たちが、ずらりと並んでいる。


「じゃあ、最初はボクと優志から行くぜ。優志、飛び込め!」

「あ、はい!」


 飛田はゴマと共に、“ワープゲート”へと足を踏み入れた。

 周囲の景色が溶け、光に包まれていく——。



「す、……凄いです。全てが猫サイズの街ですか……」


 光が晴れ、飛田は周りを見渡した。


 地底にあるらしい、猫の街“ニャンバラ”。

 しかし地底である筈なのに、空にはオレンジがかった一回り大きな太陽が輝いている。空の色は淡いピンク色だ。様々な形の白い雲が浮かんでいるのは、地上のそれと同じだ。


 建物、道路、街灯、全てが猫サイズだ。植物は、地上に無いような形や色のものばかり。

 だが戦争の後ということらしく、建物のほとんどは無惨にも崩れ去っていた。祝賀会が開かれるという高級ホテルのような建物だけが、綺麗に残っている。


 全てが猫サイズの街なので、そこでの飛田は巨人のようになってしまっている。


「……しかし私がこのサイズですと、建物に入れないのでは……」

「優志、ミランダに頼んでボクらと同じサイズになるように、魔法をかけてもらえ!」


 飛田の足元で、本来の猫サイズになったゴマがぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 虹色に光る地面からは、次いで9匹のねずみの家族が到着。ねずみたちも、本来のねずみのサイズになっており、飛田の足元をちょろちょろと走り回っていた。

 チップが飛田を見上げながら何やらピーピー言っているが、声が小さ過ぎて聞き取ることが出来ない。


 ねずみの世界に来ていた猫たちもみんな到着したらしい。

 ミランダが飛田のところへと飛来した。

 ゴマに言われた通り、サイズ調整を頼むべくミランダに話しかける。


「あ、ミランダさん。このサイズだと建物に入れませんから……」

「優志くん、分かってるわ、優志くんもねずみさんたちも、猫さんたちと同じサイズにするわね! それーっ!」


 ミランダに虹色の光を浴びせられると、途端に周囲の景色がどんどん大きくなってゆく。違う。飛田が小さくなって、猫サイズとなったのだ。

 

 ねずみたちも、ミランダに虹色の光を浴びせられた。すると、ねずみたちの体が大きくなっていく。

 飛田もねずみたちも、猫たちと同じサイズになった。


「じゃああたしは帰るわ。あたしのことを知ってさえいたら、人間でも猫さんでもねずみさんでも、あたしを呼んでくれたらいつでも来るからね。“ワープゲート”が必要な時は、いつでも呼んでねっ!」


 そう言ってウインクしたミランダに、飛田は問いかける。


「……つまり、私も……ねずみさんたちの世界へは、“ワープゲート”でいつだって行けるということなのでしょうか?」

「もちろん! 、どこへだって行けるわ。ここニャンバラへも、優志くんの家からだって行けるわよ!」

「それじゃあ、これからはいつでもチップくんたちに会いにいけるんですね!」

「そういうこと! ちなみにねずみさんの世界では体のサイズが勝手にねずみサイズに調整されるけど、ここ猫の国はさっきみたいにサイズ調整が必要だから、覚えといてね。それじゃあまたねー!」

「ありがとうございます、ミランダさん!」


 これからは、チップくんたちといつでも会える。

 この猫の国にだって、いつでも行くことができる。

 湧き上がる嬉しさを噛みしめながら飛田は、先に行った9匹のねずみの家族を追いかけた。

 建物の入り口で、チップが待っている。


「優志兄ちゃん! 早く中に入ろうー!」

「はい! ……うわあ、本当に猫さんがいっぱいです!」


 建物の中に入った飛田の目に映ったのは——。

 ロビーで様々な種類の猫が、服を着て、二足歩行で歩き、お喋りしているという、これまた夢のような光景だった。


「んなとこで何やってんだ優志、チップ! 早く会場の中へ入るぞ」

「あ、ゴマくん!」

「うん! 早く入ろう! お腹すいたー!」


 ゴマに腕を引っ張られながら、飛田は祝賀会の会場となる大広間の扉をくぐった。

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