7.関西弁の猫、スピカちゃん登場!


「……という訳で、ボクら猫族のヒーローが大活躍したんだぜ。……ん? おいコラ優志まさし! 何居眠りしてやがんだ!」

「……あ、申し訳ないです……」


 ねずみの家の庭にある丸いテーブルで、飛田とびたは猫のゴマから“猫族がねずみの世界に来ている理由”を半ば強制的に聞かされていた。


「ちゃんと聞けよ! ったくよぉ。猫の国、地底国【ニャガルタ】の首都【ニャンバラ】の猫どもが、このねずみの世界を侵略しようとしたことがあったんだ。その後にニャガルタの隣国【ニャルザル】も、ねずみの国を狙ってやがったんだ」

「私が帰った後、このねずみさんたちの世界にそんな事が……。そもそもこのねずみさんたちの世界って、一体……?」


 ゴマは脚を組み、何故か得意げに話す。


「ボクらの住処の近くにある、神社の裏にある林ン中に、結界に守られた、何もかもが小っちゃな街があるんだ。そこが、このねずみの世界だ」

「結界に……?」

「ああ。ボクらが最初にここに来た時は、結界を通り抜けられる上にねずみサイズになれる秘密のトンネルを使って、ボクらはここに来たわけだ。今はミランダの【ワープゲート】で行き来してる。ま、長くなるからこの話は後だ」

「……不思議な事もあるもんですね……? 風の精霊ミランダさんとも、お知り合いなんですね。私もミランダさんのおかげでここに来れました」

「話を戻すぜ。地底に住む猫ども、“ニャガルタ”や“ニャルザル”の奴らが、その不思議なトンネルを使ったり、ミランダを脅してワープゲートを使わせたりして、ねずみの世界を侵略しようとしたんだ。それをボクら【星猫ほしねこ戦隊コスモレンジャー】が大活躍して、阻止したんだ……って話だ! 今はもう、“ニャガルタ”の奴らも“ニャルザル”の奴らも改心してるから、安心しろ」


 ねずみの世界が、地底に住むという猫たちに侵略されようとしていた。

 そして、ゴマが“星猫戦隊コスモレンジャー”という謎の(?)戦隊ヒーローの一員ということらしく、彼らがねずみの世界を救った——。

 予想もしなかった出来事が起きていたことを知り、飛田は思わず息を呑んだ。


「ねずみさんたちの世界を……ゴマくんたちが救ったんですか?」

「ウソじゃねえぞ。そういう理由で、ボクら猫族がここにいるって訳だ。それだけじゃねえぞ。さらにだな……」


 ゴマは自慢げに声のトーンを上げ、話を続ける。


「その後に悪神【ミラ】が呼び起こした4体の【厄災竜カラミティドラゴン】のせいで、地上も地底も、もちろん人間が住む世界も、メチャクチャにされかけちまったんだ。吹雪やら地震やら津波やら、大変だったんじゃねえか? ……だが、それもボクらの活躍で阻止できたんだ!」

「そういえば、私が住んでいる所は凄い吹雪でした。……悪神とかドラゴンとかはよく分かりませんが……、ゴマくん、色々活躍したんですね」


 ともあれ、ゴマたち“星猫戦隊コスモレンジャー”の活躍で、世界は守られた、ということらしい。

 

「それでねずみさんたちと地底の猫さんたちが、これから仲良くやっていこうということで、祝賀会が開かれるってことなんですね」

「そういうことだ。ま、このの勇者、【暁闇ぎょうあんの勇者ゴマ】がいるからにゃあ、世界は平和だ。にゃはは!」

「勇者……ですか」


 飛田はふと、夢の中で“勇者ミオン”として活躍したことを思い出す。飛田もまた、夢の世界“オトヨーク島”の“生命の巨塔”を修復し、“コハータ村”の住民を救った、勇者なのだ。

 その話をしようか迷ったが、ゴマには笑われそうな予感がしたので、別の話題を振った。


「……さっきゴマくんが言った“厄災竜カラミティドラゴン”……でしたっけ。そのドラゴン、どんなのだったんですか?」


 夢の中とはいえ“ミニドラゴン”と戦ったこともある飛田は、ゴマたちが戦ったドラゴンがどんなものかに、少し興味を持った。


「んーとな、風を操る腹の出た奴、火山にいた機械で出来た奴、やたらめったらデカい海にいた奴、……あと1匹は忘れた」

「え、忘れたんですか……?」


 と、そこに——。

 額に星形の模様のある白い猫が駆け寄り、話に割って入ってきた。

 ピンク色の長袖のセーター、そして同じピンク色だがやや淡い色調のスカートを身につけた、スマートな体型のメス猫だ。


「にゃー! ゴマあんたなあ、戦ったドラゴンの名前もう忘れてしもうたんか。【漆黒竜しっこくりゅうノア】、【ガイアドラゴン】、【大海竜だいかいりゅうニャンバリヴァイア】や! ほんで“ガイアドラゴン”は、最終的にウチらの味方になってくれたんやん!」

「ああ……そうだっけ?」

「もーゴマ、いくら平和が戻ったからって気ぃ抜けすぎやわー。あ、そこの人間さん? 初めましてやな?」


 訛りの強い白猫に、話しかけられた。


「……あ、初めまして。私は飛田とびた優志まさしと申します」

「ウチは【スピカ】。【暁光ぎょうこうの勇者スピカ】やで! よろしくやでー!」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 スピカのテンションの高さ、声の大きさに飛田は少々引き気味だった。

 だがスピカはなおも早口で、話を続ける。


「ほんであと1匹のドラゴンは、まだ倒してへんねんなー」

「ああ、そうだったな。眠ったままだから、ほっといてもいいだとか何とか言ってたっけ」


 ゴマが頭を掻いてそう言うと、スピカは庭に響き渡るほどの声を上げる。


「アホォ! これ以上地球の波動はどうが乱れてしもうたら、それに反応して4体目の厄災竜カラミティドラゴン、【邪竜じゃりゅうパン=デ=ミール】が目覚めてまうって話やったやん!」

「ああ、何かそんな話してたな?」

「“邪竜パン=デ=ミール”が目ぇ覚ましたら、っていう話やったやんか!」

「んー、何かよく分かんねえが、まあ大丈夫だろ。……それより、明後日の“ニャンバラ”での祝賀会、楽しみだな。なあ、優志?」


 飛田は、何となく予感がしたのだった。

 これから世界中で何か大変なことが起こり、世の中が大きく様変わりしてしまう。そんな気がする——。


 ♢


 飛田は、自然の中でねずみや猫たちと遊び、美味しいご飯を食べ、ぐっすりと眠り、のびのびとした時間を過ごし続けた。

 そして飛田がねずみたちの世界を訪れてから、3日目——。


 午後からは、地底にあるという猫の都市“ニャンバラ”で、“ねずみ族と、地底の猫族が手を取り合った事を記念する祝賀会”が開かれる。


 その祝賀会に、9匹のねずみの家族、猫たち、そして飛田も参加することになっている。

 どうやって行くかというと、飛田をねずみの世界へと“ワープゲート”でワープさせた風の精霊“ミランダ”に力を貸してもらい、みんなで地底の猫の国へとワープするという。


 猫だけの国、もふもふの国——果たしてどんなところなのだろうか——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る