3.猫の勇者との出会い


 コナラの木をくりぬいた、9匹のねずみの家族が住まう家の中。

 外の冷え込んだ空気とは打って変わって、薪ストーブの暖気が優しく飛田とびたを包み込む。


 そこに何と、二足歩行で歩き、服を着た猫が何匹もいたのである。何故か、ねずみたちとほぼ同じ背の高さだ。

 そして、ねずみたちと同じように言葉も交わしている。


「は、はじめまして、猫さん?」


 半ば無意識に、すぐ近くにいた白黒模様の猫に声をかけてしまった。

 すると……。


「おう、人間……優志まさしとやら。お前一体どうやって、またここに来たんだよ」


 白黒模様で、鼻のあたりにちょび髭のような黒い模様のある、白いシャツと青系の半ズボンを着たオス猫が、ガラガラ声で返事をした。


 なぜこの猫は、飛田の名前を知っているのだろう。また、なぜ飛田が以前にこの世界に来たことを知っているのだろう。そんな疑問はさておき、白黒猫の質問に答えるべく、飛田はしどろもどろになりながらも、事の顛末を説明することにした。

 9匹のねずみの家族も、飛田の話を聞きに集まってくる。


「……それはですね……」


 ——病気になり不安もあるけれど、“音楽家になるという夢を叶え、幸せな人生になりつつある”……。そう実感した日に、不思議な7色の光“ワープゲート”が部屋に現れ、そこをくぐると、再びこのねずみの世界を訪れることができた、ということ——。


 ——“ワープゲート”を作り出した“風の精霊ミランダ”によると、現在の飛田がたどり着いたねずみの世界は、大学生の頃の飛田がねずみの世界から帰った30日後。

 つまり21歳の飛田が帰って30日後に、37歳の飛田がねずみの世界に現れた、ということ——。

 

「……というわけなんです」

「ニャるほどな。よくわからねえな」


 白黒猫が、腕を組んで首を傾げる。

 飛田はかまわず、隣にいたねずみのおじいさんに話しかけた。


「……おじいさん、約束、果たしたましたよ! あの時からずいぶん、歳を取っちゃいましたけどね」


 21歳の当時、ねずみたちとの別れ際、“ステキな人生を生きる”と約束していたねずみのおじいさんに、右手を差し出す。


「ああ……、また会えて嬉しいよ、優志くん」


 ねずみのおじいさんもそっと右手を差し出してくれ、再会の握手を交わした。

 白黒猫はその様子を見て、相変わらず首を傾げている。

 続いて、ねずみの母親が話しかけてきた。


「優志くん、何だか痩せたんじゃない? しっかり食べて、元気出さなきゃ。優志くんは今だって、私たちの大事な家族なんだから。ずっと元気でいて欲しいのよ、ふふふ。この後みんなでパーティーするから、たくさん食べてってね」

「はい! ねずみのお母さん、ありがとうございます。久しぶりの美味しいごはん、楽しみです」


 すっかり嬉しくなり、思わず声のトーンが高くなる。


 ねずみの父親も、微笑みを湛えながら声をかけてきた。


「優志くんが来るの、このタイミングで本当に良かったね」

「え、ねずみのお父さん、このタイミングで……とは……?」


 首を傾げると、チップが無邪気に笑いながら応える。


「ま、色々あったんだよ。ね、【ゴマ】くん!」


(……ん? ?)


 飛田は、先ほど話しかけてきた白黒猫の肩をポンっと叩くチップを見て、ハッとする。

 “ゴマくん”と呼ばれた白黒猫が応える。


「……ああ、優志。詳しい事は後で話そう。ボクら猫族がここにいる理由もな!」

「……すごく興味あります。是非聞かせてください! あ、君の名前は、“ゴマくん”って言うんですか?」


 白黒猫に、思い切って尋ねてみた。


「ああ。【暁闇ぎょうあんの勇者】、【ゴマ】だ。しっかり覚えとけ、ハハハ」

「……え、勇者!? 猫の勇者……ですか? どういう事でしょう……? ……それよりも、やっぱり君は愛美さんのところの猫さんだったんですね!」


 愛美から送られてきた猫の写真と同じ柄だったので、この猫が愛美のもとから失踪したという“ゴマ”という名の猫だと、飛田は確信した。

 愛美の言う通り、確かに言葉を喋っている。


「ゴマくん! 愛美さんが心配してましたよ?」


 話しかけたが、ゴマは既にその場にはいなかった。さすがは猫、気まぐれな生き物だ。


「ねえ、この後は庭でパーティーがあるんだ。優志兄ちゃんも参加するよね?」


 入れ替わるように、チップに話しかけられる。


「あ……はい。せっかくですから、じゃあ参加させてもらいますよ」

「やったあー!」


 猫とねずみのパーティーが、この後に庭で始まるという。

 

 9匹のねずみたちの家の中にいたのは、生まれたばかりの子猫も含めて総勢35匹もの猫たち。

 鎧やかぶとを身につけていたり、魔法使いのようなローブを着ていたり、個性豊かな猫たちが、ワイワイガヤガヤと談笑している。

 そのさまを、飛田は夢見心地で見ていた。

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