〜STAGE2.猫戦士たちと共に、新型ウイルスのパンデミックを阻止せよ〜

1.しゃべる猫!?


 ここまでのあらすじ——。


 腹痛で倒れ意識を失った飛田優志とびたまさし(京都府在住、37歳)は、魔王に支配されたにおいて、勇者ミオンとして活躍。魔王軍に破壊された“生命の巨塔”を修復した。

 目が覚めたら、飛田は救急病棟にいた。胆石症と診断されたのち、症状が落ち着いたので病院から帰ってきた。


 帰宅後、子供の頃に読んだ“9匹のねずみの絵本”を開いた飛田は、大学生の頃に見た不思議な夢を思い出す。

 それは——ねずみの絵本の世界に行き、9匹のねずみの家族と暮らす——というものだった。

 過去を懐かしみながら、9匹のねずみの家族の次男“チップくん”とまた話したいと思い、飛田は絵本を閉じた。


 その後飛田は、ニュースで『謎の新型肺炎が発生した』という記事を目にする。


 ————————


 12月23日——。


 胆石症の手術を宣告されたものの、その日以来は痛みもほとんどなく、飛田の体調は日に日に良くなっている。このまま治るんじゃないかとすら思えるほどであった。


 やはり、夢の中の異世界【オトヨークとう】における健康の象徴、【生命の巨塔】を直したからであろうか。そもそも、あれはただの夢だったのだろうか——。

 しかし最近の飛田は、夢自体を全く見ていないのだった。


「……また、あの世界に行けるものなら行ってみたいです。勇者として戦うのも……なかなか面白い体験でした。ラデクくん、サラーさん……いい子たちでした。また会いたいです。今夜こそ、また会えるでしょうか。会えますように」


 飛田はそう口に出して願うと、電灯を消し、眠りについた。



 朝——。

 残念ながら、その日も夢を見ることはなかった。

 仕事はお休み。飛田の体調が快復するまでは、しばらく休ませてもらうことになったのである。年末の繁忙期なので、飛田は申し訳なく思った。


 仕事を休むようになってから、飛田は寝たいだけ寝て、日中は好きなアニメを見るなどして、のんびりゆったりと過ごした。「ああ、何と穏やかな日々なのか」と実感する。今までいかにストレスを溜めていたかを、思い知ったのだった。

 母が送ってくれた野菜を、鍋にしたりして食す。ジャンク食品ばかり食べていた飛田には、旬の野菜の瑞々しい味が沁み渡った。

 これからは身体にしっかり気を使おうと、飛田は決意する。


(運動もしなきゃですね。……外はまた吹雪ですか)


 外は猛烈に吹雪いていた。

 飛田が住んでいる地域では、積雪は年2回程なのに、この年は毎日のように雪が降る。異常気象だ。それに……。


(……また揺れました。最近ほんとに多いですね)


 地震も、頻発している。震度3〜4の揺れが、ここ最近毎日2〜3回起きている。

 近年は、以前になかった現象や事件が増えてきている。「地球も病気にかかってるんじゃないか」と、飛田は思ったのだった。

 

 せっかくのんびり過ごせるようになったのに、不穏なニュースを見るたびに心がざわつく。こんな時は、友人と話すに限る——。

 飛田は、数年前に動画で使用するBGMの作曲を依頼を受けて以来仲良くなった、7つ歳上の【稲村いなむら 誠司せいじ】に、連絡を取ることにした。

 稲村は群馬県に在住の設計技師。最後に会ったのはちょうど1ヶ月前である。


 稲村からすぐに返事が来て、夜に電話をすることになった。

 飛田はベッドに寝転びイヤホンをつけ、通話ボタンを押す。


『……もしもし。おー優志まさしー! どうした、元気か?』


 鼓膜に響くほどの大声で、思わずイヤホンを片方外してしまう。音量ボタンを2つ下げてイヤホンを着け直し、返事をする。


「いなちゃん、久しぶりですね! いやあ、1回倒れて病院送りになったけど、今は元気ですよ」


 稲村は、毎日ハードに働き、夜遅くまで酒を飲むような生活を続けているらしい。脂肪の含む食べ物も大好き。そのため、身長は180センチメートル、体重90キログラムという肥満体型である。にも拘らず、大きな病気を経験したことはないという。


『おいおい、大丈夫かよー。ストレスとか溜まってたんじゃないか? 誰かに話とか聞いてもらうだけでも全然楽になると思うぜ』

「いやあ、聞いてもらいたいですけど、みんな自分のことで精一杯でしょうし……」


 同級生のように仲の良い稲村と話す時間は、あっという間だった。気付けば時刻は0時を過ぎている。身体を気遣うため、飛田はそろそろ話を切り上げ、眠りにつこうとしていた。

 ——が、稲村は話題を変える。


『そうだ、あの時ついででうちの娘に勉強を教えてくれてありがとうな。受験、受かったって』

「おー! 【愛美あいみ】さんでしたっけ。おめでとうございますって伝えといてください」

『娘も、ありがとうございましたって言ってたよ。優志のこと、飛田先生だなんて呼んじゃってさ。また話したいってよ。LINE送らせていいか?』

「もちろんですよ。じゃあ私も身体も大事にしなきゃいけないですから、そろそろ寝ます。遅くまでありがとうございます」

『ああ、俺も話せて楽しかった。お大事にな!』


 通話ボタンを切ると、途端に外からの風の音が耳に入る。まだ吹雪いているようだ。

 話をしてスッキリとした気持ちを忘れぬうちに、早く寝ることにした。



 翌日。やはり、夢は見ていない。

 窓から、やわらかな陽射し。雪は止み、久々の晴れた日だ。


 朝食を済ませスマホを見たら、LINEの通知が来ていた。


(……お、いなちゃんの娘さんからですね)


 トークルームを開き、稲村の娘——愛美あいみからのメッセージを確認した。

 名前が“Aimi(沢山の絵文字)”になっており、トークルームを開くと今風の音楽が流れる。


『飛田先生、お久しぶりです(沢山の絵文字)! 先生のお陰で合格できました! ありがとうございます(*´ω`*)』


 飛田は、絵文字をたくさん入れると“オジサン構文”になってしまうことを気にして、絵文字顔文字を一切入れずに、「おめでとうございます! 努力が実ったんですね」とだけ返した。

 数分後、返信が来る。


『はい! ありがとうございます(笑う絵文字)

 あ、聞いてくださいよ(ぴえんの顔絵文字)』

『前にうちのガレージに猫が来てたって話したじゃないですか(いくつかの絵文字)』


 立て続けに送られる返信に、飛田は黙々と、「はい。ムーンとかゴマとかって名前の猫ですよね」と、返す。

 1分経たずして、愛美から返信が来る。


『最近大きな地震があったじゃないですか、ケージに入れて避難所へ行こうとした時、ゴマが、言葉を喋ったんですよ(びっくりの顔絵文字)』


 愛美が何を言っているか理解出来ない飛田は「え?」とだけ返す。


『そしたら今度はケージの中が虹色に光って、ゴマが消えちゃったのね(泣く顔絵文字)

 せっかく懐いてくれたのに、どこ行っちゃったんだろうって(泣く顔絵文字)』

 

 何と返したらいいか分からず、既読放置したままベッドに寝転がってしまう。


「……おかしなことばかり起きますね、本当に……」


————


※ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


喋る猫の正体、気になる——!


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