14.白き、“生命の雨”


 ラデクくんを無事に帰すって、メルルさんと約束したのに——。

 幼い頃からラデクくんの面倒を見ていたサラーさんの気持ちは——。


 やりきれない思いを噛み締めていると、またも飛田ミオンの全身に、白い光が宿り始めた。


「サラーさんに謝ってください……! “ドルチェ”ッ!」


 抑えきれぬ悲しみと共に、白き魔法弾が放たれた。

 魔法弾はピノを的確に捉え、直撃。


「ぴのーーーーッ!?」


 火花が舞い散る。

 “ドルチェ”をまともに喰らったピノは、レンガの山を転がり落ち、地面にぶつかった。


 飛田ミオンは涙を流しながら、ラデクの亡骸にそっと手を置いた。もうピクリとも動かない、少年剣士。

 ピノはそんな悲しみなどどうでも良いかのように、わめき散らす。


「……よ、よくもやったなぴの! お前たちもすぐに“サイクロン・ジェット・キャノン”でぶち殺してやるぴの! ファイヤーぴの! どっかーーーーん!!」


 前歯を出しながら悔しげに地面の上を飛び跳ね続けるピノの前で、サイクロン・ジェット・キャノンの砲身がウイーンと音を立てて動く。砲身は飛田ミオンへと向けられた。


 その時——!


 飛田ミオンのポケットの中にあった2つの“ゴールデン・オーブ”が、眩いばかりの黄金の光を放つ!


「うわっ! 何ですか、これは!」


 ポケットの中から弧を描くように黄金の光が放たれ、倒れているラデクを包み込む。そして、曙光しょこうのような輝きを放った。


「ラデクくん!?」


 光が消えると——何とラデクは、元気な姿で立っていたのである。怪我も、完全に治ってしまっている。


「ラデクー……? ラデクーーーー!」

「サラー? ……? 僕、生きてたの……?」


 サラーはラデクのもとに駆け寄り、きつくきつく抱きしめた。巨大なおっぱいに、またも顔を挟まれるラデク。


「ラデクー……うわーん……良かったよーー」

「サラー……息ができないよ……でも、みんなも無事で良かった!」


 ラデクを生き返らせた“ゴールデン・オーブ”の光は——今度はエネルギーを溜め始めた“サイクロン・ジェット・キャノン”の方へと向かって行った。

 黄金の光が、“サイクロン・ジェット・キャノン”に直撃! スパークするように何度も火花が炸裂し、機体は崩壊していく。


「ぴのー!? サイクロン・ジェット・キャノンが!!」


 “サイクロン・ジェット・キャノン”は、地響きが起こるほどの音を立てて爆発、消滅した。

 ピノは爆発で吹き飛ばされ、何度もでんぐり返りをしたのち、地面にのびてしまった。


「す……凄いです。これが“ゴールデン・オーブ”の力……」


 信じがたい光景に、飛田ミオンは思わず両手を握りしめた。

 起き上がったピノは悔しげに顔を歪めながら、捨て台詞を吐く。


「お……覚えてろぴのーーーー!!」


 ピノは慌ただしくトコトコと走り去り、ダイゴの森の中へと姿を消した。



「じゃあ、“ゴールデン・オーブ”を塔に戻しましょう」


 飛田ミオンは崩れた“生命の巨塔”に向かい、2つの“ゴールデン・オーブ”を取り出した。


「でもこれ、どうすればいいのでしょう? また元の大きさに戻るのでしょうか?」

「ミオン様、奪われる前と同じように、塔の右と左の両脇に置いてみたら?」

「分かりました。やってみます」


 飛田ミオンはラデクに言われた通り、“ゴールデン・オーブ”を1つずつ、崩れた“生命の巨塔”の左右両脇にそっと置いた——。


 すると!

 2つの“ゴールデンオーブ”は眩いばかりの輝きを放ちながら、みるみるうちに巨大化していく!


 次の瞬間——“生命の巨塔”の根本に、たくさんの植物の芽が出現。それは瞬く間に茎となり、葉を茂らせ——塔の根本はみるみるうちに、ジャングルと化す!


「うわわ、何だ!?」

「ちょっと離れて見てみましょう、ラデクくん」

「うん!」


 崩れ落ちたレンガが宙に浮かび、みるみるうちに“生命の巨塔”が修復されていく。

 そればかりか、塔全体がぼんやりと赤い光を帯び始め、さらにムクムクと巨大化していく。


 塔の根本のジャングルはボーボーと茂っていき、塔の右脇と左脇にある巨大化した“ゴールデン・オーブ”は、力強い生命力を感じさせるような黄金色の輝きを放つ——。


「綺麗ねー。あれが“生命の巨塔”の、本来の姿なのねー」

「すっげえ! すっげえや! やったな、勇者ミオン様!」

「……命がけの旅が、報われたんですね」


 完全に修復された“生命の巨塔”はルビーの如く真っ赤に輝き、高さは約50メートル、横幅は約15メートルにまでムクムクと巨大化。左右の“ゴールデン・オーブ”も同じく巨大化し、より一層、黄金の輝きを増していく。

 やがて塔の上部が、卵のような形に膨れ上がっていった。


「……ん? 見て、ミオン様! 先っちょから、何か出てるよ!」

「本当ですね! 何でしょう……あの白い液体は……?」


 卵形に膨れ上がった“生命の巨塔”の先端から、乳白色の水が勢い良く噴き上がった。

 そして雨の如く、乳白色の水が降り注ぐ——。


「勇者ミオン様ー! よくやってくれました! “生命の巨塔”が見事、修復されましたな!」

「マーカスさん! ……そのコップは?」

「ほれ、皆様のぶんのコップです。【生命の水】をコップに溜め、お飲みください。みるみるうちに病気が治り、体調も良くなりますぞ!」


 “生命の巨塔”の先端から噴き出し、降り注いでいるのは、病を癒す“生命の水”だ。


 飛田ミオン、サラー、ラデク、マーカスはコップをかかげ、降り注ぐ“生命の水”をコップの中に溜めた。

 飛田ミオンはマーカスに言われた通り、思い切って、ごっくん、と乳白色の水を飲み干す。


「……ぷはあー! これは美味いです! 身体に沁み渡ります! ……あれ? 痛みが消えました……!」


 飛田ミオンの脇腹の鈍痛が、嘘のように消えて無くなってしまった。

 同じように、サラー、ラデク、マーカスも、ごっくん、ごっくん、ごっくんと、“生命の水”を飲み干した。


「あらー、すごく血の巡りが良くなった気がするー!」

「すっげえ! 喉と胸が、楽になった!」

「おおーう、腰の痛みが消えました。娘にも、早く飲ませてやらねば!」


 彼らの持病も、次々と治っていく——。


 その後、森の出口からコハータ村の住民たちが、歓声を上げながらこぞってやって来た。

 みんなしてコップを掲げ、降り注ぐ“生命の水”を汲み、飲み干し始める。


 ごっくん

 ごっくん

 ごっくん——。


「腹痛が治ったー!」

「髪が、また生えてきたー!」

「不安と鬱が……吹き飛んだわ!」

「万歳ー! “生命の巨塔”、万歳ー!」


 噴き上がる“生命の水”に、太陽の光が射し込む。

 “生命の巨塔”の上には、大きな虹が架かったのだった——。



————————


※ お読みいただき、ありがとうございます。


ラデクくん、生きてて良かった!

生命の巨塔、生で見てみたい!

“生命の水”、飲んでみたい!


そう思ってくださいましたら、

★評価、フォローを是非お願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る