13.魔王の手先
朝7時40分。
宿屋の食堂で、
「ほんとに、2人とも無事で良かったですよ。ありがとうございます、ミオン様」
ラデクの母親メルルに、頭を下げられる。何度かピンチには遭ったが、ラデクの無事な姿をメルルに見せることが出来た。
しかし、まだこれで終わりではない。
今日はいよいよ、2つの“ゴールデン・オーブ”を、“生命の巨塔”へ返還しに行くのだ。
道中のダイゴの森には
「“生命の巨塔”に“ゴールデン・オーブ”を返還するまで、ラデクくんは必ずお守りします!」
「ミオン様、ちゃっちゃと終わらせちゃおうぜ! じゃあ行ってくるよ、母さん!」
「ラデク、念願の勇者様との冒険……叶って良かったわね。気をつけて行ってきてね」
朝8時——。
サラーと合流した
メルルがお小遣いとしてくれた
「これで、どんな敵が出てきてもへっちゃらだぜっ!」
「塔へは森を抜けてすぐだけどねー。でもー、念には念をー、ねー」
「そうですね。気を抜かずに行きましょう。では、ダイゴの森へ出発しましょう」
「森が……枯れ始めてますね」
緑いっぱいだった森の木の葉はほとんどが黄色くなり、幹が腐り落ちて倒れてしまった樹木もある。森の動物の死骸もそこかしこに見受けられる。なのに、“スライム”や“ガイコツ”などの魔物だけは、元気に動き回っている。
「急がなきゃね。勇者ミオン様、一気に森を抜けよう!」
「……そうですね」
3人は襲い来る魔物を避けながら、森の出口を目指して走った。
走れば意外と、森の出口まではすぐだった。
「……森を出ましたね。ラデクくん、喘息は大丈夫ですか?」
「ハァ、ハァ……。昨日よりはマシだよ。ミオン様の“プチヒール”のおかげさ、へへっ」
「さあー、早くゴールデン・オーブを塔に戻しましょー!」
“生命の巨塔”は相変わらず無惨な姿で、塔の根本には、崩れたレンガの山があった。
その時だった——!
「あんたたちぴのね! せっかく回収した“ゴールデン・オーブ”を持ってったのは! 許さないぴの!」
崩れたレンガの山から、何やら可愛らしい声が響いた。
「……ん? 誰でしょう?」
レンガの山の上には、目黒色の体毛に覆われた小さき謎の生物の姿があった。
ハムスターのような大きさと姿で、しかし頭にはウサギのような形の耳を持ち、クリクリとした目の生き物が、ピョンピョンと飛び跳ねていた。
「魔王様の手先、【ピノ】だぴの! 魔王様の命令で村の奴らを病気にするために、せっかく“ゴールデン・オーブ”をミニドラゴンに運ばせたのに! お前たち、ぶっ潰すぴのー!」
ピノは飛び跳ねながら高く可愛らしい声を響かせた。
直後。
突然、
「何なんだあのチビは! そして何なんだよこの兵器は!」
「装備ー、整えておいて良かったわー。念には念をってー、大切ねー!」
「……すごく危なそうな兵器ですね……。ラデクくん、サラーさん、気をつけましょう!」
砲台はウィーンと音を立てて自動的に動き、サラーに狙いを定めた。
「キャハハ! 【サイクロン・ジェット・キャノン】、ファイヤーぴの! どっかーーん!!」
“サイクロン・ジェット・キャノン”は砲身にエネルギーを溜めていき、青白く輝く光線を、サラー目掛けて放射した!
「……サラー、危ないッ!」
「ラデクー!?」
「ラデクくんっ!」
ラデクは革の盾を構え、サラーの前に飛び出した!
光線がラデクに直撃する——!
白い閃光が辺りを照らし、いくつもの火花が飛び散る。衝撃で
「くっ……ラデクくん!」
「ラデクーー!?」
煙が晴れると——そこには血を流して倒れているラデクの姿。
「ラデクくん! しっかり……“プチヒール“ ”!」
目を覚ましたラデクはガクガクと震えながら頭だけを上げ、口から血を流しながら声を絞り出した。
「サ……ラー……は……無事……?」
脳裏によぎる、何とも嫌な予感。
両手で顔を覆って震えるサラーが視界に入る。
「ラデクくん……! ラデクくんは、サラーさんのことを本当に大切に想ってるんですね……!」
「そ……そんなんじゃないやいッッ! ……ぐふっ」
「ラデクくん!?」
目を閉じたと思ったら、ガクリ、と頭を垂れたラデク。
「ラデクー……? 嘘でしょー? ラデクーーーーッ!!」
————————
※ お読みいただき、ありがとうございます。
い!
ピノめ、許せん……!
ラデクくんの優しい気持ち、無駄にしないでほしい……!
そう思ってくださいましたら、
★評価、フォローを是非お願い致します。
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