13.魔王の手先


 朝7時40分。

 宿屋の食堂で、飛田ミオンとラデクは、朝食のピザトーストを味わっていた。


「ほんとに、2人とも無事で良かったですよ。ありがとうございます、ミオン様」


 ラデクの母親メルルに、頭を下げられる。何度かピンチには遭ったが、ラデクの無事な姿をメルルに見せることが出来た。

 しかし、まだこれで終わりではない。

 今日はいよいよ、2つの“ゴールデン・オーブ”を、“生命の巨塔”へ返還しに行くのだ。


 道中のダイゴの森には然程さほど強い敵はいないが、念には念をということで、再び飛田ミオン、ラデク、サラーの3人パーティーで、“生命の巨塔”へと向かうことになっている。


「“生命の巨塔”に“ゴールデン・オーブ”を返還するまで、ラデクくんは必ずお守りします!」

「ミオン様、ちゃっちゃと終わらせちゃおうぜ! じゃあ行ってくるよ、母さん!」

「ラデク、念願の勇者様との冒険……叶って良かったわね。気をつけて行ってきてね」


 朝8時——。

 サラーと合流した飛田ミオン、ラデクは、村内の店へと向かった。新しい武器と防具が仕入れられたとのことだ。

 メルルがお小遣いとしてくれたゴールドで、【鉄の剣】2つ、【魔道士の杖】1つ、【革の帽子】2つ、【革の盾】2つ、【銅の鎧】2つ、【絹の羽衣】1つを購入。


「これで、どんな敵が出てきてもへっちゃらだぜっ!」

「塔へは森を抜けてすぐだけどねー。でもー、念には念をー、ねー」

「そうですね。気を抜かずに行きましょう。では、ダイゴの森へ出発しましょう」


 飛田ミオンたちは、意気込んでダイゴの森へと出発した。

 


「森が……枯れ始めてますね」


 緑いっぱいだった森の木の葉はほとんどが黄色くなり、幹が腐り落ちて倒れてしまった樹木もある。森の動物の死骸もそこかしこに見受けられる。なのに、“スライム”や“ガイコツ”などの魔物だけは、元気に動き回っている。


「急がなきゃね。勇者ミオン様、一気に森を抜けよう!」

「……そうですね」


 3人は襲い来る魔物を避けながら、森の出口を目指して走った。

 走れば意外と、森の出口まではすぐだった。


「……森を出ましたね。ラデクくん、喘息は大丈夫ですか?」

「ハァ、ハァ……。昨日よりはマシだよ。ミオン様の“プチヒール”のおかげさ、へへっ」

「さあー、早くゴールデン・オーブを塔に戻しましょー!」


 “生命の巨塔”は相変わらず無惨な姿で、塔の根本には、崩れたレンガの山があった。

 飛田ミオンは鞄から2つの“ゴールデン・オーブ”を取り出し、崩れ落ちた塔へと駆け出した。


 その時だった——!


「あんたたちぴのね! せっかく回収した“ゴールデン・オーブ”を持ってったのは! 許さないぴの!」


 崩れたレンガの山から、何やら可愛らしい声が響いた。


「……ん? 誰でしょう?」


 飛田ミオンは目を凝らす。

 レンガの山の上には、目黒色の体毛に覆われた小さき謎の生物の姿があった。

 ハムスターのような大きさと姿で、しかし頭にはウサギのような形の耳を持ち、クリクリとした目の生き物が、ピョンピョンと飛び跳ねていた。


「魔王様の手先、【ピノ】だぴの! 魔王様の命令で村の奴らを病気にするために、せっかく“ゴールデン・オーブ”をミニドラゴンに運ばせたのに! お前たち、ぶっ潰すぴのー!」


 ピノは飛び跳ねながら高く可愛らしい声を響かせた。

 直後。

 突然、飛田ミオンたちの目の前の地面が割れていき、地中から直径4メートルほどの四角形の台座に載った、巨大な砲台が現れた。


「何なんだあのチビは! そして何なんだよこの兵器は!」

「装備ー、整えておいて良かったわー。念には念をってー、大切ねー!」

「……すごく危なそうな兵器ですね……。ラデクくん、サラーさん、気をつけましょう!」


 砲台はウィーンと音を立てて自動的に動き、サラーに狙いを定めた。


「キャハハ! 【サイクロン・ジェット・キャノン】、ファイヤーぴの! どっかーーん!!」


 “サイクロン・ジェット・キャノン”は砲身にエネルギーを溜めていき、青白く輝く光線を、サラー目掛けて放射した!


「……サラー、危ないッ!」

「ラデクー!?」

「ラデクくんっ!」


 ラデクは革の盾を構え、サラーの前に飛び出した!

 光線がラデクに直撃する——!

 白い閃光が辺りを照らし、いくつもの火花が飛び散る。衝撃で飛田ミオン、サラーは吹き飛ばされた。


「くっ……ラデクくん!」

「ラデクーー!?」


 煙が晴れると——そこには血を流して倒れているラデクの姿。


「ラデクくん! しっかり……“プチヒール“ ”!」


 飛田ミオンはラデクの元へと駆け寄ると、手をかざし、エメラルドグリーンの光をラデクに当てる。

 目を覚ましたラデクはガクガクと震えながら頭だけを上げ、口から血を流しながら声を絞り出した。


「サ……ラー……は……無事……?」


 飛田ミオンは目に涙を溜めながらラデクの頭を支え、エメラルドグリーンの光を必死に当て続ける。

 脳裏によぎる、何とも嫌な予感。

 両手で顔を覆って震えるサラーが視界に入る。


「ラデクくん……! ラデクくんは、サラーさんのことを本当に大切に想ってるんですね……!」

「そ……そんなんじゃないやいッッ! ……ぐふっ」

「ラデクくん!?」


 目を閉じたと思ったら、ガクリ、と頭を垂れたラデク。

 飛田ミオンの背中に、冷たい汗がじわりと滲んだ。


「ラデクー……? 嘘でしょー? ラデクーーーーッ!!」


 飛田ミオンの必死の介抱も虚しく——ラデクはそれから目を開くことも口を開くことも、なかった。



————————


※ お読みいただき、ありがとうございます。

い!


ピノめ、許せん……!

ラデクくんの優しい気持ち、無駄にしないでほしい……!


そう思ってくださいましたら、

★評価、フォローを是非お願い致します。


 

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