9.竜の洞窟へ
今の自分の強さでは恥ずかしい。もっと体を鍛え、強くならねば——。
「ふうー、
「ゲホッ……そうだね」
ラデクは相変わらず、辛そうだ。もしも喘息の発作が出ては大変である。
喘息で使われる薬には、短時間作用性β2刺激薬、テオフィリン薬、アドレナリン薬など。そして発作には吸入ステロイド薬が必須だと、飛田は医師から教わったことがある。が——この世界に、そんなものは無い。
救急車も無ければ、大病院も無い。
「……薬草も多めに買っておいた方が良さそうですね。私の
「そうねー。じゃあ
「そうしよっか……ゴホッ」
話し合いの結果、3人の
「へい、らっしゃい!」
まずは武器屋へ。
「いらっしゃいませ〜」
次に防具屋。コハータ村で買える最も丈夫な革の鎧は、
露出していた肌が隠れ、怪我の心配は少なくなった。が、自慢のセクシーボディがローブに隠れてしまったためか、サラーはどこか残念そうだ。
最後は道具屋。
薬草を買えるだけ買い、【ワープゲートの素】という名の、ガシャポン大の謎の玉も、2つ購入。
「あの……ワープゲートの素って、何ですか?」
「これはねー、地面に投げると玉が割れて光る空間が出てきてー、そこに入ると今まで行った場所ならどこへでも一瞬で行ける便利なアイテムなのよー。行きたい場所を口に出せばー、そこへワープできるのー」
「ほう……不思議な物ですね。使うのが楽しみです」
「じゃあー、一旦
買い物を済ませた3人はサラーの家へと戻り、新鮮野菜のサラダとスープを食した。
♢
いよいよ、“竜の洞窟”に向かう。
コハータ村を出て、ダイゴの森とは反対方向の山の方へと、3人は歩みを進めて行った。
サラーは一歩足を進めるたびに、豊満な胸が揺れる。
ラデクは相変わらず、息苦しそうだ。顔色も良くない。
「ゲホッ、ゴホッ……」
「ラデクー、無理しちゃダメよー。お姉さんが抱っこしてあげるー」
「やめろよサラー! 子供じゃないんだから!」
「うふふ、やっぱり可愛いわねー! ぎゅーさせてー」
「むぎゅ……だから息ができないからやめろって! 喘息が悪化する!」
……が、スライムやガイコツは近くをウロウロしているのに、襲ってくる気配はない。
それどころか、
その様子を見たラデクが得意げに言う。
「僕らの強さに、恐れをなしたんだ。このまま洞窟の魔物も蹴散らしてやる! ……ゴホッ」
一方サラーはつまらなそうに、頬に人差し指を挿していた。
「みんな私の魔法で黒焦げにしてあげようとー、楽しみにしてたんだけどなー。まあー、竜の洞窟にはー、もっと強いのがいるでしょうしー、楽しみは後回しってことかしらー」
勇者としての使命。未知の魔物と戦う不安。いつ悪化するか分からない脇腹の痛み。まだ幼いラデクを預かる責任感。サラー、ラデクの持病が悪化した時に、ちゃんと冷静に対処できるか——。
「……くっ」
「勇者ミオン様! どーしたの!?」
「あらー、顔色悪いわよー。薬草使うー?」
「……いや、大丈夫です……」
ストレスで、脇腹が痛む。その痛みがさらに不安感を膨れ上がらせ、また痛みが増す悪循環——。
こんなことで、無事に冒険を続けられるのだろうか——?
結局1度も魔物に襲われないまま、3人はコハータ村から約1キロの場所にある山の麓に大きく口を開けた、“竜の洞窟”の入り口にたどり着いた。
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