10.病人パーティーのチームワーク


 飛田ミオン、ラデク、サラーは、“竜の洞窟”の中へと足を踏み入れた。

 急にひんやりとした空気になる。3人の目の前には、左方向に曲がった一本道の上り坂。


 水が滴り落ちる洞窟の坂道をひたすら登っていく。一本道の登り坂は、左曲がりの螺旋状になっている。

 時折、ギャーギャーという不気味な鳴き声が響いてくる。


 魔物の襲撃に備え、3人は武器を構えたまま歩いていく。

 10分ほど歩いた頃だろうか。

 3人の前方から突然、4匹のコウモリが現れ、突撃してきた!


「わっ! 【吸血コウモリ】の群れだ! 気をつけろ!」


 ラデクは銅の剣を振りかざす。

 飛田ミオンとサラーも武器を構え、戦闘態勢に入った。


「練習の成果を見せましょー。2人とも、いくわよー」

「……はい! 必ずここを切り抜けましょう」


 飛田ミオンは飛来する吸血コウモリたちに狙いを定め、銅の剣を一振りした。

 剣は、吸血コウモリにまとめてヒット。墨のような黒い体液が飛び散り、コウモリの死骸が地面に落下した。


「すげえや! さすがは勇者ミオン様!」

「あらー、やるじゃなーい」

「か……勝てました……。ですが、グロテスクです……」


 だが——まだ終わりではなかった。

 戦いの音を聞きつけ、棍棒を持ちトンガリ帽子を被った身長140センチメートルほどの【ゴブリン】が3体、飛田ミオンたちの前方から現れた。


「……まだ、いたんですか!」

「勇者ミオン様、ここは僕が!」

「私も、やるわよー!」


 ゴブリンたちは棍棒を振り上げ襲いかかってきたが、その前にラデクが剣を構え、ダッシュ! 3体のゴブリンの腹部に、剣がヒットする!

 その間にサラーが“プチファイア”の呪文を詠唱。直後、火の玉が3匹のゴブリンに向けて流れ星の如く飛んでいく。

 ゴブリンたちは、瞬く間に火だるまになる。


「ギェェェーー!!」


 光となって消滅した吸血コウモリとゴブリン。魔物たちがいた場所には、銀貨7枚と1つの宝箱が残されていた。


「よく頑張ったわねー、ラデク。お姉さんがナデナデしてあげるー。よしよし」

「こ、このくらい楽勝だい! もう子供じゃないんだから、そーいうのはやめろよ!」


 仲良しなサラーとラデクを見て、ほんわかする飛田ミオン

 死にゆく魔物を見たショックと、いつか自分も同じように死ぬかもしれないという恐怖が、ほんの少しだけ緩和される。


 魔物たちが落とした70Gと宝箱の薬草を拾った3人は、さらに奥へと足を進めていった。


「シッ。何か来るぞ!」


 ラデクは剣を構え、足を止める。

 ドンドンという足音が、右曲がりの道の奥から段々と近付いてくる。

 そして姿を現す、足音の主。


「あれは、【ホブゴブリン】! 気をつけろ! 強いぞ!」


 ラデクは顔をしかめながら身構えたので、飛田ミオンも思わず剣を構えた。

 ホブゴブリンは、先程戦ったゴブリンよりも一回り大きく筋肉隆々で、ズッシリ重そうなバトルアクスを持っている。刃先はしっかり研がれて、喰らえば怪我では済まなさそうだ。


 ブンと、バトルアクスを空振りするホブゴブリン。

 ガキン、と音を立ててアクスが地面に当たり、土の破片が辺りに飛び散る。


「うわあ!」


 もし腕に今の攻撃を喰らえば、腕ごと吹っ飛んでしまってもおかしくない。

 薬草で治せるとはいえ、一瞬の大怪我でも精神的に大きなショックを受けるだろう——そう予感した飛田ミオンは、剣を構えたまま後退あとずさりした。


「勇者ミオン様、大丈夫!?」

「さすがに、アレは……私には無理です。ここは、遠距離攻撃が得意のサラーさん、お願いできますか?」

「わかったわー、勇者様! 任せてー」


 サラーは先程と同じように、“プチファイア”を唱え、火の玉を2発、ホブゴブリンに向けて飛ばした。——が。


「あれー、防がれたー」

「そんな!」


 ホブゴブリンは巨大なバトルアクスの刃の部分で、飛来した火の玉を全て防いでしまったのだ。


 少しずつ、飛田ミオンたちのところへと迫るホブゴブリン。


「……ここは、勇気を出して斬りつけるしかない!」

「待って下さい、ラデクくん! 大怪我したら大変ですよ!」

「薬草があるから大丈夫! 勇者ミオン様、薬草1枚もらうね! 行くぞ! 覚悟しろ、ホブゴブリン!」

「……ラデクくんっ!」


 ラデクは剣を構えたまま、ホブゴブリンの元へと闘牛の如く突っ込んでいった。

 ラデクの渾身の斬撃が、ホブゴブリンの腹部にヒット! 同時に、ホブゴブリンのバトルアクスがラデクの肩にカスった。ラデクの肩から血が飛ぶ。


「……っえ!」

「ラデクくん!」


 ラデクはすぐさま、薬草を自身の肩に貼り付けた。エメラルドグリーンの光が蝶のように舞い、傷を癒す。

 きびすを返し、飛田ミオンとサラーのところへ戻ってきたラデクは、ゼエゼエと息を切らしていた。ヒューヒューという喘鳴を伴っている。


「大丈夫ですか、ラデクくん!? 今のでホブゴブリンは弱ったみたいですが、まだ倒れそうにないですね……」

「ゲホッ……僕、ちょっと休む……」

「ラデク、無理しないでー。じゃあ今度は私がプチファイアで牽制するからー……」


 サラーはラデクを座らせた後、飛田ミオンを指差した。


「ミオン様ぁ、隙をついて攻撃してー!」

「……な、私がですか……!?」


 薬草ですぐに傷が治せるとはいえ、大怪我をする覚悟を飛田ミオンは持てなかった。

 ラデクの場合はカスッただけで済んだが、あのバトルアクスをまともに喰らえば——一瞬の痛みでも、自身の血を見ただけでも——気を失って倒れてしまうかもしれない。


 募る恐怖心。だがここを切り抜けられねば、みんな死ぬ。それだけでなく、コハータ村の人々も病が悪化して、村が滅びてしまう——。

 飛田ミオンは覚悟を決め、剣を握りしめた。

 必ず、村のみんなを救ってみせます——そう心の中で誓った。


「……分かりました。頼みます、サラーさん」

「じゃあいくわよー、“プチファイア”!」

「やっちゃえ、勇者ミオン様!」


 飛んでいく火の玉に気を取られるホブゴブリンの隙をつき、飛田ミオンは剣を構え、突撃!

 ホブゴブリンの腹部目掛け、銅の剣を一振りした——が、その瞬間。


「うぐ……!」


 飛田ミオンの脇腹に、激痛が走った——。

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