4.勇者ミオン(?)、初戦闘!


 飛田とびたとマーカスはまず、武器屋を訪れた。


「へい、らっしゃい!」


 威勢のいい、頭にハチマキをした中年の店主の声が響く。

 サンプルとして飾られているそれぞれの武器の下には、値段が書かれていた。


 竹竿……30ゴールド

 棍棒……70G

 銅の剣……120G


 飛田は数秒考え、真ん中の棍棒を手に取る。が、武器の良し悪しなど分かるはずもない。

 とりあえず、【棍棒】を買うことに決める。


「……では、棍棒で」

「棍棒ね! 毎度ありぃ!」


 敵を殴り殺すための棍棒。

 体重48キログラムの飛田にとって、それはずっしりと重いものであった。

 武器を扱うために筋力も鍛えねばならない……そう思いながら、金貨1枚を店主に渡しお釣りを受け取る。


 次は、隣の防具屋へ。

 武器屋と同じように、サンプル防具の下に値段表が付けられている。


 布の服……10G

 革の服……40G

 革の鎧……180G


「……高いですが、安全第一にしましょう。【革の鎧】にします」

「ありがとうございます。こちらで装備なさいますか?」

「あ……はい。ではお願いします」


 20代前半ぐらいの、身長が低い童顔の女性店員に、革の鎧を装備させてもらう。

 勇者といえば剣や鎧、兜、盾をイメージしていた飛田だったが、初めからそのような高価な装備は手に入るものではないのだなと、肩を落とす。

 それでも、飛田の細い体をガッシリと包み込む革製の鎧は、身につけるだけで“それっぽさ”を感じさせるものがあった。


 さて、残りは150G。

 飛田とマーカスは道具屋へと向かう。着慣れない装備に、飛田は息を切らしながら歩いていた。

 道具屋に到着。


 薬草……1つ10G

 ワープゲートの素……1つ200G


 【ワープゲートの素】とは何かが気になる飛田だったが、手持ちのゴールドでは買えない。後回しだ。

 白い髭を長く伸ばした老人の店主に、飛田は注文する。


「【薬草】を7つください」

「かしこまりました。70Gです」


 念のため、80Gは残しておく。社会人は何かと突然お金が必要になる——その経験から、今後のためにゴールドを貯金しようと考える飛田だった。

 そしてゴールドは、ものだと、その時は思い込んでいたのである。


「これで、準備は万端ですな。さあ勇者ミオン様、“生命の巨塔”へと参りましょう。少しばかりですが、ワシも手助け致しますぞ」

「は……はい」


 “勇者ミオン”と呼ばれ慣れない。棍棒も革の鎧もズッシリと重い。魔物がどんなものか、想像もつかない。飛田の心は、鉛のように重たかった。


 魔物との戦いは、なんとなくテーマパークのVRアトラクションみたいな感じを飛田は想像していたが、マーカスの「本気で殺しにかかってきます」という言葉を思い出すと、手がみるみるうちに汗だくになる。

 夢の中で死んだら、現実の自分はどうなるのだろう……?


 おののきながら、飛田はマーカスとともに門をくぐり、村から出た。


「塔へは、あの【ダイゴの森】を抜ければ辿り着けるはずです。では、参りましょう」

「は、はいっ!」



 コハータ村の外に道はなく、ひたすら草原が広がっている。

 近くに“ダイゴの森”と呼ばれる森林があり、その向こうには塔のような建物が、霞んで見える。


 飛田は警戒する猫のように体をこわばらせながら、マーカスと共に草原を歩き、ダイゴの森を目指す。


「ミオン様! 危ないですぞ!」

「え……!?」


 振り向くと、青くプルプルした何かが、飛田の横から突然ぶつかってくるのが目に入った。


「うわあっ!?」

「勇者ミオン様! いよいよ、戦闘ですぞ!」


 間一髪、青い謎の生物の体当たりをかわした飛田。


「な、何なんですか……この青いのは……!」

「あれは【スライム】です。最弱の“魔物”です。まず殺されることはありませんので、ご安心を。その棍棒で2発ぶん殴ってやれば、簡単に倒せますよ」


 “スライム”。ゼリーのようにプルンとした青色の生き物で、目や口は無い。大きさは40センチメートルほど。

 飛田は棍棒を構える。重さのあまり少しよろめいた。が、すぐにすうっと息を吸い込んで、目の前を飛び跳ねるスライムに狙いを定める。


「……せいっ!」


 打撃音が、草原に響いた。


「ピー!!」


 殴られたスライムから高い声が聞こえ、動きが鈍る。もう1発!


「ピ……ピィ」


 振り下ろした棍棒がスライムを叩き潰し、スライムはバラバラに飛び散った——かと思うと、それらはキラキラと輝く光になり、吸い込まれるように空へと消えて行く。


「……はあ、ちょっと可哀想ですね。ん? 地面に何か現れましたね……?」

「ナイスです、勇者ミオン様。あれはゴールドです。魔物を倒すと、ゴールドが手に入るのです。たくさん集めて、さらに強い装備をゲットしましょう!」


 マーカスは、そう言って拍手をした。

 飛田は、突如現れたゴールドを拾い、まじまじと眺める。


「銀貨1枚と銅貨3枚ですから……13Gですか」

「その通りですよ」

「……いやあ、何とも不思議ですね、これは」

 

 飛田は息をふうと吐いて心臓の鼓動を落ち着けてから、再び“ダイゴの森”に向け、マーカスと共に歩を進めた。


————————


※お読みいただき、ありがとうございます。


どんどん魔物を倒して強くなる飛田さんが見たい……!

新しい魔物や、アイテムが知りたい!

生命の巨塔とは一体——?


と思ってくださいましたら、

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