第3話 エモさって何? エモさの作り方
ほらー、やっぱり2回目の反応薄いじゃないですかー、やだー。
こういう話って、やっぱり耳タコだったり、何を言ってるんだお前は、的な感じで結構スベるんです。
だからもうね、仕方ないかなと。
本業でもぽかーんとされるし。
いいんだいいんだ、もう。
おばちゃん、恥の上塗りで、今日もうひとつだけ、これぐらいは伝えてみます。
お酒飲みながらツマミとして読んでくださいね。
「エモさって何?」
いろいろ小説読んでいると、何がクライマックスなのかわかりにくいものがあります。それはそれでいいんですが、あとちょっとここ直してくれたら抜群に良いなというのがあって、実に惜しいのです。
これはある「考え方」を知っていれば、だいたいよくなります。
さて。
何でもいいのでエモいものを列挙してみてください。映画でもアニメでもマンガでも何でもよいです。まず10個はあげてみてください。
私が最近読んだものだと『付き合ってあげてもいいかな』というマンガで別れた百合ップル同士が、無邪気に雪合戦しているのが、エモ中のエモでした。なんでそんなに仲良いのに別れてんだお前ら、みたいな。
『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』は女子大学生の百合ですが、毎話エモさの塊で、最近のだと最後の最後に告白的な言葉として「友達やめよっか」ですからね。部屋を転がりまくるぐらいエモかったです。
映画『天気の子』は、最後ヒロインを助けるために空中で主人公が手をつなぎキャッチします。こんなシーン、よくあるじゃーん、と思うのですが、私は不覚にも泣いてしまいました。障害を乗り越えてあらゆるものを捨てて、それでもなお、この人と一緒に居たいというのはぐっときます。
私がヨタ話を言ってる間に書けましたでしょうか?
私は能力者なので、書かれた内容をだいたい言い当てられます。
・それは、短いセリフですね。
・それは、あちこち移動するのではなく、あるひとつの場所ですね。
・それは、時間がゆっくりになったり止まっていますね。
・それは、キーマンとなる人が喋っていたり何かをしていますね。
・それは、そこに至るまでにさまざまなことが起きていますね。
・それは、その人たちに共感したり、何かしら心をゆすられていますね。
どうでしょうか? 当たりましたか? エモさって中身を分解すると「クローズアップされたある特定のシーン」+「そこまでに至るさまざまなこと」で出来上がっています。10個書き上げたものを、もうちょっとこの数式で分解してください。「クローズアップされたある特定のシーン」とはこの場合ではなんなのか。「そこまでに至るさまざまなこと」とはどのような事柄があるのか。
書きあがったら俯瞰してみてください。なんか共通点があったりしませんか?
「伏線」だったり、
「真逆の行動」だったり、
「立場の逆転」だったり、
「想像させていたことを裏切る」だったり、
「かかった時間」だったり、
「ジレンマの解消」だったり。
だいたいこの6つでエモさを出しています。あら、なんだ簡単。
もうちょっといろいろあるのですが、共通項探すとこんなふうにいくつかにまとめられます。
わからない人は、落語や歌舞伎がおすすめです。落語の場合はサゲ(オチ)、歌舞伎の場合は見得というものがエモさです。上演時間が何分かわかりませんが、あるゆるものがこの一瞬のエモさのためにあるのが実感できます。
例えば落語の演目のひとつ「芝浜」はこうです。ぐーたら亭主が財布拾ってわーいってお酒飲んでてたら、実は夢でした。がっかりして働き出します。だいぶ生活が亭主のがんばりで整った頃、奥さんが告白します。あの財布を隠したのは私だったと。最後のサゲは久しぶりのお酒を勧める奥さんの盃を取るのですが、ふと口をつけるのをやめてこう言います。「よそう。また夢になるといけねえ」。こんな人情噺です。
先ほどの定義に当てはめると、こんなぐらいです。
・伏線
お酒、夢、奥さんの行動
・真逆の行動
亭主が本当に心から改心
・立場の逆転
奥さんの立場、亭主の立場
・想像させていたことを裏切る
夢は夢ではありませんでした。
亭主がまたお酒飲んでぐーたらになるかもだけど、それを本人が止めました。
・かかった時間
だいたい1年
・ジレンマの解消
黙ってた奥さんがようやく本当のことを言える
とまあ、複合しているわけです。そしてこの事柄が、みんなサゲにつなぐために用意されています。
ちなみに、これ、物書きの先輩からしつこく見ろ見ろ言われて、いやあどうかな、とは思っていたのですが、改めて落語聞くようになって、ちょっとエモさの理解に繋がると実感しています。私のお気に入りは立川談志師匠です。
さて。
ここまでは大丈夫でしょうか?
エモさが何かわかったところで、これを自分で書いているものに反映させてみましょう。さきほどのポイントに合うように物語の細部を決め、そして「エモさ」につなげていけばいいのです。
やってみましょう。
次のお題をエモくしてみます。
――――――――――――――――――――――
いつも電車に載っているあの子。
話しかけたいけれど話しかけられない。
見つめているだけでいい。
ある日その子が忘れ物をしてしまう。
あわてて降りてその子のために忘れ物を届ける。
彼女が振り向く。
ありがとう。
――――――――――――――――――――――
次の作り方の話は好みの問題です。いろいろなアプローチがあるのでお好みでどうぞ。
私の場合、エモいセリフから先に作ります。だいたい私、プロットの作り始めは「セリフ」+「シチュエーション」の羅列から始まるのです。
この場合の彼女に振り向かれたときにぐっとくるセリフはなんでしょうか? 主人公が報われたり、あ、という感じの言葉だといいかと思います。ここでは「ようやく話しかけてくれたね」という、そのままだとストーカーをちびらすときに投げそうな言葉にしてみました。主人公としては気づいてくれている、それで胸いっぱい、みたいなことにしてみます。
セリフが決まったらシチュエーションです。
・それはどんな場所ですか?
雨上がりだした駅舎
・それはどんな時間ですか?
夏の夕立のあと
・どんな感情ですか?
主人公が彼女の気持ちに気がつく。通じ合う。
・どんな行動ですか?
主人公が忘れた傘を手渡しながら。
彼女は少し顔を赤らめている。
1話目で話した心理描写バリバリ入れてます。やっぱりエモさって複合的な背景がいると思うのです。
これをどうエモさにつなげていくのか。こんなふうにしてみました。
・伏線
言えるわけがない
・真逆の行動
見ているだけのはずだったのに
・立場の逆転
知ってるぐらいの人だったけど、相手も実は恋してる
・想像させていたことを裏切る
実は女の子同士
・かかった時間
入学から夏の日まで
・ジレンマの解消
女の子同士でもおーるおっけー
百合ですね。ええもう。私にとってこれがエモさだから仕方がない。最初に決めたエモいシーンをより強化するとしたら、私はこんな筋立てにします。このあたりはお好みがあるのでぜひ。
こうしたのをつなげて簡単にSSぽくするとこんな具合です。
――――――――――――――――――――――
ガタンゴトン。
いつも同じ電車に乗っている彼女をつり革越しに見ている。
ふわっとした長い髪がレールの軋みに合わせて揺れている。
ずっと話しかけられないでいた。同じ高校の先輩なのに。
私は見つめているだけでいい。桜の日にそう誓ったんだ。
あの髪に花びらが散り、ファンタジー小説の妖精のように見えた先輩。
その時の衝動を胸に、あれからずっとこうしている。
私は話しかけちゃダメなんだ。
夏の夕立のなかで電車を待っていたら、彼女がやってきた。
隣に立つ彼女に心臓が脈打ってしまう。
抑えきれず隣を見てしまった。
彼女はホームの屋根から垂れている雨粒を憂鬱そうに見上げていた。
優雅な、官能的な、憂いたような……。だめだ、言葉が見つからない。
……何してんだろ私。そんなこと思っても仕方がないのに。
この気持ちは雨粒のように地面へと落ちていく。
電車が轟音を立てて止まる。それに乗ると彼女は静かに席へと座った。
私は少し離れて、いつものようにつり革越しに彼女を見ていた。
それだけでいつもの幸せに浸れることができた。
電車はすぐに隣の駅に着いた。気がついたように彼女が扉に向かって走り出す。
あ、傘。
私はあわてた。
彼女の傘をつかむと、電車の扉を転がるように出た。息を切って走り出す。彼女の後ろ姿が見えた。古い駅舎の改札。前にいる。
「ま、待って」
彼女が振り向く。それから私に手を差し出した。
「ようやく話しかけてくれたね」
その手は傘ではなく、私の手をつかんでくれた。
私の体の中に、彼女の体温が流れていく。
「1年の笹川祥子さんでしょ?」
「え、あ、はい……」
「ずっと見られていたから、私覚えちゃった」
「その……」
「わざと傘を忘れてよかったな」
「え……」
彼女が私にだけ微笑んでくれた。
いつのまにか雨は上がっていた。
「行こっか」
「はい……」
私たちは手をつないだまま、雨上がりの街中を駆けだした。
――――――――――――――――――――――
なんとなくエモくなりましたでしょうか?
もうネタバレするのは野暮中の野暮ですが、こんなテクニックを使っています。
・冒頭で電車の中であるシチュエーションと設定を一気に解説。つり革ものぞき穴の暗喩的に小道具として。
・「私は話しかけちゃダメなんだ。」で話せないことを強調。エモさのセリフにつなげる
・エモさの前にスピード感を出すため、文節短めにしてリズム出す
・後半はほぼ説明。でも、そのまま説明するのではなく相手に言わせるようにしてもったり感をなくしている
・心を通わせた描写として「彼女の体温が流れていく」とか。
・相手も好意を持ってた仕掛けとして「わざと傘を忘れてよかったな」。第二のエモさ。
・最後はすんなり。あんまりエモくさせず「ようやく話しかけてくれたね」のセリフを超えないようにする。
・雨振り->雨上がりで心境の変化を背景に加える。
この辺、テクニックのよしあしの話もあるので何ともですが、エモさとその流れの一例として読んでいただければと思います。
もしお時間あるのなら、この題材を使って、自分なりのエモさって何?というのを考えながら作ってみるといいでしょう。
慣れたらご自身の好きな題材で、エモさを極めてみてください。そうするともっと作ったものをおもしろくできると思うのです。
そろそろ離脱したくなりましたでしょうか?
言われんでもわかってる、という人が多いような気がしますが、もうちょっとだけお付き合いください。
私がいろいろ小説を読ましていただいて「惜しい」と思うのが、以下のところです。
・ストーリーがエモさに繋がらない
・ストーリー不足や描写不足でエモさが強調されない
・逆に無駄なセリフやシチュエーションが多すぎて、エモさを阻害している
よく見られるのは描写不足かもしれません。夕陽の中の告白であれば、オレンジ色に染まる街並み、温かさ、匂い、夕陽から連想される音楽や過去の想い、などなど、いろいろと出てきます。そういうのを加えるだけでもよくなる気はします。キャラのトラウマと絡めたら、よりいっそうおいしく仕上がります。
あとは小エモさから大エモさ、みたいにエモさは連続しています。先ほどの例にある「夏の夕立のなかで電車を待って」のシーンもちょいエモです。これがないと本来のエモさとして出したいセリフを強調できません。静かなシーン->動きがあるシーン->時間止まるエモいシーンというように流れを作っているのです。感情の起伏もネガティブ->ポジティブと流れを持たせています。
せっかくのエモさがあるシーンでも最後にそれを受け止めるものがないと、なんか肩透かしを食らったように思います。このあたりの流れの感覚がわかると、もっと作品がよくなります。
エモさにエモさをかけたらエモさ倍増。
これをぜひ覚えておいていただければと思います。
さて。
ここからはちょっと違う視点のお話しです。
映画や文庫本だとだいたい1時間以上、読み手を釘付けにしないといけません。そのうえで終盤の大エモさへとつなげていきます。
一方ネット小説だと毎話3000字ぐらい。10分足らずの時間です。毎話何かしらエモさがないと次の話を読んでくれません。
もし文庫本と同じ文章をぶつ切りにしてネット小説にするとどうなるでしょう。次の話のエモさがわかるようになればいいのですが、話の流れ的にそれがわかりにくいものになりがちです。
読み手にポジティブネガティブをうまく思わせながら、読ましていくことになるのですが、ぶつ切りにしてしまうとネガティブが続いてしまったり、そもそもその感情が受け取られにくい形になってしまいます。
逆も同じで、ネット小説の単行本化等の場合、うまく構成し直さないと、最後のエモさを爆発させるところまでは行きづらいのです。たぶんいろいろ削ったり抑えたほうがいいかもしれず。
このように媒体に応じて、エモさの組み立て方は変わります。
私なんかはもうあきらめて、ネット小説なものは毎話1万字ぐらいにして、短編集読ましている感覚で作ってますが……。
本来はそういうとこを考える必要があります。
最初から度肝を抜くのなら、大エモなシーンを冒頭から入れてしまうのもアリです。『喰霊-零-』というアニメはそれで伝説になりましたね。叙述トリックみたく、あとからなんでそのエモさがあるのか、みたいなストーリーの組み立てもアリです。
いろいろ述べてみました。
「はあ?」というお話しだったかもしれません。
惜しいと思う作品に連続で当たり、どうしても指摘したいけれど言うにはばかられるというジレンマを抱えていたので、ちょっとだけここで述べてみました。
ぜひあなたなりのエモさを表現してみてください。
これが何かの参考になれば幸いです。
それではよい作家ライフをー。
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マシュマロ受付先:
https://marshmallow-qa.com/toujakumasiro
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