第2話 キャラの魅力的に動かす3つの方法



 どうなんですかね、こういう話……。本人的には居酒屋で楽しく盛り上がっている若者に、「日本酒とカラスミって最高だよな」ってウザガラミしている中年男性のように思えて、冷や汗かきまくりなのです。

 わりと好評だったので、もうちょっと続けますけども、ヨタ話と思ってお酒飲みながら読んでもらえたらと思います。


 最初にお断りしておきますけど、私的には何書いてもよいと思います。地の文、無くても結構じゃないですか。『フィネガンズ・ウェイク』みたいな読ませることを拒絶する本だってあります。何を書いても『自由』なんです。

 ただ、それで「PVあがらないから私には文才ない」「適当に書いたものが当たったので、もう全力出さない」「今の流行りと違いすぎるから古典読まないほうがいい」と、自分に縛りを入れるのはよくないです。どうかあなた自身も『自由』であってください。



 さて。


 よく小説系の相談とかで、なんかこれをむっちゃ見かけるのです。

 「キャラが魅力的ではない」「テンプレのキャラで薄っぺらい」「キャラが動かない」。


 ええ……。


 誰がどう書いたものでも、その人の視点が入った時点でオリキャラです。

 なので何をしても、魅力的だし、厚みがあるし、小説になってる時点でキャラ動きまくりだと思うんです。

 過去、そう言われた方は、どうか気にしないでください。その人、今ごろパフェでも食ってますよ。


 あとは大塚英志先生の『キャラクター小説の作り方』を読めば解決です。

 ばんざーいばんざーい。

 はい、おっけー。

 おしまい。


 ……というわけにもいかないので、なぜそう言われるのか、深堀してみましょう。

 いろいろな人の話を読んでいると、だいたい次の3つが原因にあるかと思います。


 ・キャラの設定ができていない

 ・キャラの行動が書き切れていない

 ・キャラが物語や世界観とあっていない


 それぞれ考えてみます。




■キャラの設定ができていない


 長編書くときは、どうしてもキャラ設定がいると思う冬寂さんです。それはなぜでしょうか? それは最後にわかります。

 まず、具体的にどんなキャラ設定があるのでしょうか?

 アニメですけど、これなんか良い解説かなと思います。


アニメ好きの女性デザイナーさんの『キャラクター設定図』風似顔絵を制作しました

https://www.tanimatikudari.com/blog-portrait-character-design-rommy/


 何でもいいので好きなアニメやゲームとかのキャラ設定表を手に入れてみてください。思ったより細かく設定されていることにびっくりするかもしれません。

 こちらの例では腕時計とかまで指示があります。もちろん描くために必要なのですが、書くことにも必要です。時計ひとつで話作れますからね。



 こんな設定を自分で作るにはどうしたらいいのでしょうか?

 訓練方法としては、TRPGのキャラメイクが良いかと思います。だいたい項目埋めていくぐらいで、キャラが出来上がるので楽ちんです。

 イメージ的にはこんな感じです。


初心者のためのクトゥルフ神話TRPG

初心者でも大丈夫!キャラクターシートの作成方法!

https://imademogamesuki.com/tannsaku/pcsakusei.html


 実際にTRPG界隈出身の作家さんは多いのです。例えばロードエルメロイ二世シリーズの三田誠先生は、私にとってはTRPGの人で、本当に大成されて良かった……と草葉の陰から泣いてお祝いしています。

 『ロードス島戦記』を始め、いわゆるTRPGを遊んだ結果を小説にしていることもあります。

 キャラ設定の方法がわからなくなったら、TRPG方面から力を借りると良いでしょう。ちなみに冬寂さんは蓬萊学園でしたね……(青春の遠き日を思い出すよくわからない顔)。



 これはあくまで補助輪です。数名キャラを作って要領を得たら、おんなじ感じで「自分の小説でのキャラ設定項目」を作ってみてください。

 TRPGはあくまでゲーム向けなので、小説書くだけだと、ちょっと要らないものもあるからです。



 やってみましょう。

 私の場合、だいたい以下を設定項目として用意しています。


 ・髪型

 ・外見

 ・声

 ・得意なもの

 ・性格

 ・セリフ

 ・家族

 ・出自

 ・トラウマまたはコンプレックス


 アホですね。声なんか書いたものに表現されないのに。

 でもね。

 冬寂さんは知っています。

 書き切れない人は、だいたいキャラの声のイメージが定まっていないことを。


 私はわりとそのタイプですけど、小説書くときは、キャラがなんかやっているのを映像として思い浮かべていて、それを書き下しています。

 テイク、アクション、カット、という感じで、頭の中でキャラが芝居しているのです。

 そこにいるキャラは顔や容姿があり、当然声もあります。


 私はよく「ぶれている作品」に対しては、そのキャラはどんな声してます?と聞いています。

 ハスキーですか? ソプラノですか? 大人っぽいですか? 子供っぽいですか? 声優で言うと誰ですか?

 ぶれているものはこれが定まっていません。

 声はすごくよく人をイメージできるのです。


 そして「トラウマ」「コンプレックス」です。これがキャラを動かすエンジンになります。どんなに平凡な学生でも、「平凡である」というコンプレックスを抱えているものです。それが物語を進めていきます。

 かつてふられたことにトラウマを持つ人なら、もう恋愛はしたくないと思うはずです。それでも誰かに言い寄られたら? 誰かを好きになってしまったら? その人はその感情を隠すかもしれませんし、正直に話して相手と別れようとするかもしれません。でも相手がそれを無視したら……、と、芋づる式に物語が生まれてきます。

 とある書き込みで「キャラが動かなくなったらコップ一杯の水でもいいから欲求を持たせよ」というのを見たのですが、私としてはそれはトラウマの定義そのものが間違った結果じゃないのかなと思います。キャラの行動原理になるほどのトラウマが設定されていない、ということですから。


 物語としてトラウマやコンプレックスが解消してしまうことがあります。私が好きなマンガ『SHY』では、人見知りだけどみんなを助けるヒーローという矛盾したキャラクタが出てきます。人見知りなところはだんだんと仲間のおかげで解消され、さてどうするのだろうか?と思ったら、同じようなトラウマやコンプレックスを抱える人たちを理解し、癒しに行きます。かつて自分がそうだったのですから、同じトラウマを抱える人のことはよくわかっています。それが他のキャラとの行動の違いにもなり、敵を救うことの理屈にもなりました。これはちょっとうまいなと思った次第です。こんな感じで、物語上消費してしまったトラウマであっても、何かしらその後の物語に役立つことができます。


 とまあ、性格や容姿とかよりもトラウマやコンプレックスの定義が、小説書くときのキャラ設定では一番重要かなと思うのです。いわゆるノベライズのお仕事なんかも、各キャラ事にトラウマを抽出して、それを起点にしてお話作りますし。「いやわからんて」という方は、ぜひ自分のトラウマやコンプレックスを思い出してください。あなたがなんのために小説書いてるかは私にはわかりませんが、それはきっとあなたが抱えているトラウマやコンプレックスがなせる業です。おんなじ構図をキャラにも持たせてあげればよいのです。



 実際のところはどうでしょうか?

 キャラ設定するとこんな感じです。また拙作からでたいへん恐縮です。



『そして想いは隠される ―友達って顔してる残念女子高校生達5人の不安と恋とせつなさと―』

https://kakuyomu.jp/works/16816927862378866800




○にゃっこ

 ・髪型

  ばさばさ。肩までかかるミディアム

 ・外見

  丸眼鏡。目つき悪い

 ・声

  井口裕香(よりもいのときの)

 ・得意なもの

  勉強

  人の行動の原因を当てること

 ・性格

  一見性格悪そう。

  天才過ぎておかしい人。洞察力高い

 ・セリフ

  ネットオタク的セリフ

 ・家族

  母と祖母

 ・出自

  母親は看護師。祖母は書道の先生。女しかいない家庭

 ・トラウマ(またはコンプレックス)

  同性を性対象にしていること



○王子

 ・髪型

  ショート。頬に髪かかっている

 ・外見

  女子だけど爽やか好青年

 ・声

  小松未可子(アルドノア・ゼロのときの)

 ・得意なもの

  やさしくすること

  勇気づけること

 ・性格

  一見爽やか王子。やさしい言動で相手を勘違いさせる

  やきもち焼き

 ・セリフ

  ええ、そうなの?

  ひどいな

  それでいいよ?

 ・家族

  母、父、弟

 ・出自

  父は中堅どころの会社員。ごく普通の家庭

 ・トラウマ(またはコンプレックス)

  見た目と乙女な心のギャップ




 この話は百合で、明るく元気な表層と、どろっとした深層のふたつの面があります。なので、キャラにも二面性を持たせました。性格で一見○○と書いているのがそのあたりです。

 家族や出自はトラウマを育む土壌になります。性格や外見は、そのトラウマから生まれたものになります。そんな感じでトラウマを起点にしたり、それを補強するようにキャラ設定を作るといいかなと思います。たとえばにゃっこの「人の行動の原因を当てること」は、同性愛がバレないように少しでもその人が何か指摘しそうだったらはぐらかすため=はぐらかしても信じてもらえる原因を言えるようするため、という「理屈」がどの項目のどの設定にもついています。

 声に声優名当ててますけど、別に俳優でもなんでも想像できるものでよいです。でも、わかる人はなんとなくイメージがつくかと思います。これが重要で、そのキャラにイメージがついたら、このキャラ設定は勝利をつかんだと言えます。


 なんでこんなキャラにしたの?と聞かれたら「それが楽しいから」としか答えようがありません。描きたい物語の必然としてこういうキャラにしましたけれど、もうちょっと違っても良かったかもしれません。黒髪長髪キャラのほうがウケがいいかもしれませんし。でも、私はこういうキャラが好きです。にゃっこが「冬寂の文章、猫のクソのようだな」、王子が「ひどいな」、それににゃっこが「ああ、ひどいな。あれってなんであんなに臭いんだ」……。と自分が好きなキャラは、勝手に掛け合いが始まり、話が作りやすいのです。

 ちなみに「それが好き」と物事を選別できる事象のことを「センス」と言います。



 さらにもうちょっと本業的なところだと「NGな行動、ワード」が定められています。「飛影はそんなこと言わない」ってあれです。だいたいこういうキャラ設定は「やること」ばかり書くのですが、「やらないこと」も定めると、よりキャラを際立たせることができます。


 逆に星座とか誕生日はよっぽど物語にからまないと定めていません。あんまり細かくしても、時間がかかってしまいます。何より物語のほうを作りたいのですから、設定は必要最低限でほどほどに。

 長編はなるべく上記のものを用意していますが、短編でしたら「容姿」「声」「トラウマ」だけ用意して済ましていることも多いです。物語書くほうを優先にしているので……。


 このキャラ設定、私はだいたいプレーンテキストに適当に見出し付けて描き出しています。『そして想いは隠される』の場合は、さすがに5人動かすと見返すのが面倒になったので、Notionというサービスを使っています。テーブルにして一覧すると、設定のヌケモレが見つけやすくて重宝します。このあたりはやりやすい方法でぜひどうぞ。



 さて。


 よく「こんなキャラ設定作るのが、何の役立つのかわからない」「執筆にどう結びつくのかわからない」という人がいるのですが、私にとっては「頭の中で演技させるのに必要じゃん。どうやって話を書いてるんだろう」と不思議に思ってしまうのです。とくに長編になると、そのキャラは勝手に動きます。それはそのキャラが本当にそう想ったことでしょうか? 自分が言わしているだけではないですか? キャラ設定を見つめなおすと、それがある程度補正することができます。トラウマやコンプレックスでキャラを動かしているのですから、そこに結びついた行動でないと、話が散らかります。読み手は敏感です。ちょっとズレたことすると読書感がよくありません。そうしたところもあってキャラ設定を作り、それに沿っているかどうか見つめなおす仕組みが必要になってくるのです。


 逆に書けなくなることがあります。そんなときはキャラ設定を見つめなおすと、わりと書けてきます。コツとしては「書いていないものを見る」という感じです。「明るい性格: 昔、親に笑っていろと言われたから」というキャラがいたとしたら「同じトラウマを持つ新キャラぶつけて際立たせるか」「本人このトラウマがあるとどうやって気づいたのかな」と、キャラ設定に書いていないことを想像していると、わりとネタが出ます。


 あと忘れちゃいますから。5年前の続編を作れと言われて、キャラ設定があってどんなに助かったことか……。



 こんな感じでほどよく作ったキャラ設定は、自分の身を助けてくれるのです。でもこれだけで終わりじゃありません。それを元に文章を書かないといけません。




■キャラの行動が書き切れていない


 もう結構ガチ目のキャラ設定の話だったので、かなり離脱しているような気がします……。

 あとちょっとだけお付き合いください。



 設定はよくできていても文章では思ったとおりに動かないことがあります。だいたいの場合でそれは想像不足です。キャラがどんなふうに行動し、どんなことを考えるのか。そうしたことを深堀できていないせいです。そして、それはなかなか自分では解決できません。想像できないのですから、どうしようもない。


 これを訓練するには「二次創作」がおすすめです。アニメや映画だったらもうキャラが動いているので、想像しなくて済みます。そんなキャラが、「腹減ったな」「恋がしたい」とか言ったらどうなるのだろう、とかちょっとしたことを想像してください。わりと作りやすいと思います。そこに新キャラいれたらどうなるか、こんな事件が起きたらどうなるか……、と、ちょっとずつ広げてみてください。そうしていくと「架空のキャラが動く」ということが、だいぶ想像できるようになります。


 二次創作に抵抗がある人なら、原作を「ノベライズ」したものがおすすめです。また脚本集なども良いでしょう。実際の映像を文章にするとこういう表現になるのか、というところをぜひつかんでみてください。すごくよい勉強になります。


 私の場合、ルパン三世の小説が昔シリーズ化されていてそれを読み漁っていたら、そこからキャラの行動の文章表現に馴染んでいきました。あと、ラムネ&40の同人をいろいろ出した当たりですかね……。あんまり言うと黒歴史ですが……。

 ヒットメーカーの人でも、そういういきつはよく聞きます。こないだはえらい人3人ともコミケで自分で作ったのを売り子してたという話になり、なんともいえない気分になりました……。さらに私はインテックス大阪まで行商してましたし……。ああ……。



 さて。


 「リアルなキャラ」って何でしょうね?

 私、これ、わからないのですよ……。

 だって私はリアルなキャラしか書いてないから……。想像がばっちりできると、それはもう架空じゃなくてリアルになるのです……。

 それに、どんなにアニメチックでテンプレなキャラでも、必ず誰かの行動や考え方を入れています。また、それらを極端にすることで、よりわかりやすく面白いキャラに仕立てています。

 先ほど出た王子なんか百合物でよくあるキャラですが、でも行動はだいぶ違っています。それはそういう人を実際に見ていたからです。


 もしリアルなキャラを作りたいとしたら、「知っている人をキャラにする」というのはわりといいお勉強かなと思います。

 誰でもいいです。友達や家族をキャラにしてしまいましょう。その人の言動、考え方、行動を借りてきましょう。臆することはありません。私は会社の偉い人同士のBL作って怒られた武勇伝があるぐらいですし……。

 それを先ほどのキャラ設定のトラウマやコンプレックスに結び付けてください。そうすると、そのキャラが生き生きと行動してくれます。



 やってみましょう。

 先ほどの「にゃっこ」は知人の大学8年生という人で奇癖が目立つ人をモデルにしています。頭の良いのは、これまた某大企業にお勤めの同性愛なお姉さまから。ほかにも某有名私立にいた人とか、わりとそういう人が多かったと思って入れています。王子の容姿コンプレックスも同性愛系の知り合いで、開き直ってタチ役している人なんですが、開き直るまでがたいへんだったとか。そんな実際に知っている人の一面を借りて、つぎはぎしながらキャラを作っています。

 トラウマとの結び付けですが、にゃっこの場合なら「同性愛で悩んでる->そういう場面になると同性愛者であることを知られたくないから行動を切り替える->周囲から見たらそれがおかしい行動に見える」というように理屈をつけています。こういう理屈があると、物語の転換をしたり心情を吐露する場面で、すごく役に立ちます。それを言えばいいのですから。



 「友達少ないんだよ。どうしたらいいんだよ」という人がいます。じゃあ、知ればいいのです。百合を知りたければレズバーへ実際に1か月ぐらい通ってみればいいのです。江戸時代とかであれば、その時代の人の日記を読むと効果的です。殺人鬼を知りたければ、たとえば『宅間守 精神鑑定書』みたいな本がすごく効果的だと思います。貧乏を知りたければ『貧乏人の経済学』が良い本でした。ネット上には人の心情なんか、いくらでも転がっています。なによりこうした「人を知る」ということがだいじです。


 あとやってほしいのは「自分が嫌いな人をキャラクタにしてみる」でしょうか。くそい上司でも、変に絡むネットの人でもかまいません。なぜそんな行動をしているのだろうか?というのを掘り下げていくとキャラが作れます。嫌な人だけにされた行動は自分がよくわかっているはずです。それにぜひ理屈をつけて、キャラのコンプレックスに仕立ててみましょう。なれてくると、嫌な人以外も作りやすくなっているはずです。




■キャラが物語や世界観とあっていない


 だいぶ長くてごめんなさい。あとちょっとで終わります。


 純粋な江戸時代の話に金髪ギャル入れたら違和感はすぐわかりますけど(それはそれでいい設定)、微妙にわかりづらい違和感があります。

 そして、これ、私もなんとも言いづらいのです。


 ちょっと話を聞いてください。

 私は結構仕事で海外に飛ばされていたのですが、どの国にも宗教的なものがあり、それがある種の全体的な行動のコンセンサスとなっています。キリスト教文化圏でしたら、わりと聖書をみんな知ってて、例えば「お前はユダだ」みたいな罵倒は相当な衝撃力があります。もう少し日本だと通じないものに「銀貨30枚」というのがあります。いたずらでやられても、それがどういう意味か日本国内だと普通はわかりません。ところがキリスト教文化圏だと、みんなそんなことはよほどのことがないと言わないし、やらない。当然そこで作られる小説やマンガといったコンテンツにも、それが色濃く反映されます。


 いくつか小説を読んでて気になるのは「このキャラの考え、相当近代的ではないか?」みたいなところです。日本は民主主義国家であり、死生観も100年前とだいぶ変わりました。昔はそれが正しいということでも、いまの世の中でそれをやったら袋叩きに合うということはよくあります。また、前に述べたように、世界が変わると通じないものがたくさんあります。こうした禁忌や行動指針の違いは『文明の衝突』という本とかにちょっと載ってます。


 いくつかそれを逆手にとって物語にするのですが、それでも問題は起きます。

 例えば「奴隷制がある世界で、奴隷を見たらかわいそうに思ったから引き取った」というシーンの場合、なぜかわいそうに思えたのでしょうか? もし主人公がしばらくその世界で過ごしていたら、それは当たり前の光景になっているはずで、そんな行動を取るとは思いません。仮に転生したばかりで、そういうのを見てしまった場合、衝動でそれをしたらしっぺ返しがあるはずです(なかなか奴隷と馴染めないとかお金かかるとか)。悩みぬいたうえでそうするのなら、その世界と近代的な考えの違いでさらに悩むはずです。


 主人公に近いキャラの行動はまだこうしてわかりやすいのですが、その周囲のほうが問題になってきます。この行動を見たその世界の人が「良いことしたな」「お前のあたたかい心に打たれたぜ」などと思うでしょうか? 制度を壊したと思われたら、普通は関わらないようにします。罵倒してキャラたちを追い返すことすらあるでしょう。


 すごく難しいのは「それを突き詰めてしまうといまの日本の人が共感しながら読めなくなる」「設定の解説を膨大にしないといけなくなる」というところです。どこかで折り合いをつけないといけないのですが、それを間違ってしまうと、キャラや物語があさっての方向に行ってしまいます。とはいえ……、みたいな感じです。


 ね、難しいでしょ。


 もう「てきとーでいいんだよ、てきとーで」とも思うのですが、物語の設定やキャラの行動に読み手が違和感を覚えるのは、実はこうしたところにあります。


 この話、あんまり考えすぎると胃液を吐くのですが、ちょっとだけ気にすると、だいぶよくなります。

 もし「君が好き」というセリフを主人公が発したとしたら、それはこれまで生きてきた世界や制度、宗教、友達や親との関係、好きなものに触れた経験、嫌いなもので悲しくなった想い、あらゆるところがぎゅっと圧縮されたところから発せられた一言になるはずです。その行動も、設定したトラウマも、そこから影響を受けています。

 これをうっすら意識して書くだけでも、だいぶキャラは生きてくるでしょう。



 ちなみにこれの簡単な解決策は「宗教の設定」です。異世界物で売れたのって、だいたい設定してありますよね。一見なくても「勇者はたいせつな存在とみんな思ってる」とか「この集団はこれをよしとしている」という設定があるかと思います。このあたりは、こうした問題の解決がしやすいのです。先ほどの奴隷の話も「この世界の宗教は他人に善意を施すのがよしとされている」というのを導入したらわりと解決します。「奴隷がいるのに人に哀れみをだと……」みたいな問題はまた起きますが、これはリアルな世界でもあったことなので……。




■それでもよくわからないときは


 そうはいってもなんもわからん。いくらやっても飽きてしまう。

 そんなときは、ぜひ「友達や親にこのキャラを理解させるのはどうしたらいいのだろう」というところから始めてください。私も本業で「三歳児に理解できるように書いておくれよ」とか頼みます。これはわりと当たりで、よく私も「明日ダンプに引かれたとしても、この続きを書いてもらえるように」という感じで、キャラ設定を起こしています。意外と他人を意識すると、いろいろ揃ってきます。よくわかるバカにしない親友と、こういう設定の話をするのも効果的だと思います。



 さて。


 今回長かったので設定の方法だけに絞りましたけれど、「じゃあ、そもそもキャラの魅力ってなんじゃらほい?」みたいな話はどこかで話せたらいいなって思います。でもまあ、ほどよく設定してあってちゃんとそれが矛盾なく書けていれば、魅力的になると思うんですよ。あとは流行り廃りだったり、タイミングの問題かなって。


 長々と語って本当にすみません……。飽きちゃいましたよね。


 「冬寂さん、キャラ足らないので5人分作ってください」「え、この会議で? 30分で?」「はい」、みたいな本業を続けているので、今回はどうしても少しだけお伝えしたく……。

 あと天才の人って、これみんな頭の中にあります。だからどんなときでも書ける。5秒で新キャラ作れる。でも天才はその仕組みを言えないのですよね……。彼らにキャラの設定方法を聞くと「息の吸い方を説明してください」みたいな話になるのです。それでもちょっとずつ聞いてきた話をここに少し入れてみました。


 これが何かの参考になれば幸いです。


 それではよい作家ライフをー。





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