第3話 シトザキ、19歳を狙う


 新人の女性は鈴ヶ浦すがうら美咲という名前で、シトザキは早速みーちゃんと呼び始めた。みさきだからみーちゃん。きもい。背筋がぞわっとする。もしも自分が19歳の時に、47歳の男性上司からこんなふうに呼ばれたらどうだろうと考えただけで、おえっとなるのだった。それに、ここは職場であって、サークルでも学校でもないのだが。

 しかし、みーちゃん本人は嫌そうでもないので、とりあえず私たちパートは様子を見ることにした。



 そして、事件は起きた。

 シトザキは、パートやバイトのシフト管理できる立場にあるのだが、それを利用して、みーちゃんが自分と一緒に仕事をできるよう操作した。それだけでもアウトだが、さらにみーちゃんには力仕事は一切させず、そのかわりみーちゃんと同時期に入ってきた50代の新人パート女性に3人分の力仕事を押しつけていたのだ。要はみーちゃんとシトザキがやるべき重労働を新人パートに押しつけるシフトを組んだわけである。

 シフト表をチェックした私たちベテランパートたちは、このことに秒で気づいた。もともとシトザキを疑いの目で見ているので、やつの不正はすぐわかるのである。

 怒り心頭のパート軍団は、肩をいからせてシトザキに文句を言いにいった。今日シトザキはドアの蝶番に油をさして回ることになっている。だが、私たちパートはドアは見て回らずに喫煙所へ行った。もちろん予想通りそこにシトザキはいた。タバコ片手に缶コーヒーを飲んでいた。



 私たちに問い詰められたシトザキの言い分はこうである。

「新人のみーちゃんにいきなりキツイ仕事をさせたら可哀想だ」

 確かにそれはわかる。しかし、だからといって、なぜ別の新人にキツイ仕事を押しつけるのかという話である。しかもシトザキの仕事まで押しつけるなんて酷すぎる。19歳新人に楽させるために、50代新人に3人分の重労働をしろだなんておかしい! 私たちがそう抗議すると、

「もう一人の新人はオバサンだから別にいいだろう」とシトザキは言ってのけた。

 これが私たちパートの怒りをさらに燃え上がらせた。

「オバサンだからキツイ仕事をたくさんさせても構わないっていうんですか!」

「じゃあオバサンと若い子を同じ扱いにしろというのか」

 シトザキもカッカと怒り始めた。

「いい年をして、若い女と同じように扱われたいなんて図々しい! だからオバサンはイヤなんだ。自分たちに市場価値があると勘違いするのも大概にしろ」

 ああ、やっぱりシトザキはどこまでいってもシトザキなのである。市場価値もなにも、これは婚活や恋愛の話ではなくて仕事のシフトの話をしているというのがシトザキには理解できないのだ。

 こりゃ言うだけ無駄だなとパート女性たちが呆れて口を閉ざし始めたが、私だけは最後まで批判を続けた。

「パートやバイトに差をつけないでください。えこひいきをやめてください。みーちゃんと私たちを同じように扱ってください」そうはっきり言ってやった。

 すると、何が気に障ったのかわからないが、シトザキは顔を真っ赤にした。いまにも殴りかかってきそうな憤怒の表情であった。

「……あまりにもレベルが低くて呆れてものも言えない」

 そう吐き捨てると、シトザキは男子トイレに避難していった。呆れてものが言えないのはこっちのセリフだ。


 その後、私、松木尚美はどういうわけかセクハラの疑いがかけられて、セクハラ対策委員会とやらに呼び出されてしまった。


 <つづく>

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