第2話 シトザキ、男性社員もいじめる


 さて、うちの職場には桃山さんという男性がいた。年齢52歳、独身で、アイドルグループ『スターマインガール』の大ファンである。仕事のできなさはシトザキといい勝負だと上からは思われていて、そのため二人とも平社員である。しかし、シトザキよりはまだマシだというのがパート女性たちの評価だった。それがシトザキは面白くない。シトザキは桃山さんは自分の「下」だと思っていた。なぜなら自分は47歳の独身で、桃山さんは52歳の独身で、しかもオタクだからだ。シトザキはそういう価値観で人をジャッジして、自分のほうが上か下かを気にするしょうもない男なのである。


 昼休みになると、シトザキはわざわざ桃山さんのデスクまで赴き、机の上に乗ってあぐらを組む。そうすると桃山さんはお弁当を広げられない。膝の上に弁当を置いて、シトザキが去るまで待つしかない。シトザキは「なあ、スターマインなんちゃらのメンバーってどういう子がいるわけ?」とにやにや笑いながら聞く。

 桃山さんは、主要なメンバーについて説明するのだが、シトザキはそれをスマホをいじりながら聞く。そして、一通り説明が終わると、「あ、ごめん、LINEの返信で忙しくて聞いてなかったわ。もう1回教えてくれる?」と言う。桃山さんは同じ説明をする。シトザキは聞こえないふり。これを何度も繰り返すことで桃山さんをいじめるのだった。

 何度目かの説明で、シトザキを支持する男たちが馬鹿笑いした。それを聞いて、シトザキはスマホをいじりながら、こらえきれないように吹き出す。桃山さんは、困ったような顔をして黙ってしまう。


 いじめに飽きてくると、シトザキは仲間の男たちと連れだって外に食事に行く。やっと机の上に弁当を広げた桃山さんに、私たちパートは声をかけた。

「桃山さん、シトザキから何か言われてもまじめに答えることないよ」

「そうよ、あんなやつ無視していいと思う」

 桃山さんは困ったように笑みを浮かべるだけで、返事をしない。そういうところが、一部の女性――白黒はっきりつけたいタイプの女性から嫌われてしまうのだった。職場で毎日いじめを見せられるほうの気持ちにもなってくれというわけだ。桃山さんがシトザキを拒絶するのなら女性たちも援護射撃に出られるのだが、そうではなく、ただただ現状を維持したがるのが歯がゆいのだ。



 そんなうちの職場に、19歳の女性がバイトとして入ってきた。40代以上の女性しかいない我が職場としては異例の若さである。これにシトザキが飛びつかないわけがなかった。


<つづく>

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