第10話 松木、さらに衝撃を受ける
恐ろしいことが起きた。
どうか落ち着いて聞いて欲しい。
まずシトザキ夫人が逮捕されたわけだが、その後、男性社員の桃山さんが自分が犯人だといって自首した。エスカレートするシトザキのいじめに耐えかねて、頭がわーっとなってしまって、職場を燃やしちゃったらしい。
シトザキのいじめ、ひどかったもんねえ。でも、火を付けるほどつらいのなら相談して欲しかったとも思う。シトザキのいじめをやめさせよう、そう私たちパートが幾ら桃山さんに誘いかけても、のらりくらりと逃げていた。誰かが助けてくれるのを待っていたのだろうか? 私たちは本人が立ち上がるのを待っていたのだが。でも、まあ、正直私たちパートもシトザキ夫人の扱いでいっぱいいっぱいで、最近は桃山さんのことは放置していたところもあるので、あまり強くも言えない。
そして、シトザキ夫人の誤認逮捕だが、ただ事情を聞かれただけのはずが、なぜか逮捕になってしまい、私は頭を抱えた。絶対何か誤解があったんだろうなと思ったし、ほかのパート仲間たちも「なんか変なことを口走ったんだろうね」と言っていた。供述がポンコツすぎて「やってもないのに、自分がやったと言ってそう」と思った。実際、そうだったみたいだ。
しかし、シトザキは怒り、夫人との離婚を宣言した。わざわざ面会に行き、離婚を言い渡してきたと職場で鼻息荒く語っていた。
が、冤罪だとわかり、シトザキは夫人に謝りに行ったが、今度は夫人が怒りの離婚宣言。結局二人は離婚した。
さらにショックは続く。桃山さんが自首し、動機を語った流れで職場でのいじめを明らかにした。それが会社の耳に入り、シトザキはとうとう首になったのだ!
――
それから4カ月後。
新職場が完成した。といっても、燃えた跡を片づけて、もういっぺん似たような簡易な建物を建てただけなので、新しいという感じはしない。塗料のにおいだけが新築だと証明している見慣れた職場である。
私たちは職場に復帰した。シトザキと桃山さんと元シトザキ夫人以外は。
元シトザキ夫人は「職場の人たちみんな最低、みんなキモイ」と言い残して去っていった。
そういうわけで、シトザキがいなくなり、ついに我が社は平和になったのだった。
<完>
……といきたいところだが、ある平日の午後、首になったはずのシトザキが職場にあらわれた。来なくていいのに。
<つづく>
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