第9話 みーちゃん、みんな嫌いになる


 それは、風の強い日だった。なお悪いことに空気の乾燥している日でもあった。

 職場で火災が発生し、建物は全焼した。

 休日だったこともあり、怪我人は出なかったが、どもう放火らしいということで、全従業員が事情聴取を受けることになった。もちろん私も。私の夫は社員なのに。だから私への事情聴取は免除してくれてもいいのに、ひどいなあと思った。



 ――


「私じゃありません」と私は訴えた。

 今、火災について警察から事情を聞かれている。

「私の夫は社員なんです。だから、会社を困らせるようなことしません」

「もちろん悪気があってやったなんて誰も思ってもないよ。ただ、うっかりというか、事故ってことはあるからね。燃やすつもりがあったなら別だけど」

 事情聴取なんて人生で初めてで、私はすっかりパニックになってしまっていた。

「私は燃やすつもりはなかったんです」

「……どういうことか、もっと詳しく聞かせてもらいましょうか」

「え? だから、燃やすつもりはなくて」

「燃やすつもりはなくて、火をつけてみたら、燃えてしまったから驚いたと、そういうことですかね」

「違う違う!」私は叫んだ。

「私は燃やすつもりはありませんでした」

 私は放火の疑いで逮捕された。



 だが、その後の調査により、桃山という男性社員が放火犯だったことが判明した。



 警察は、私を責めた。

「どうして自分がやったなどと嘘を言ったのですか」

「私は嘘なんて言ってません!」

「警察をからかって楽しかったですか」

「楽しくないです。どうして! どうして皆私の言葉がわからないの。私は燃やすつもりなんかないのだから、火をつけなかったと、そう言っているのに!」

 子供のころからこうだった。自分では楽しくおしゃべりしているつもりなのに、いつの間にか相手が怒っていたり、知らない間に何らかの罪を自供したことになったりしていた。


 みんな自分の頭が悪いのを棚に上げて、私の話し方が誤解を招くという。いつも私のせいだという。夫まで私を放火犯だと疑って離婚だと言いにきた。私のことを信じてくれない人なんかこっちからお断りだ。すぐに離婚してやる。あんたなんか嫌い。みんな、大嫌いだ。



 <つづく>

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