第27話 つかの間の冒険は終わり、いつもの日常へ
「ごちそうさまでした~」
私はカフェを出て、周りを見渡すと駅から少し離れていることもあってか、閑静な住宅街に小さい公園やこじんまりとした地元密着型のお店が散見される。
少し駅から離れるだけで、こんなにも雰囲気が変わるなんて、知らなかったな。
せっかくなので、もう少し歩いて次に見つけたお店でテイクアウトして公園でのんびり過ごそうと決めて、私はさらに未知の方向へ歩き始めた。
夢の中の世界でもないのに、知らない道を歩いているだけでまるで冒険をしているような気分になる。
そうして、また目的地のない散歩を再開した。
40分くらい歩いただろうか、簡単な遊具と広場、ジョギングコースのある公園が見えてきた。
その公園の出入り口のところにはキッチンカーが軽食やドリンクを売っていた。
メニューを見てみると、ソフトドリンクとサンドイッチにおにぎりなど公園で食べるのにうってつけなメニューを中心に販売しているみたいだ。
キッチンカーをのぞいていると、ポケットがブルッと震えた。
「?」
ポケットに入れていたスマートフォンにメッセージアプリの通知がきていた。
詳細を確認しようと操作する合間にもメッセージの通知は止まらない。
一体、なにごと……?
メッセージアプリを開くと激しい通知の正体は職場の後輩からだった。
「先輩!体調、大丈夫ですか??」
「具合が悪いところ、大変申し訳ないのですが、営業さんから至急の案件がありまして……」
「わからないところを教えてもらえませんか……?」
「今日、課長も会議で席を外してて、他に聞ける人がいなくて……本当にごめんなさい」
後輩からのヘルプには、語尾に焦っている絵文字マークやら丁寧にお辞儀しているスタンプやら色々送られてきている。
一応、申し訳ないという気持ちを表しているのかな?
私としても急に休んだし、それもズル休みなのであまり恐縮されるとかえって後ろめたい気持ちが膨らんでくる。
ふぅ〜、とひとつ大きなため息をついて、後輩に返事をかえした。
そして、さっきまで楽しい気分で見ていたキッチンカーでおにぎり2つとミックスサンドイッチボックスを買って、いま来た道を引き返した。
◆ ◆ ◆
「お疲れさま」
「うぅ……先輩ぃ、体調悪いのにすみません〜……」
後輩からのメッセージを見ていたら後ろめたい気持ちがどんどん大きくなって、キッチンカーで自分の分と後輩に罪滅ぼしの昼食を買い、午後から出社することにした。
会社へはお昼休憩中に到着したので、後輩に社近くにある公園で待っていてもらい一緒にお昼を食べながら簡単にミーティングすることにした。
「大丈夫だよ、大したことないから。それより、コレ。よかったら一緒に食べよう」
ズル休みをごまかすためについた小さな嘘に心が痛む。
「ありがとうございます。おぉ、栄養バランス無視の炭水化物祭りですね〜」
少しおどけたように言う後輩は、「どっち食べます?」と言いながらドリンクの用意をしている。
私のご飯を買っていく、という連絡から温かいお茶を準備してくれていた。
こういう気遣いが上手な後輩は年齢関係なく、人から好かれやすい。実際、後輩はよく人の輪の中心にいることが多い。
お昼を食べながら簡単に午前中の仕事情報を共有する。
どうやら、急遽振られた案件に時間を取られてしまい、他がうまく回らなくなってしまっているようだった。
「じゃぁ、その急遽入ってきたやつを私が引き継ぐよ。他のはもう段取りも出来てるんでしょ?」
「昨日のうちにある程度は段取りつけてます。なので、ある程度まで進められれば、どうにか手が回るんですけど……」
ふむ。
あまり人のことを言える立場ではないけど、後輩もなかなかに自分で抱え込むタイプだ。
元々の性分か先輩である私が頼りないせいなのか……。
もう少し先輩としてしっかりしないとなぁ。
「じゃぁ、大体の状態はわかったし、会社へ戻ろっか。午後から私も頑張るから、一緒に片付けちゃおう」
「体調悪いのに、すみません。なるはやで終わらせて先輩にお願いした案件も、一緒にできるように頑張りますね!」
「うん、一緒に頑張ろう」
時計を見るともうすぐお昼休みが終わる。
私たちは慌てて片付けて会社へ戻った。
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