第24話 空っぽでおなじ毎日のくりかえし

 それから私の最寄り駅に着くまで園生くんは一緒にいてくれて、私の体調を心配してくれていた。

 しきりに、心配ごとや悩みごと、仕事やプライベートでの愚痴を聞こうといろいろと質問してきた。

 あまりにも聞いてくるので、逆に困惑してしまう。


「園生くん、本当にそんなに悩みもないから大丈夫だよ」

「本当に?すごく疲れてるようだし、仕事もこんな遅くまでやっていて体つかれない?大丈夫?」

「……園生くん、なんだかお母さんみたいだね」


 思わず、口に出しながらふふっと笑いが込み上げてきてしまい、笑っているのに気づかれないようにそっと手で口元を覆う。

 園生くんが私をみてから、少し視線を上にずらして少し考えるような仕草をする。


「僕が律歌ちゃんのお母さんねぇ〜……」


 そういうと、園生くんか両手を脇腹に添えてこちらを見る。


「もうっ、律歌?お母さんは心配して言ってるのよ?」

「……園生くん……?」

「お母さんみたいっていうから、ちょっと寄せてみました」


 園生くんは上ずった声で「お母さん発言」に乗ってくれる。いたずらっこのような顔をしていたけど、真面目な顔になると「本当に律歌ちゃんを心配してるんだからね」と、念押しされた。


 私の家の最寄り駅までつくと、園生くんは私が家までついてくると言い張ったけどそれは丁重にお断りした。

 園生くんがどこに住んでいるかわからないけど、私のためにわざわざ降りてもらうのは悪いと思ったのだ。


 駅から家まで歩いていると、駅前の居酒屋では仕事終わりのサラリーマンがまだワイワイしながら呑んでいた。

 実はいくら残業していたとはいえ、前のように終電ダッシュをしていないだけ体にも心にも余裕がある。

 園生くんは心配していたからちゃんと言えばよかったかな?

 仕事談義をしているサラリーマンたちを視界の隅にとらえながら、ぼんやりと考える。


 駅前がまだ仕事帰りの社会人たちでごった返している時間に帰宅するのは、久しぶりな気がする。

 今日は久しぶりに湯船にじっくりと浸かって自分の体をいたわってあげよう。


 ついつい、明日の仕事の段取りを頭で組もうとするのを無理やりやめて、きちんと休息時間を作るのだ。


 しっかり疲れをとって、明日に備えよう。


 そう思いながら、ベッドに入るとその日はマイダの国へは行かなかった。

 そのかわり、夢をみた。

 懐かしい、子どものころの夢。



『りつかはねぇ、おっきくなったらお姫さまになるの!』

『じゃぁ、ぼくは王子さまになる!』



『わたし、しょうらいの夢はケーキ屋さんかなー。それでね、こういうケーキ作るんだぁ』

『大きくておいしそう!』



『私、将来、マンガ家になりたい』

『マンガ描けるの?』



 そうだった。小さい頃はコロコロ将来の夢が変わってたっけ。

 結局、どの夢も叶えるための努力もしないで普通の高校に行って、合格したから大学へ行って、採用されたから今の会社にいる。

 何も考えず、まわりに流されて……私、このままでいいのかな……。

 このまま、ただただ時間を消費していくのかな……。


 目が覚めたとき目から一筋の涙がこぼれていた。

 懐かしい夢だったからなのか、思い返したときに私の中身がからっぽで何もない人間であることへの恐怖なのか?それとも虚無感なのか?


 カーテンの隙間からは朝の光が入ってきて、暗かった部屋の中を明るく照らそうとしている。


 この日、私は初めて会社をズル休みした。


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