第22話 悪事はバレてしまうように出来ている

 その鳥は立派なクチバシと鋭い爪を持っていて、すごいスピードで急降下をしてきたと思ったら地面に激突することなく方向転換をしてスピードを保ったまま低空飛行をして体勢を整える。

 低空飛行していた鳥は、私たちから少し離れると今度は低空から上昇しながら私と男たちの間に割って入るようにして飛んできた。

 鳥は私たちを助けようとしてくれているのか、私とすずさんを背にして男たちに対して威嚇をしながら飛び回っている。

 男たちはそれがかなり鬱陶しいようで、構えていた剣をブンブンと振り回して鳥を追っ払おうとしている。

 鳥は向けられた剣を避けながら、男たちの頭上をぐるぐると飛び回り、なおも男たちを威嚇している。


 私とすずさんはどうすることも出来ずに、お互いを守るように抱き合いながらその様子を眺めていた。


「……っんだよ、この鳥!どっかいけよ、クソ!」

「とっつかまえて焼き鳥にすんぞ!」


 その意味がわかったのか、鳥は少し上昇して男たちの頭上をクルクルと旋回し始めた。

 男たちは私たちの方へ向き直り、卑しい笑みを浮かべる。

 それを見た私たちは悪寒が走りお互いをぎゅっと抱きしめる。

 私たちの対抗できる武器は小さなフライパンとおぼんだけ。相手は剣を持っている。


「すずさん、逃げましょう」

「えっ……でもご飯代……」

「私たちの命には代えられません」


 ご飯代を回収したいすずさんを説得して、逃げる機会を伺う。

 男たちはニタニタと卑しい笑顔を浮かべたまま、こちらとの距離を縮めてくる。

 私たちは男たちを追い詰めていたはずなのに、逆に追い詰められる立場になってしまった。


 男たちの頭上でぐるぐると旋回していた鳥がまた、男たちと私たちの間をサーッと飛び、そのまま街の中心部へ飛んでいった。

 私たちの緊張した空気が一瞬変わった。

 

「今!走れ!」


 すずさんの声を合図に弾かれたように、目で追っていた鳥が飛んでいった方向へ思わず体が走り出した。


「あ!おいこら!待て!」


 男たちが一足遅れて私たちを追う。

 中心部へ向かえば、人通りも多いので男たちも下手に手を出してこないだろう。

 すずさんは普段からジョギングしているせいか、どんどん先へ走っていく。私も置いていかれないように懸命に足を動かした。

 しかし、自分でも知らない内に体が強張っていて足がもつれて転んでしまった。

 舗装されていない道は土煙を少し上げて、私の手と洋服に少し汚れをつける。

 男たちはしめたとばかりに私に走り寄って、持っていた剣を振り上げた。


 やられる!


 とっさに両手で頭を防御して、出来る限り体を縮こめた。


 ガキィッン!というさほど高くない金属音が頭の上で聞こえた。

「!!」

 音に驚いて更に体を縮めて丸くなる。


 何の音が確認する間もなく、誰かに腰を引き寄せられてその人の体のラインに沿うように

 四つん這いにされ耳元で囁かれる。


「腰抜けてる?立てるかなぁ?」


 園生くんとはまた違う、柔らかくも状況に似合わないちょっととぼけるような低めの声に、疑問の声を上げる前に腰に腕を回されて「よっこいしょっ」と立たされる。

 先程の音に驚いてしまってか、腰が抜けてくにゃりと足から力が抜けてしまう。


「あらあらまぁまぁ……」


 声の主は「失礼」と一言断ると、私を荷物のように腰に抱えてその場から離れた。

 さっきまで私がうずくまっていた辺りに向かって叫ぶ。


「ちあーん!捕まえるから痛めつけるくらいにしておいてねー!」

「わぁっとるわ、うっせーな!」


 抱えられながらそちらへ振り向くと、私に斬りかかろうとしていた男に対して『ちあん』と呼ばれていた別の男性が剣を受けていた。

 こちらからでは後ろ姿しか見ることが出来ないが、体格が良く腕の筋肉が隆々とその力強さを主張している。

『ちあん』が剣を受けていて身動きがとれないところを、シメたと言わんばかりにもう一人の男が剣を振り上げ斜めに振り下ろす。


「ちぃっ!」


 そのまま『ちあん』の胸元を斬りつけると思った剣は、何かに当たって弾かれた。

 剣を握っていた手にも弾かれた衝撃が伝わり、男は思わず剣を手から落としてしまった。


「なんだぁ?」

「はぁ……っ……こ、今度こそ……っ、逃さな、いよー……っ」

「あぁ!?……あぁ!てめえ!」


 剣を落としてしまった手が痛むのか手首を抑えながら、大きな声で男が叫んだ。

 びっくりしていると、ハァハァと息を切らしながら私たちが逃げようとしていた方向から走ってきた人物に驚きつつ、恨みがましい目で睨んでいる。


 私を抱えていた人が楽しそうな声で声をかけた。


「主役は遅れて登場〜っ!てカンジ?遅いから僕がいいとこ取りしちゃおうと思ってたのになぁ〜」

「はぁっ……いやいや、女性の大ピンチを……っ助けてる時点でいいとこ取り、してるでしょ!」


 息を切らしながらも、話す声にびっくりして思考がそのまま口からでてしまっていた。


「園生くん!?」

「……律歌ちゃんはやっかいごとを引き寄せやすいのかなぁ?」


 園生くんは笑いながら言う。

 私を抱えてる人が軽い口調で園生くんに話しかける。


「余裕ぶるのは良いけど、ちゃんとやることはやってねー」

「そりゃ、今回の主役ですからやるに決まってる!」


 そう言うとそのまま園生くんは男たちの元へ駆けていき『ちあん』の助けに入る。

 男たちより『ちあん』のほうが腕力があったのか、園生くんが助けに入るときには形勢逆転しそうな状態だった。

 剣を落としてしまった男は、相棒の男を助けようともせず「このままじゃマズイ」と逃げの態勢に入った。


「相棒おいてくなんて、ヒドイねー」

「逃がすかよっ」


 どこに隠れていたのか、屈強な体つきの男たちがわらわらとわいてきて逃げ道を塞いでいく。


「観念しやがれ!」


 園生くんが逃げる男の後ろから飛びかかり、男を転ばせる。そのまま男の上に馬乗りになり、男の両手の自由を奪う。

 逃げ道を塞いでいた男たちがさらに上から覆いかぶさる。

 また、男たちは『ちあん』に剣で押し負けていた男の元へいき、両足の自由を奪う。


「な、やめろ!」

「やめろって言われて誰がやめるかよ!くそが!」


『ちあん』がダメ押しで剣に更に力を込めて押し勝つと、体勢を崩した男は他の男たちに取り押さえられた。



 そこからは、スムーズだった。

『ちあん』が全体の指揮をとり、取り押さえた男たちを自警団組合が管理する留置所へつれていき、私を抱えていた男性が周辺の片付け、清掃と私とすずさんへ被害状況の確認。

 すずさんはというと、私より先を走っていたのもあり自警団の人たちと既にすれ違っていた。

 その時に男たちを捕らえる話を聞いていたので、事が済むまで安全なところで待機していたのだそう。


 30分くらい自警団に状況説明などして、私とすずさんは開放された。


 捕まった男たちはというと、マイダの国の中で多数の犯罪を犯し、私たち以外にも被害者がいるということで数年は自警団の管理下で罪の償いと更正のため、慈善活動を行うそうだ。


 これでまた安心してマイダの国でも過ごせる。


 私は段々とこのマイダの国での自分の居場所や日々の仕事に喜びを感じるようになっていった。

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