第84話 聖剣士が恥ずかしい? それは面白いな!!
「クリスタリア……ですか」
自分と同じ苗字クリスタリアと聞いて、リヴァイアが思わず尋ね返したのだった。
「あの……騎士さまのお名前は?」
今度はエアリーが聖剣士の名前を問うてくる。
「……ああ、この部下はシルヴィです。そして、我の名は――」
ここで偽名を言おうと思った。
まさか、自分があなたの探している聖剣士リヴァイアですよ……なんて言ってもしたら、実は目の前いるエアリーは女忍者――くのいちで、いきなり短刀で切りかかってくるかもしれない。
女騎士として、用心に越したことはないリヴァイアの処世術である。
「我の名は……」
ところが、しかしだった……。
「お~い! サロニアム王から聖剣士という大称号を授かったそこの聖剣士リヴァイア・レ・クリスタリア!!」
大通りの後ろから、今度は大きな声が聞こえてきた。
女の声だった。
「お~い! 元サロニアム第4騎士団長のリヴァイア・レ・クリスタリア!!」
駆け足で来る女だった。
「あの……。来ていますけれど」
シルヴィが後ろを振り返り、砂埃を巻き上げながら近づいてくるその女を見る。
「言うな……。我にも聞こえているぞ」
苦虫を噛み潰したような表情に変えるリヴァイアが、聞きたくもない部下の報告にしぶしぶ返事を返した。
「お~い! リヴァイア――あたしサロニアム第7騎士団長のフラヤ・マイラ・フレデリールだぞ~!」
「あの……、来ていますけれど……。フレデリール殿が……」
「言うな……、ああ来なくていいのに。サロニアム王はどうしてフラヤをオードール調略のための供に選んだのだろうな……」
愕然とするリヴァイア、自分がオードールに行くときに、この女騎士だけとは一緒に行きたくなかった相手――それがフラヤ・マイラ・フレデリールなのである。
それはどうしてか?
「どーして、あたしを大渓谷で足蹴にして追っ払おうとしたんだ? リヴァイア!」
大通りに立つリヴァイアのもとへと駆けつけるフラヤ。
はあはあ……と息を切らして率直な質問を投げつけた。
「まあ、我が……お前を嫌だからだろう……なぁ」
「あはは……冗談はよせって!」
目を合わせようとしないリヴァイア、こちらも率直に返答したのだけれど、フラヤはそれを笑って受け流したのだった。
いわゆる天然――それがフラヤ・マイラ・フレデリールだ。
「あのう、フレデリール殿は、もしかして大渓谷から走ってオードールまで来られたのですか?」
隣のシルヴィが質問した。
「あはは! そうともだ!」
両手を腰に当てて誇らしげに笑うフラヤ。
「あたしは第7騎士団長の女騎士だからな! これくらいの長距離走なんて問題ない。問題ないぞ、シルヴィ!」
「そ……そうですか。フレデリール殿」
「あ……あのう。リヴァイ……あなた様が」
エアリーが目の前で繰り広げられている騎士談話? にキョロキョロと目を見張っている。
「もしかして聖剣士リヴァイア・レ・クリスタリアさま……なのですか?」
「……我は」
聖剣士リヴァイアである……なんて今更いえたもんじゃないよね。
でも、そんな気持ちを無にするのが天然という人だ。
そう、オードールの大通りに立つ第7騎士団長のフラヤ・マイラ・フレデリールである。
「さあ! 聖剣士リヴァイアよ! シルヴィも! 今宵は『マイティーナ・レインズの宿屋』に宿泊するんだから、あたしももちろん泊まるのだから! だから、さあさあ! 早く行こう!!」
「フラヤよ……それ以上言わないでくれ」
「なんでだ?」
「それ以上、お前がネタバレするとな……我が、とても恥ずかしい思いをしてしまうからだ」
きょとんとした表情をするフラヤは、
「恥ずかしい……聖剣士が恥ずかしい? それは面白いな!!」
鬼の首を取ったがごとく、いや……ここでは聖剣士が所持している聖剣エクスカリバーの
という、一本取れそうなり! なしたり感を得ることができて満足でラッキーな気持ちになれた。
「全然、面白くないぞ……」
赤面してしまうリヴァイア、防戦一方のこの不利な戦局で彼女はただただ……恥ずかしい気持ちをなんとか胸の中に抑え込むことに必死だった……。
「あたしも、同僚リヴァイアの恥ずかしい顔をもっともっと見ていたいな!」
「見るな。見せたくもないぞ……」
「リヴァイア殿……」
「シルヴィも……見るでない」
「聖剣士リヴァイア……さま? あなた様が? 本当なのですか??」
エアリー・ティナ・クリスタリアが、ようやく目も前に立つ女騎士が誰なのかを理解する。
そして、思わず両手で口を隠す。
「ええっ! こ……こんなにも早く会える……なんて……」
驚きを隠せずにはいられなかったのだった。
*
クリスタリアか――
グルガガム大陸の、それも木組みの街カズース地方に伝わる苗字だ。
我、聖剣士リヴァイアも苗字はクリスタリアだ。
そういえば、
我には義理の弟がいたな。
『シルヴィ・ル・クリスタリア』
このシルヴィという名前は、我の部下シルヴィから名づけた。
そして、苗字をクリスタリアにした。
懐かしいな……。
元気にしておるのだろうか? あの男の子は。
『エアリー・ティナ・クリスタリア』
グルガガムの敵国の姫は、確かにそう名乗った。
我が持つ聖剣エクスカリバー。
二つ名をホーリーアルティメイトという。
クリスタリア家に代々伝わった家宝だということを、パパンとママンに幼い頃から教えられたっけ?
敵国の姫の苗字もクリスタリア――
我がクリスタリア家と何か関係があるのか……ないのか。
それを確かめてから、事を起こしても遅くはないのかもしれない。
続く
この物語はフィクションです。
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