第十三章 オードール100年戦争 ゾゴルフレアの元道化師
第82話 オードール
オードール――
今でこそ中立都市オードール砦灯台と名乗っているが、1000年前の我が聖剣士リヴァイアとなってから体験した初の遠征の地、オードールは中立都市でもなく。そして、砦灯台もなかった。
オードールはサロニアム・キャピタルと同盟国だった。
当時は交易も文化交流も盛んだった。
サロニアム・キャピタルとオードールは、砂漠をぶった切る大渓谷を挟んだ間柄だ。
サロニアム大陸の中央にキャピタルがあり、大陸の南西の内海に面した場所にある都市だ。
サロニアム・キャピタルは、大陸の南岸に都を築いていたことがあった。
旧都ゾゴルフレア・シティーである。
ゾゴルフレアは海峡を挟んだ外海に面していたけれど、オードールとはその頃から交流があった。
サロニアム・キャピタルとオードールが長く同盟関係でいられたのも、その頃からの交流の甲斐があったからだろう――
サロニアム大陸の西には当時は敵国のグルガガムの大陸があり、両者の下、オードールから内海を越えたところにゴールドミッドル大陸がある。
ゴールドミッドルは未開の大陸だ。
1000年が経った今でも、サロニアム大陸とグルガガム大陸との交流はほとんどない。
内海に海蜘蛛という巨大魔獣が居座って、それも1000年か――
荒れ狂う内海の果てにあるゴールドミッドル大陸だ。
一方のサロニアムとグルガガムは、大海獣リヴァイアサンが住む外海から大海峡で分断されている。
けれど、飛空艇では数時間の距離の敵国である。
我が聖剣士になるずっと、ずっと以前から魔族は闊歩していたのに、それでも人類は戦争を続けてきた。
同じ生物同士でこうも長々と覇権を争うのは、おそらく人類くらいではないか?
我――リヴァイアはグルガガム大陸の木組みの街カズース生まれだ。
我が物心ついたときから、サロニアムとグルガガムは戦争していた。
サロニアムの軍事力はグルガガムをはるかにまさっていた。
グルガガムがのちに城塞都市を築くきっかけを作ったのもサロニアム・キャピタルだ。
サロニアムの騎士団はサロニアム王に絶対の忠誠を誓う精鋭部隊。
大海峡を越えて、グルガガムを陥落させ、その勢いを木組みの町カズースにまで来るかというときに……
私の両親は飛空艇でサロニアム・キャピタルまで密航させて、私の命を助けようとした。
敵国に避難したほうが、サロニアム・キャピタルに移住したほうが、生き延びる確率が高いのは明白だったからだ。
私はサロニアム・キャピタルでは敵国の民であることを隠しながら、聖サクランボで修道士見習いとして働いていた。
やがて、究極魔法レイスマという預言書と出会い、
騎士団に入隊し、
第4騎士団長になり、次期王子に仕え――
次期王子は、オメガオーディンとの戦いの結果崩御された王子の
サロニアム王の命に従い、我聖剣士リヴァイアはオードールへと旅立ったのだ。
*
「聖剣士リヴァイア……殿?」
「なんだ……シルヴィ? 私を呼ぶときは聖剣士も殿もいらない、リヴァイアと呼んでくれと何度もお願いしているだろう?」
しょうがない部下だな……。
わが忠臣の部下、シルヴィ。
第4騎士団長リヴァイアに、部下のシルヴィ・ア・ライヴが肩を揺らした。
でも、それも……まあしょうがないのだろう。
我が聖剣士という称号をサロニアム王から授かったのだから、かしこまるのも当然か――
我が……偉くなりすぎたのだから。
「そうだぞ! なあ? シルヴィよ!!」
サロニアム第4騎士団長のころから、自分を支えてくれている親身な部下――シルヴィ。
緊張をほぐしてやろうと、聖剣士リヴァイアが満面の笑みで後ろを歩く彼に振り返った。
「そ……そんな。お……おそれ」
「……おおいか? 何がだ? 我は今でもリヴァイアと呼んでくれたほうが嬉しいのだぞ♡」
「そ……そんな」
シルヴィが力なく、とぼとぼと歩いている足を止める……。
「だってリヴァイア殿は、聖剣士ですよ! 聖剣士さま!!」
その称号を聞くと、誰もが畏れおおい気持ちになり、ひれ伏しその方を仰ぎ見る存在――それが聖剣士だ。
ながらくサロニアム騎士団員を務めてきたシルヴィから見ても、聖剣士はオメガオーディンを封印することに成功した者にしか与えられない聖なる称号――
ビビるのは、そりゃそうだった。
「……まああ……ねぇ。私は聖剣士リヴァイアだけれどさ」
頬を指で触りながらリヴァイアが少し照れる。
「聖剣士ですよ……。リヴァイア殿」
「だから、何度も……そう聖剣士って言わないでくれないか?」
「ど……? だって、オメガオーディンを封印したから聖剣士リヴァイアと名乗ることを許されたんじゃないですか? サロニアム王から」
ずんずんとリヴァイアに近づいてくるシルヴィ。
「す……すご過ぎるじゃないですか!!」
「ち……近いって。顔が近いぞ、シルヴィよ!」
シルヴィの顔がめっちゃ近い。
リヴァイアが思わず仰け反る。
「わ……我は、我だけの力でオメガオーディンを封印することに成功したんじゃないって。夫のダンテマが究極魔法ダンテマを発動することに成功したことも一因であり、我が――」
「封印! 成功!! 我が?」
両目をキラキラと輝かせるシルヴィが、まるで世界記録を達成したスポーツ選手に首ったけな勢いで問いかけてくる。
「わ……我がオメガオーディンが召喚した大海獣リヴァイアサンの毒気を浴びて、不死と
リヴァイアサンからの毒気を浴びることで、不死――死ぬに死ねない身体になってしまった自分は、自分としては不幸だった。
そうなのではあるのだが、その不死の力から無限大に近い身体能力を授かったのは不幸中の幸いなのだろう。
事実、オメガオーディンを封印することに成功したのだから。
それに封印しても、
――いずれ、また復活することは確実なのだ。
オメガオーディンは何度も何度も、封印と復活を繰り返してきたラスボスなのだから。
「だ……第4騎士団の長として、サロニアム騎士団の皆の力の協力を得て勝ち取った、一時の平和だと我は思うぞ」
「リヴァイア殿……。ああ、どこまでも素晴らしいお方」
キラキラが一層輝くシルヴィの両目。
「す……すば……。は……恥ずかしいこと言うなって。近いから、少し離れてくれ」
リヴァイアは、まだ聖剣士という最高栄誉な称号をもらってもいまいち馴染めないでいた。
他人から、というより騎士団の部下から聖剣士と呼ばれることが、こっぱずかしいでいた。
でも、なんだ……
聖剣士と皆から称賛されることは、その……なんだ。
まんざらでも、ないことはだ……、……なんて言うか。
正直、騎士として嬉しいぞ(ぽっ!)
続く
この物語はフィクションです。
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