第80話 リヴァイアの思い出―― 伝説の女騎士に会えたことが、とてつもなく嬉しくて。


「じゃあ! エリア司書長!! 私そろそろ聖サクランボに戻らないと」

 リヴァイアはそそくさと立ち上がり、子供たちに読み聞かせるための書籍をかき集める。


「……そうですね。あなたも聖サクランボでの、午後のお勤めも残っていることでしょうから」

 ええ……。大きく頷くエリア司書長。

 エリア司書長も、机の上に散らかしたティーカップやお菓子を片付け始めた。


「エリア司書長?」

「なんですか? リヴァイア」

「……ところで、この預言書を子供たちに読み聞かせたら……。喜びますかね?」

 肩に掛けていたバックに一つ一つ借りる書籍を入れながら、最後に『究極魔法レイスマ』の預言書を手に取ると、リヴァイアが恐る恐る尋ねた。

 古代魔法の図書館の司書長の彼女ならば、自分がチョイスした書籍の論評くらい朝飯前だろうと思ったからである。

「……あなた? どーせ理解できないからって……言ったじゃないですか?」

 ぷぷっ……。

 思わずエリア司書長は笑う。

「それは……そうですけれど……」

 自分の髪の毛を触るリヴァイア。

 何か変な質問したのかな……自分は? という具合に、エリア司書長に失笑されたことが意外に感じたのだった。

「……でも、子供たち面白がって聞いてくれますかね?」

「それは……、リヴァイア。あなたの読み聞かせの腕前次第です……よ」

 お腹で笑いを抑えるエリア司書長。

 あなたは修道士見習いなのだから、もう少しくらい子供たちの好みや気分を考えるようにと、これも修行ですよとリヴァイアにさりげなく伝えたのだった。


「……そ、そう……、そうですよね!」

「……はい。そうですよ」


 エリア司書長は返答するなり……しばらく窓の外を見つめる。

 視線の先には山脈が見える。

 それを越えると港町アルテクロスがある。


 アルテクロス城――


 それから、再び視線をリヴァイアへと戻した。

 彼女は司書長として、当然のこと『究極魔法レイスマ』の預言書を熟読している。

 だからこそ今、自分の目の前に立つ修道士見習いリヴァイアには、抑えきれない感動を覚えざるを得ないのだった。それは――

 子供時代に読み漁った冒険活劇の本を大切に胸に抱えていたら、目の前に一羽のウサギがひょっこりと登場。

 このウサギ? どこかで見たような……?

 そう! 今自分が両手に持っているこの冒険活劇の本に登場する水先案内人のウサギじゃないか!


 ウサギと出会えた――

 ということは?

 これから自分は物語の世界へといざなわれる?


 絶対にそうだ!!



「……じゃ、エリア司書長! ありがとうございました」

 リヴァイアがドアノブに手を掛けて、エリア司書長に軽く挨拶すると、

「……こちらこそ。素晴らしい思い出をありがとう」

 と、エリア司書長も軽く会釈して返事をした。

 内心、居ても立っても居られないワクワク感、抑えきれないくらいの高揚感と『究極魔法レイスマ』という預言書を読みまくってきた自分への満足感――

 

 伝説の女騎士に会えたことが、とてつもなく嬉しくて。



「ありがとう。聖剣士リヴァイア……」

 エリア司書長は自分の気持ちを小声に、感謝の念を心に抱いたのだった。





 続く


 この物語はフィクションです。

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