第十二章 サロニアム騎士団へ

第78話 リヴァイアの思い出―― 「……」無言になってしまった。


「……」


 無言になってしまった。

 この聖サクランボに来て、来た頃の私の動機とか心構えを、私は、ふと思い出してしまって。

 

 修道士を目指すんだ!

 

 子供たちの傍にいてあげて……両親に死に別れた、嫌われた、見捨てられた子供たちに一日でも早く笑顔を取り戻してあげたくて……。

 現実の聖サクランボのお仕事は想像以上にベリーハードだった。


 日々、自分自身から気力が去っていく感じがした。

 次第に笑顔も少なくなってしまった。

 私は子供たちと接するごとに、自分の人生がどれだけ


“恵まれていた……”


 のかを、否応無く感じたのだった。

 ――この子供たちの生い立ちにくらべて、私の人生なんか。



 きーら きーら……


 お空のほしーよ……



 かつてアルテクロスの天才作曲家が、若かりし頃に作曲したのをベースにしたお歌だった。

 このお歌、懐かしいな。

 私も好きだったっけ?


『なんだか、私すっかり忘れていたな……』


 忘れていた?

 忘れて――? 


 本当に??




       *




 フレカちゃん。


 7歳の女の子である。

 この女の子は今から5年前に、私が『聖サクランボ』で修道士見習いとして働くことを決意したとき、同じ時期にここにやって来た。

 ……2歳のときに近くの十字路で、両親が馭者ぎょしゃする馬車にフレカが乗っていて、警備兵の止まれの合図で停止しているときだった。

 対向車側から無視して来た馬車があって、その馬車が無理して右折……。

 急な手綱さばきで右折しきれずに、両親の馬車と接触した。


 両親は一命をとりとめることなく即死。

 フレカは幸い軽傷で、命は助かった。


 一族親戚の反対を押し切って結婚した両親だったらしい。

 残された2歳のフレカを誰が引き取るか……、誰も引き取ろうとはしなかった。


 ――フレカは事故のことを、たぶん覚えている様子だ。


 お散歩の時間で道路を手を繋いで歩いているとき、対向してくる馬車とすれ違ときに、私が握っているフレカの手が、ギュッと堅くなっていることに気がつく……。


 怖いのだろう。




       *




 クアルさん


 9歳の女の子である。

 私が『聖サクランボ』に来る前から、この子はここにいる。

 当時は4歳だった。


 ……両親はクアルの目の前で、よく夫婦ゲンカをしていた。

 幼いクアルは、隣の部屋の隅で耳を塞いでずっと耐えていたという。


 両親はケンカが終わると、今度はクアルに八つ当たりし始めた。

 食事のときにフォークの持ち方、お皿の持ち方に対して、ネチネチと難癖をつけては怒鳴る父親。

 わずか4歳の女の子に算数の計算を教えて、答えが悪ければ叱りつける母親。

 ……近所から、あの家は問題があるのでは?

 という魔法電文が聖サクランボを管轄している修道会に掛かってきた。

 修道士たちが駆けつけて事態が発覚。

 すぐに、クアルを強制的に保護することになった。


 一方の両親、虐待じゃないと、だから子供を返せと言い続けている。

 聖サクランボは断固拒否の姿勢を今でも貫いている。

 ここにクアルがいることも、両親には教えていない。





 続く


 この物語はフィクションです。

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