第十一章 クリスタリア家の一族 特別編
第75話 サクランボシードΣ 我に味方なんていなかった。
「やはり骨折の事故を、リヴァイアはまだ責めているのですね」
エスターナ修道士――
お久しぶりです。
聖サクランボを辞めてから、だいぶ経ちました。
騎士団員になり、騎士団長になって、聖剣士になってしまいました。
でも、これは運命なのだからと思って生きています。
そして、
難民として密航してこなければ、あのときの孤児も骨折せずにすんだのだと過去を憂うことがあります。
今もです――
*
――我リヴァイアが聖剣士となり、しばらくしてウルスン村に行ったときの話を語ろうと思う。
ウルスン村、レイスの父方の故郷だ。
一度きりの旅になるだろう。
聖剣士はこれでも、世界中から注目されている英雄なんだとか?
別に忙しくはないのだが、なんとなく……もうここに来ることもないだろう。
なんだか、我はお別れをしに行った感じなのだ。
そう、過去の自分とだ――
たぶん、そうだろう。
1000年前の辛辣な思い出。
それを中心に、今までの自分の人生の思い出を考えたかったのだ。
聖サクランボの孤児の骨折をである。
孤児が頭を激しく打っていたら、間違いなく天国行きだったろう。
運が良かったのかもしれない……孤児のことだ。
我は別に……。
これは、我の旅立ちの物語だ――
別れなければ、新しい出逢いは無いから。
同時に、新しい関係を友達と作っていきたいから。
レイス、ルン達とである。
――聖サクランボの孤児に付き添う形で我も病院に行った。
ただちに緊急手術をして、その手術は無事に終わったけれど、その子が全身麻酔から目を覚ましたときの最初の言葉が忘れられない。
「リヴァイアが2人に見える……」
幼い子供の全身麻酔は、かなり身体に負担をかけたのだろう。
まだ言葉も多くは話せない。身体も未成長で、もちろん脳も未成長だ。
そんな中の骨折という事故は、その子の脳にどれだけトラウマを与えてしまったのだろう。
怖い。
……そのはずだ。
――これが我が旅立ちに出た、とても重要な動機だったのだろう。そう思うのだ。
ダンテマから受け取った魔法電文の預言なんか、たいした理由では本当はないのだと思うのだ。
修道士見習いの我が、古代魔法の図書館で書籍を読み漁っていたときに見つけた本があった。
身近な人の死を受け入れるのには、かなり長い時間がかかるとその本に書いてあったことを、我は思い出す。
聖さくらんぼ園の孤児を骨折させた事故を、自己蔑視し続けていた修道士見習いのころの我がいた。
敵国サロニアムで難民であることを隠して生きていた、あのころの我だった。
我に味方なんていなかった。
聖サクランボのみんなだけが味方だと、我はそう思って生きていこうと……それが、孤児を骨折させたことで、我にはもうどこにも居場所なんてないんだと、我は戦争に翻弄された……今でも翻弄されている自分の運命を本気で呪ったのだ。
もう、忘れないと……生きていけない。
……もう、忘れよう。
我はウルスン村で一人、孤独に孤高に自分に言い聞かせる。
続く
この物語はフィクションです。
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