第2話

 大親友とは高校からの付き合いだ。

 受験するにあたりこの高校を選択したのは県内でも数少ない軽音部が有ったからで、無事に合格していざ手続きしようと顧問に伝えると、入部条件に同学年でメンバーを揃えるべしとあり、ひょんな事で互いに余り者だと知った彼女と出会ったのが始まりだ。

 それから卒業までの三年間、クラスが変わっても同じになっても相談事はコイツ、という固い絆で結ばれるようになっていき、そして現在、運良く大学も同じ学科に進み、共に切磋琢磨している。


「あれ、今日は棚橋一人?」

 大親友と出席番号が前後する男子が問う。

「体調が悪いみたいで休みだけど、聞いたら大したことないから大丈夫だよ」

 まさか、生理痛が酷くて、とは言えないんでね。

 同性でも個人差があるこの症状。

 大切なこととはいえ、毎月鬱屈として、面倒だ。

「昨日はあんなに元気だったのに、心配だな……あのさ、お見舞いメールってしても良いと思う?」

 コイツはマメ男だ。

 しかも、何かと気遣いが出来るスゴイ奴。

 家族構成を聞いたら姉がいるらしく、その賜物かもね、と大親友と納得したっけ。

 ちなみに、同科の女子からは影で〈気配り王子〉と呼ばれて持て囃されているが、本人は全くもって気付いていない。

 知ったら何と言うか、見ものだ。

 そして、この王子のハートをがっちり掴んで離さないのが、何を隠そう我が大親友なわけだ。

 何でも、大学受験日に一目惚れをして以来、変わらぬ想いを募らせ続けているそうだ。入学十日目にして彼氏持ちだと知って愕然としたにも関わらず。

 その健気さには、ただただ脱帽である。

「気になるのも判るけど、今日は寝かしてやってよ。明日、来た時に声を掛ければ十分だよ」

 大親友の体調を考慮した助言をすると、ガクッと肩を落として隣の席をチラ見する。


 初いやつよのぉ、気配り王子。

 そして愛されてんな、大親友。

 でもね。

 それ以上に、この身が愛してやまないんで。

 悪しからず。


「ならば、藍田に『お大事に』って伝えといて。ところで棚橋、今日の昼飯、一緒に食わない?」

 おや、大親友が居ないのにお誘いなんて珍しい。

「何だ、何だ〜? 企みがございますって顔してるよ、シュン兵衛」

「あのなぁ、そのヒトの名前で遊ぶのやめろって」


 気配り王子こと、逢坂アイサカシュン。

 コイツの名を弄んで呼ぶのが最近のマイブーム。

 他人の嫌がる事はしてはいけない。

 でも、返るツッコミが楽しくてつい出てしまう。

 ワタシの精神年齢の低さがモロバレだね。


「寛大なシュンシュンだから許されると思って、てへ♪」

「てへ、じゃねーわ、全く。で、どうなんだよ?」

「んー、理由次第かな? カホが居なくても、相席する子は居るからね」

 そう返すと、逢坂シュンは一瞬視線を外してちょっと躊躇いがちにボソッと呟いた。

「……その藍田の事を、教えて欲しいんだけど」


 藍田カホ、我が大親友。

 ワタシにとって、唯一無二の大切な存在。

 それを察する逢坂シュン。

 ワタシを、共にカホを見守る同志と思っている。


 キミは上手いこと情報収集をしたいのだろうが。

 個人情報をダダ漏れさせる訳にはいかない。

 が、当たり障りのないことなら良いかと判断し、

「仕方ないなぁ、今日だけはつき合ってやるよ。大事な、大事な、シュン坊にね」

 共にお昼ご飯を食べることにする。

「だーかーらー、やめろってーの!」

「あはは!」

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