片想いなんて続けてするもんじゃない
Shino★eno
第1話
「タナちゃん。好きな人には、好きな人がいたよ」
授業を終えたばかりでザワつく教室の後席から、ため息混じりの呟きを聞く。
突然の出来事に恐る恐る振り返れば、陽当りの良い窓際席から澄み切った空のはるか彼方を見つめる、背の高い同級生。耳丈ショートのセンター分け&さらツヤ髪を揺らしてほお杖をつき、ぼんやりと物思いにふけるその横顔はK-POP男性アイドルさながらの美しさ。
いつ見ても男前よの、わが大親友よ。
そやつがワタシに相談するわけですよ。
いや、違うな。
相談じゃなくてグチだな。
「あったねー、そんなCM。その記憶力を勉学とギターにも向けて、励めよJK」
「真面目に聞いて。相手は年上だから諦めてるけど、事実を知ったからには、やっぱり凹む……」
多少の事ならポジティブ変換で乗り切る大親友。
今回はちょっとダメージが大きそうだ。
「それは〈カノさん在り〉って事で、OK?」
「違う。ただの想い人……らしい」
「面倒くさい言い方しやがるな、そいつ」
「そいつ、って言わないの」
「口が滑った、すまぬ。お詫びじゃ」
昼食までの小腹を満たそうと取り出したスティックチョコ菓子を咥えさせると、手も使わず器用にポリポリと口の中に収め、ガンッと机に突っ伏して唸りはじめた。
これはフォロー必須だな。
「カノでないなら、可能性は有るんじゃないの?」
するとフルフルと首を横に振り、無理と言う。
何故かと尋ねたら……。
「はぁ!?
そりゃ、諦めの境地だ。
憧れるにしても限度があるだろう。
何でそんなおっさんに惚れたのか。
「前に話したギター教室の講師なんだけど、見た目も内面も若いんだよ。人見知りで第一印象が良くない私にも、粘り強く声かけてくれてね。演奏技術だけじゃなくて悩み事も真剣に聞いてくれるし。でも、ちょっと抜けててそれが面白くて……そのギャップに、つい……」
「どうせ全員に優しい顔するヤツなんだろう?」
「分かってるんだけどねぇ……」
むくっと起き上がり、チョコ菓子をもう一本咥えるとぷにゅっと頬を潰しながら哀しそうに笑う。
出来ることなら、これを機にスッパリ断ち切るべきだ、と言ってやりたい。
見たくないんだよ。
そんなに落ち込む、暗い顔なんて。
高身長を気にして目立たぬように猫背気味で歩き、ギターの腕前が上達してもまだ足りないと嘆く自信なさげな性格でも、てへっ♪ とハニカんでその場の空気を和ませるその天然の優しさが素敵で可愛いんだからさ。
でも、安易に言えないのがツライところ。
すんなり諦められたらこんなに苦しむこともない程に想っていると、我が身の如く知っているから。
◆ ◆ ◆
それから一年後。
大学受験のために辞めたギター教室のおっさん講師から、卒業式直後に突然連絡が入る。何故か怒り心頭の大親友は、ワタシ達と一旦別れてレッスン室に押しかけ、その場の雰囲気に飲まれたのか、ウッカリと告ってしまったそうだ。
そのあと開いた〈
何だよ、上手くいきやがって。
つまんないの。
一緒に遊ぶ時間が減るじゃないか。
「土日は仕事だから、いつでも空いてますよ!」
オイオイ、年下カノちゃんを放置かよ。
マジで舐めてんな、そいつ。
年上への憧憬心をもて遊びやがって。
まさか、いいとこ取りで済ませる気なのでは?
一度、シメた方が良いんじゃないのか、これ?
「暴力は無意味です、落ち着きなさい、心配は無用ですよ」
異世界の聖女様みたいに寛大な微笑みで安心して見せるが、いつかまたションボリ顔に変わるんじゃなかろうかと、こっちは気が気でなく。
もし万が一、泣かせるようなことがあれば八つ裂きにしてやると決意を
これ、大親友に抱くにはおかしな感情だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます