気遣い上手のはずなのに

『え、莉子ちゃん今日来られないの?』

「ごめん、ちょっと風邪引いちゃって」

『あたしお見舞いに行くよ。何か買っていった方が良い物ある?』

「そんな大袈裟にしなくても良いって。それよりせっかく有馬と二人きりになれるんだから、デート楽しんできなさい」

『あ、莉子ちゃ――』


 スマホの通話を切って、私は自室の机の上にうつ伏せになる。


 お見舞いなんて必要ないよ。だって本当は、風邪なんて引いてないんだもの。


 夏休みも後半に入り、今日は三人で遊びに行く約束をしてたんだけど。私は風邪を引いたと嘘をついてキャンセルした。

 まったく。桜も有馬も、少しは二人だけのデートを楽しめっての。


 二人が付き合いだしてから一ヶ月が経つけど、桜ってば何かあれば三人で動きたがるんだよね。

 映画を見に行く時も、夏祭りも、決まって声をかけてきて。だけど私は、その度に断っていた。

 だってせっかく付き合ってるんだよ。邪魔なんてしたくないもの。

 有馬も有馬よ。「二人で行きたい」くらい言いなさいっての。


「まったく、二人ともダメダメなんだから」


 うつ伏せになったまま、苦笑いを浮かべる。


 これで良いんだ。

 私は二人の、キューピッドになるって決めたんだから。


 だけどその夜。

 有馬からスマホに、メッセージが届いた。


【今から会えないか】


 どうしたんだろう? ひょっとして、桜と何かあったのかなあ?


 どう返事をしたものか悩んでいると、さらにもう一件。


【風邪引いたなんて嘘なんでしょ。公園で待ってるから】


 メッセージを見て、衝撃が走った。

 有馬、私の嘘に気づいてる?


 なんだか嫌な予感がする。

 急いで家を飛び出すと、近くにある公園へと向かった。


 小さい頃、よく三人で遊んだ公園。

 有馬はベンチにポツンと座っていたけど、私が来たことに気づいて立ち上がる。


「莉子、どうして今日は来なかったんだ?」

「桜から聞かなかった? 風邪を引いちゃって……」

「それ、嘘だよね。バレバレだよ。桜だって嘘だって気づいて、泣きそうになってたんだから」


 全て分かってると言わんばかりの態度。

 だけど、それよりも気になったのは。


「待ってよ。どうして桜が泣くの!?」

「分からない? 莉子、最近俺や桜のこと、避けてるでしょ」

「別に避けてなんか……」


 だけど言いかけて、ハッと気づいた。

 そういえば最近、桜と有馬を二人きりにさせるため、距離を置くことが事が度々あった。

 ひょっとしてそれを、避けてるって思われてたってこと?

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