第16話
「なあ、ここって」
「ええ、注意していきましょう」
「ボクが先頭を行きます」
そうシバルが言って先行して森に入っていく。
少し予想はしていたが、ゴブリン退治の依頼として書かれていた場所はあのゴブリンソルジャーが逃げ込んだ森だった。
一日たっているし、武器もないから大丈夫だということなのだろうか?
でも昨日の話であればモンスターの巣なるものができているという話しだったのに、こんなに簡単に奥に進んでいいものかと考える。
まあ、この世界の知識があるわけではないので、俺がこれといって意見を言えるわけではない。
それでも、さすがの俺と同じ見た目年齢で騎士をやっているだけある。
少し進んだところで何かを見つけたのか、足をとめた。
「足跡があります」
「わかったわ、ただし」
「了解」
俺は足跡があった近くの木に紐を結びつける。
これは目印だ。
というのもだ、今回はゴブリン退治ともう一つ頼まれていたことが実はあった。
それは森に入る前だった。
ゴブリンソルジャーが逃げ込んだ森ということもあり、森から少し離れたところでテントが作られ、昼夜とわずに騎士だろう人たちが監視していたのだ。
そんな中で森に入ろうとする俺たちに、騎士たちは声をかけてきたのだった。
「すまない。君たちは冒険者だな?」
「そうですけど、どうかしましたか?」
「うむ、シバルが冒険者としてギルドに所属しているという話しは聞いていたが、本当だったとはな」
「でも、それなら話は早いですよ」
「そうだな」
シバルを見て、ある程度の実力があることをわかってくれたのだろう、二人の騎士は赤色の紐を渡してきた。
「これをゴブリンの足跡がある近くの木に目印として結んでほしいんだ。」
「ということは、作戦は近いということですか?」
「そうだな。騎士団に所属していな、今のシバルに話すのは本当は規則違反だが、まあ手伝ってもらう以上話す必要があるな」
「お願いします」
そうして聞いた話によると、ゴブリンの上位種が出てきたというところから、何かしらのモンスターの巣ができていることは確かで、それを破壊するために騎士団が総力をあげて森に入るというものだった。
そのためにも、今は森からモンスターが逃げないように見張っているというものと、進行の際に必要なモンスターたちがどこから来ているのかをある程度把握するためにも、必要なことらしい。
まあ、それをたどることによってモンスターの巣を見つけやすくするというものだろう。
それにしても思ったことがあった。
「シバルってやっぱり有名人だったんだな」
「そ、そんなことはありませんよ。」
「いや、ないなら、あんなに声をかけられたりしないよな、アイラ」
「そうね。さすがに驚いたしね」
そう、森に入るまでに騎士の何人かに声をかけられていたのだ。
そして、俺が思うに、その何人かはシバルのことが好きで声をかけているのだ。
本人は鈍感でわかっていないようだが…
これじゃあ、誰が転生してきた主人公なのかわからないくらいだぜ。
そんなことを思いながらも進んでいたときだった。
一番前を進んでいたシバルが前で止まる。
これまで歩をとめるときは、足跡を見つけたということを話していたというのに、それを言わないということは…
「ゴブリンがいます」
声量を抑えてこちらにそう言ってくる。
少し予想はしていたが、やはりゴブリンがいるようだ。
依頼に書かれていた内容は、確かゴブリン退治。
それも森の中にある湖近くをたまり場にしているやつらを討伐するというものだった。
どうやら地図の通りに進んできて、しっかりと当たりをひいたようだ。
「どうやって行きますか?」
「そうね。私が前に出てバリアを張って…」
「いや、俺に考えがある。」
「「!」」
ふ、出しゃばって悪いな。
だが、ここまで普通状態といえば、いいのか普通の恰好をしている状態で何もできていないので、ここは新しく武器をもらった俺に考えが本当にあった。
よくも悪くも、こういうのは物語を読んでおいてよかったというものだろう。
「どうするのか聞いてもいい?」
「ああ…難しそうならそれでいいが、これだ」
俺は実はお店で買っていたあるものを出した。
「それはなんですか?」
「ふ…女性用の収縮素材だ」
「って、ただし…これって最近流行ってるストッキングってやつじゃないの。そんなものを使うってこと?」
「ストッキング…履くものなんですか?(な、何かいいですね)」
一人ずつに配ったところで、シバルが何かを言っていたような気がするが、聞こえなかったのでスルーすることにした。
確かにストッキングだ。
普通に使うとそうなるだろう。
でもこれには武器として使う方法もある。
一つは俺が被る。
これはヘンタイになるという意味で使えるだろう。
そしてあとはかぶせる。
これで相手の視界を混乱させることができるが、かなり近づくことが条件になるため難しい。
あと使えるといえば、伸びることを生かした、石を入れることによってできる鈍器と、石を投げ飛ばすことができるというものだ。
俺はそれを見せるべく、落ちていた手ごろな石をストッキングの中に入れる。
「よし、同じようにしてくれ」
「わ、わかったけど。いつ買ったのかとかも含めて後で問い詰めるわよ」
「そうだぞ、どこで買ったのかも教えてもらわないと困る」
そして俺たちは装備を増やして湖にたむろしているゴブリンに向けて飛び出した。
依頼書に書かれていたゴブリンの数は四体。
一人一体相手では、枚数で負けてしまうので、ここはしっかりと初手からかましてやろうと思う。
右手に持ったストッキング鈍器と呼ぶことにしたそれを縄跳びをするようにして腕の横でぶんぶんと振り回し、見つかっていない今のうちに一体に投げつける。
「ギャ」
そんな声がして、一体のゴブリンに当たる。
それは不意打ちであり、さらには横には湖があることから、少しでも態勢を崩したところでそいつは湖に落ちる。
どれくらいの深さがあるかわからないけど、これで少しの時間でも人数が同じになることができれば、俺たちのほうがあきらかに強さで優っているので、勝てる。
俺はアイラにうなずく。
それだけでアイラは口を開く。
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
これにより、気づいたゴブリンたちが攻撃をしてきたものの、一撃目をしっかりと防ぐ。
それにより、ゴブリンの態勢が崩れたのをシバルは見逃さない。
「ギャ」
そんな声とともに、右手の剣で一刀両断する。
そしてもう一体については左手にもっていたストッキング鈍器で殴りとばす。
おお強い。
俺も作ってもらった、このナックルによって、相手を殴り飛ばした。
上位種が強かったせいで、こいつらがこんなに弱く感じるとは思わなかったな。
そんなことを思いながらも、湖から這い上がろうとしてきたゴブリンの頭を、ストッキング鈍器で殴っておく。
うん、我ながらいい武器だ。
そんなことを思いながらも、俺の初めての戦闘はなんとも危なげなく、そして味気なく終わったのだった。
まあ、いいことだなと思ったことは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます