第15話
朝を迎える。
しっかりとポケットにある感触を確かめながらも、俺は部屋を出た。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよ…」
昨日というべきか、今日というべきか、変な時間にお互い出会ったことで予想はしていたがアイラは眠たそうだ。
俺はというと、変なテンションというか、気持ちというか…
それの整理によって気づけば時間がたっていたせいで、多少の眠たさはあったが、それよりもアイラの下着を落とさないことに必死だった。
まあ、仕方ない。
落としてしまえば、俺のここでの人生が終わる気がするからな。
朝食を簡単にとり、俺たちはギルドに来ていた。
「今日は何を受けようか?」
「そうですね…」
「ただしは受けたい依頼とかはないの?」
「ええっと…」
俺は真剣に貼られている依頼を見る。
これは何を選べばいいのだろうか?
無難にいけばというべきか、二人が受けたいものを選ぶのであれば何かを討伐する依頼だろう。
それを二人は行きたいと思う。
確かに討伐系の依頼はそれだけでお金もそれなりにいいので、これをこなせればいい稼ぎになるだろう。
ただ、今更ながらに俺は思った。
ギルドにいる人数が少なくないかということだ。
「なあ、ギルドってこんなに人がいないものなのか?」
「えーっと、そうね。ただしはこの世界のことをまだあまり知らなかったもんね。それは依頼を受けて、道中で説明するわね」
「了解。ってか、俺には何を受ければ正解なのかわからねえな」
「あはは、そうだね。なら、まずはゴブリン討伐なんてものが無難でいいかもね」
「確かに、あのときに出会ったモンスターよりも弱いんだよな」
「ええ、そうね。ただ、問題は少しだけあるけどね」
「そうなのか?」
「まあ、それも含めてこれを受けるってことで話ながら、行きましょうか。シバルもいい?」
「はい。ボクはアイラ様がいいと思うものならそれで」
「それじゃ、これで行くわよ」
「了解」
そうして受けた依頼は、ゴブリンを討伐するというものだ。
受けられるものでは一番報酬が高いということは、それだけ難易度は高いのだろうけれど、まああのときよりも弱いのであれば大丈夫だろう。
俺も武器をゲットしたのだ。
それも二つもだ…
一つは決してばれてはいけないものではあるが、考えないようにする。
そうして受付嬢であるジルに依頼書を渡して、依頼をうける。
「それじゃ、これから依頼を受けるってことで、これをね」
そして外に出たときだった。
アイラから、その言葉とともに渡されたのはコートのような服だった。
「これは?」
「いつまでも、そのままじゃ恰好つかないから、本当は中の服から変えるのがいいんだけど、見た目的にも防具としても一番使い勝手がよくなりそうな、コートを拘って見ていたら、かなり値段が張って、それくらいしか買えなかったんだよね」
「そうなのか?それでも嬉しいよ」
「そう?喜んでもらえてるなら、私も嬉しいよ。それに私も同じようにしてもらったんだ」
「おー、確かにかっこいいな」
「でしょ。シバルもね」
「ボクの場合はあまりいれる場所がなかったので、これくらいですが」
入っていたのは、俺のコートの背中部分に描かれていた鏡の絵だった。
全てを反射してはねのけてしまおうということらしい。
俺たちはお揃いのものが描かれた服の部分を少し見せ合ってから、ゴブリン退治に向かう。
道中で話す内容は決まっていた。
ギルドの様子についてだった。
「それじゃ、ギルドに人がなんで少ないかっていうことを教えておくね」
「ああ…」
「ギルドに所属するメリットがあまりないからというのがまず、一番の理由ね」
「どういうことだ?依頼をこなせば、お金も入るし、ギルドに入るメリットはあると思うが?」
「ふむ、そこを簡単に言っておくと、ボクは騎士としての仕事をしていたから、それにより給料が入るし、もっと安全にモンスター狩りをしていた。こんな三人でするなんてことはこれまでなかったんだ」
「どういうことだ?」
「急に察しが悪いわね。だから、私たちは普通に職業として、私はこのまま修道院に戻れば修道女になって、困った人たちの治療なんかをすることで、毎月決まった給料をもらうことになるってこと」
「なるほど…あ、そういうことか…」
「わかった?」
「ああ…ギルドに所属して危険なその日暮らしをしなくても、いいってことか?」
「そういうことね。ギルドに所属して冒険者になるというのは、確かにロマンがあってそれなりに憧れがあるし、私も憧れていて、それで今こうやってなれたのは嬉しいけど。同じことをずっとしてしっかりとした給料をもらえないというのは、それだけでキツイということももちろんあるからね」
「それは確かにな…」
「そうそう。だから、シバルは別に騎士団に戻ってもいいのよ」
「いえ、ボクは前からアイラ様についていくことだけを考えていましたからね。それに、今はこうやって教える相手もできたことが嬉しいですから」
「そう?それならよかった」
「すまない。話の腰を折るようで悪いんだが、だったらなんでギルドにはあれだけ依頼があるんだ?」
「それは、受けきらないからよ」
「というと?」
「それはボクのほうから…ボクが所属していた騎士団についても、今いる人数でも数百人で、それだけいても町の警護なんかを行いながらも、さらには何かあった際にはモンスター狩りにも行かないといけないとなると…」
「人が足りないってことか」
「そうなりますね。だから優先的に対処できないものに関しては、ああやってギルドに依頼するという形になるということですね」
「なるほど」
それであんなに依頼があるということか…
理解はできた。
でもそうなったら、俺の選択ってかなり間違っていたんじゃないか?
だって普通に考えれば、剣をまともに使えるかは置いといても、それでも剣を練習して騎士団などに属しているほうが決まったお金をもらえるというものだからだ。
社畜をやっているからわかるのだ。
安定というものはいつなくなるかわからない。
だからこそ、安定して稼げるときに稼いでおいて後は悠々自適に過ごすというのが正解だということが…
いや、違うだろう。
よく考えるんだ。
冒険者で一発何か大きなお金を稼ぐことができたなら、それで悠々自適な暮らしができる可能性がまだ俺にあるということを…
【甘い話をしているわね】
「(急に話かけてくるなよ)」
【だって仕方ないじゃない。そんな今は平和だから成り立っているだけの暮らしを望むなんて】
「(いや、元社畜からしたら、それが正解だと思うんだがな)」
【そんなことないでしょ…というか、そんなことになっても戦いは待ってはくれないのよ】
「(そうは言ってもな。俺は別に戦いを望んでいるわけではないんだけどな)」
【それはわかっているけど、それでも少しでも強くなっておくことにこしたことはないわよ】
「(確かにな)」
【まあ、頑張りなさい】
「(へいへい)」
どうあってもスターは俺が戦っていてほしいようだ。
まだまだわからないことだらけだが、コツコツやるしかないってことか…
願わくばこれを被らないで、ずっといたいものだな。
俺はコートを着ることによって落ちることのなくなった下着の感触をポケットに感じながらも、町から出たのだった。
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