第14話
【何やっていたのよ】
「仕方ないだろ、あのタイミングで下着泥できるわけないんだからな」
【いいでしょ、ヘンタイなんだから】
「それはスキルであって、俺自身のことじゃねえだろうがよ」
【それを決めるのはあなたじゃないわ、あたしよ】
「いや、俺だよ。何俺を命令しているような立場の人みたいな雰囲気を出しているんだ急に」
【でも、本当にこのままだと後悔するってことにならないようにしなさいよ】
「わかってるよ」
俺は結局下着を盗るということはできなかった。
あの後は、普通に話をして部屋に入ることなく終わった。
それはそうだ。
部屋に入らせてなんてことを簡単に言えるようだったら、俺は魔法使い一歩手前まで童貞でいることもなかったはずなのだから…
くう…
こんなところで童貞の弊害がでるとはな…
「ま、今日も寝るよ。」
【勝手にしなさいな】
そうして眠りについたのだが、俺は夜中に目を覚ました。
慣れない土地で眠ることで予想より疲れがあったのは確かだったが、こういう日もあるということだ。
「そういえば、この宿にはお風呂があるということだったな」
一度さっぱりしてから眠りにつきたいと思った俺は汗を流すためにもお風呂に行くことにした。
確か夜では男女別になっているが、時間帯によってその浴場が入れ替わるということを聞いていた。
ということは違うお風呂に入れるということだ。
やっぱりこういうのはどっちも入らないと損というものだった。
まあ、今日の宿も最初からお風呂がある場所を選んだからだ。
お金はかかったけれど、今日は魔石を売ったお金もあったことからこの場所に泊まったのだ。
ゴブリンを倒したことに貢献したということには表向きではなっていないが、それでもお風呂で疲れを流すくらいのことは許されるだろう。
「なんだと…」
「え?」
お風呂にゆっくり浸かる。
そんなことを思っていた数分前の自分に言ってやりたい…
よくないことが起こるぞと…
そうお風呂に入るとすでに先客がいたのだ。
言わなくてもわかるだろう、女性だ。
それもこの二日ですでに見慣れてしまうくらいにはたびたび一緒にいる女性。
「アイラ…」
「いつまで見ているの?というか、ただしもそれを隠しなさいよ」
「ああ…」
お互いに体を逸らす。
なんというか気まずいタイミングで入ってしまった。
ただ、おかしい、お風呂に入る前に湯が男性用か女性用かを確認したときには確実に男性だった気がするだが…
「ただし、女性用の湯に入るってことは覗き?」
「いや、違うから…というか覗きならこんな勢いよく裸で入ってはこないだろ」
「た、確かに」
「ちなみにアイラは確認したのか?」
「何をよ」
「今の時間は男性用だったはずだぞ」
「え?何それ…」
「話を聞いていなかったのか?この宿は時間によって男性用と女性用の湯が入れ替わるということを」
「き、聞いていなかったわ」
ということは俺が間違っていなくて、アイラが間違っていたということか…
よかった。
俺が素でヘンタイになっていなくてな。
そんなことを思いながらも、このままというわけにはいかなかった。
わかっている…
これまで現実でこんなイベントに出くわしたことがないが、それでもゲームとかでこういう場面は何度もあったんだ、これくらいは俺でもなんとかできる。
落ち着きを取り戻すように深呼吸をした俺は口を開く。
「とりあえず、俺が着替えて誰も入らないように見張っているから、その間に出てくるというのでどうだ?」
「そ、そうね。それがいいわね」
「あ、ああそうしよう。出る前に声をかけるからそれでいいか?」
「任せたわ」
【いや、一緒に入りなさいよ】
お風呂からでる前にそんなことを自称神に言われたが、無視だ無視。
そもそもあの状況で笑顔で一緒に入ろうと言うのは、相当のバカか、かなりのイケメンか、もしくは俺が女体化できる体質のどれかだ
こうして俺は更衣室へと戻り、最短で着替えると…
ゴクリと生唾を飲み込んでいた。
いや、ダメだ。
このままとってしまえば俺はヘンタイになってしまう。
だが、ここでとらないことには俺はこれ以上の強化は得られない。
いや、冷静になれこんなものをとると、それこそ俺はあの自称神にいいように使われているだけになってしまうんじゃないのか?
ただ、何かあったときに俺が戦えずに二人がやられてしまえば…
そんな葛藤を数秒していたときだった。
【何を迷っているの?とりなさい】
「いや、それが簡単にできないから困ってるんだよ」
【でもとらないことにはそこから動けないわよ】
「た、確かに…」
これはヘンタイスキルの呪いか?
そう思うくらいにはアイラの下着を目の前にして迷っている。
というのもだ、先ほどのお互いを見てしまうという現場にてスキルが発動してしまったのだ。
確かにだ。
俺は現実では三十になっているくらいの年齢だろう…
だからって俺の半分くらいの年の女性にヘンタイスキルを発動してしまうなどと…
俺はそれを掴んでポケットにしまったのだった。
誘惑には勝てないということなのだ。
【ふふ、よくやったわ】
悪魔のささやきにしか聞こえない声に俺は何も言い返すことができないまま、アイラに声をかけた。
「出てるからな」
「うん、わかったわ」
そうして出てくるまで気が気ではなかったが、アイラは更衣室から出ると確かにかかっている暖簾のようなものを確認してため息をつきながらも、声をかけてくる。
「ねえ、した…何かなくなってなかった?」
今、たぶん下着を見なかったと言いたかったのだろう。
ここでばれては全てが終わってしまう。
俺は首を振った。
そしてなるべく優しい声で言う。
「何かなくなっていたのか?」
「いや、そのなんでもないんだけど…」
「そ、そうか?」
「う、うん」
さすがに男に向かって、下着がなくなりましたなんてことを言えないよな、元聖女なんだし…
ただ、下着がないせいかもじもじと恥ずかしがっている姿が妙になまめかしく見えてしまったのは俺の見間違いだろう、そうだろう。
中身はいい年したおっさんの俺が、元々半分の年しかない女性を好きになるなんてことなどあるはずないのだからだ。
そんなことがありながらも朝はやってくる。
俺はポケットにしまった下着の感触を確かめながら、時間がたつのを待ったのだった。
でも修道女は白をつけるという話しだったのに、アイラが履いていたのは黒…
こういう破廉恥なのを穿くのはよくないと思う。
一番ヤバいことをしている俺がそんなことを思うのだった。
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