第11話

「さっきは悪かったな」


店に入ると、俺にだけに聞こえる声で、そんなことを言ってくる。

あ、こいつは以外といいやつなのかもしれない。

ちなみに、アイラはというと、笑いがとまらなくて、シバルに支えてもらってお店に入ってきている。

少しして、ようやくアイラの笑いが収まったタイミングで、男が口を開く。


「それで、シバルは今回は何を求めてうちに来たんだ?」

「それは、このただしに武器を持たせるため」


シバルがそう言うと、男は俺のことをじろじろと見る。

たぶん、値踏みしているんだろうと考えていると、男は俺にかかっている指輪を見ると鼻で笑う。


「こんな弱そうなやつが、パーティーリーダーだって?ヤバいだろ」

「そんなことない」

「いやいや、どこに強そうな要素があるのか教えてほしいね。さっきの扉を開けたのだって避けられないみたいだしな」


あきらかにバカにしたように言ってくる。

それに対して俺はというと…

その通りだとしか思っていない。

だって普通に考えて、スキルを発動してなければ、俺は今からゴブリンを本気で殴れば自分自身が負傷するというなんとも恥ずかしい状況になるだろう。

だったら、ヘンタイスキルを発動したらいいだって?

ふ…

俺はヘンタイじゃないんだ。

無理なことを言うなよな!

そんなことを一人どうしたものかと考えていたときだった。


「だったら模擬戦すればいいじゃない」

「「え」」

「シバルはただしが強いって思っているのと、そっちの鍛冶屋の子は弱いと思っているんでしょ?だったら模擬戦すれば全て解決すると思うんだけど」

「確かに、アイラ様。それがいいでしょう」

「いや、俺の意見は?」

「オレは構わない」

「じゃ、決定ね」

「いや、俺の意見は?」


ただ、その言葉は誰も聞いていないようで、俺以外はさっさとお店に入ってしまった。

なんだろう。

さっきまでの俺をリスペクトしてくれていたのは嘘だったのかと思うほどだ。

かといって、このままここにいられるわけもなく、俺も中に入るのだった。

入ると、チラッと見ていたので知ってはいたが、それでも店内はかなりのものが置かれていた。

剣や槍などの武器から、胸当てやヘルムなどの防具など、多種多様だ。

これはなんといえばいいのだろう。

子供心がくすぐられるね。

ただ、そんなことで誤魔化せるほど、今の状況は甘くなかった。


「ほら、これでいいか?」


そういって渡されたのは木剣というものだ。

とりあえず、受け取ってみたが…


「いや、思ってるより、重…」


そう口にしてしまうほどには重い。

こういう訓練用の剣って、ゲームとかでは主人公とかが軽く持っていたりしていたので、同じだと思っていた。

それが、いざ自分で持ってみると重たいのだ。

くそ…

奴らに言ってやりたい、木剣は案外重いということを…

それを見ていた男はやはり俺をバカにした発言をしてくる。


「ぷは…そんな木剣で重いとか、どんだけ筋力がないんだよ。魔法を使うわけでもないやつがそんな貧弱でいいのかよ」

「まあ、自慢じゃないが、運動なんかほとんどしてこなかったからな」

「んだ、そりゃ。それでよくオレと模擬戦する気になったな」

「いや、勝手に決まったことだから仕方なくやっているだけなんだけど」

「んだと…」


嫌味のように言うと、怒りだす。

本当に勘弁してほしいものだ。

というか、なんでこんなことになっているのか、疑問でしかないというのに、シバルとアイラは木剣を持っている俺をみて、少し嬉しそうにしている。

そして怒り心頭の男と俺は模擬戦を行うというお店の奥にある中庭に通された。


「こんなところがあるんだな…」

「まあ、これでも名の知れた鍛冶屋なんだからな。だから、試しぶりができる場所がちゃんと作られているってことだな」

「なるほど」


今の言い方からするに、現在はあまり鍛冶屋として活躍していないのだろうか?

さっきの勇者が話しているときも、できないって言っていたしな…

ただ、今は目の前に集中だな。

えっと、剣の構えはっと…

片手で持つには重いので、両手で剣を持つとそれを相手は笑う。


「なんだ?この木剣は片手剣用だぞ!それですら両手で持てないのか?これは右手でもって、左手で盾を持ったスタイルように作られた剣なんだぞ。それを片手で持てないとなるとは、どれだけ貧弱な体をしているんだ。」

「そう言われてもな」

「まあいい、そんなへっぴり腰の構え、すぐにでも終わらせてやる」

「それでは、両者はじめ」


シバルのその言葉により模擬戦が行われ、結果はというと俺が勝ったのだった。

地面に倒れていた男は、すぐに起き上がると文句を言う。


「いや、卑怯だろ!今のは」

「いや、あれは…」

「卑怯って、どこがかな?」


シバルが何かを言いかけたが、俺が上をとるようにしていう。

それに対して、相手はさらに怒りをあらわにして、言ってくる。


「最初に剣を投げて、そもそも武器を放棄、その後は拳で殴るだ?オレはこいつで勝負をするもんだとばかり思っていたのに」

「いやいやいや、あんなにうまくはまるとは正直思っていませんでしたよ。」

「何を…」

「というか、そんなルールはなかったですよね。あったのは模擬戦をしないかということのみ、それを勝手な解釈で剣のみで戦うなんてことにしたのはあなたですよね」

「だけど…」

「それに、実践では卑怯も何もかもありませんから!というか、その俺の強さを見せてやるぜ!みたいな態度がかなりムカつくんだよ」

「な…」

「とりあえず、俺の勝ち!わかった?」

「ああ…確かにルールを決めなかったオレが悪かったな。ただ、次やることがあれば絶対にオレが勝つ」


そんなことを言いながら、店に入っていく。

それを見届けた俺はシバルとアイラに向き直った。

ただ、二人の顔は少し引いているようだった。

なぜと思っていると、アイラが言う。


「さすがに、実践だとああいう戦いがいいっていうのは理解できるけど、それを模擬戦でするのはちょっと…」

「ああ、騎士としても正々堂々ともう少し戦ってほしいものだと感じたな」

「いや、これでも急に言われたのによく頑張ったほうだと思うんだけど」

「そうなのかもしれないけど、もう少しやり方がね」

「そうだぞ、あまりあんなことをしていると、ボクも武器を作ってもらえなくなるかもしれないしな」

「いや、それはないな」

「どうしてだ?」


それをわからないというのが、鈍感というものだろう。

あの男はどう考えてもシバルのことが好きだからだ。

だからこそ、最初から俺に食って掛かってきていたのに、あんな無様と言ったら、また怒られそうなので言えないが、それでも負けてしまったのだからああなるのは仕方ないというべきだ。

どうでもいいが、好きな人にいいところを見せたいのはわかるが、俺をだしに使うのはやめてほしいものだ。

面倒ごとにはすでに巻き込まれているのだから、これ以上面倒ごとには巻き込まれたくないのだ。

いや、本当に…

そんなことを思っているときだった。


「およ、およおよー。なんだか主たちには秘めたるものを感じるのう」


そんな言葉とともに、変な恰好をした少し汚い小太りのおじさんが近くに立っていた。


「なんだ、じじい?」

「ほほう。このじじいがわかるのか?」

「いや、わかるよ。というか目の前にいるしな」


その言葉によって、アイラとシバルがそのじじいの存在に気づく。

ただ、反応は本当に急に現れたかのような言い方だった。


「うわ、おじいちゃんどこから来たの?」

「こ、これはゲンタ様」

「おお、剣士の嬢ちゃんじゃないか。見ないうちに立派になったな。どうじゃ?剣の腕はなまっておらんか?」

「頑張っています。」

「そうか、ならよいの。それで、主たちは?」

「私は元聖女と言われていました、アイラです」

「ほほう、で?」

「あー俺か?俺はただしだな」

「ただしとな。お主はなかなか面白いことになっておるな。」

「と言いますと?」

「スキルのことだな。二人も面白いがお主が一番面白いな」

「わ、わかるんですか?」

「どうかの?」


いや、なんだこのじじい。

完全に分かったような言い方だっただろうに、急にとぼけが入るとは、どういうことだ?

まあ、俺にはそれがわかるスキルがないから何にもわからないがな。

こういうことだったら、よく物語で聞くような神眼とかがほしかったぜ…

ただ、こういうときに俺にはお助けキャラがいる。


「(話を聞いているか?)」

【聞いてないわね】

「(いや、聞いてるじゃん。このじじいについてどう思う?)」

【そのおじいさんね。スキルを持っているわね。神の手。まあスキルゴッドハンドというものね】

「(というと)」

【触れたもののことを理解するスキルね】

「(なるほど、それは強いスキルだな)」

【まあ、あなたのスキルはただ面白いだけだもんね】

「(いや、面白いだけのスキルってなに?やっぱりスターもそう思ってるの?)」

【神にはわかりません】

「(おい、急に逃げるなよ。おーい)」

【…】


あいつ、完全に無視し始めやがった。

しょうがない、後は武器のこととか聞きたかったが、役に立つかわかならい神の助言は別にいらないか…


「まあ、主はここに何しに来たんじゃ?」

「いや、鍛冶屋の前にいたのなら、武器とか防具を買いにきたとしか考えられないと思うんだけど。違うのか?」

「ふわははははは、まあそれはそうじゃな。それじゃ、ワシの店に入るがよいて」


こうしてようやくというべきか、俺は武器を買うことにできるのだった。

いやー、ここまで長かった。

本当に…

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