第10話

「えっと、武器を探しに行くのか?」

「ええ、これから何があるかわからないんだから、武器は持っておいて損はないしね」

「ああ、少しでも自分の身を守れるようにならないと、何かあったときに困るのは自分だよ。ボクも稽古には付き合うからさ、それで才能が開花することだってあるかもしれないよ」


シバルにそう言われて、確かにと思った。

こう見えても元々昔…

もう何年前になるかわからないくらいになるけど、武道をやっていたのだ。

ほとんど忘れているのでそれをやっていたと表現するのはどうかと思われるかもしれないけれど、確かにやっていた。

まあ、このゲームの世界ではすでにスキルがヘンタイということになっているが、それでも潜在的に何か得意な武器が見つかるということだってゼロではない。

そうなれば、俺もこの世界でヘンタイスキルを使うことなく強くなることだってあるかもしれない。


「ちなみに、武器はなんで最初に買いに行かなかったんだ?」

「それはね。使うことになるとは思っていなかったからね」

「ここまでモンスターに出くわすのも珍しいことだよ」

「そうなのか?」

「ああ、ボクも騎士として何度か訓練として近くの森に入ったことはあるが、五回ほど行って、一回くらいという感じだったよ」

「それはなんというか…」


これは絶対に自称神である、スターが言っていた。

逃れられない運命というやつなのだろう。

さっさと勇者には強くなってこの世界を平和にしてほしいものだ。

そんなことを思いながらも歩いていくと、俺たちは武器が売られている場所である鍛冶屋についていた。

武器を作っている鍛冶屋はいくつかあるらしいが、その中でもシバルが騎士の時代からお世話になっている鍛冶屋があるらしく、それが目の前にある鍛冶屋らしい。


「これは、なんというか…」

「ええ、古い外観ね」

「ええー、そこがボクはいいと思うんだけどな」

「そういうもんか?」


俺はどっちでもいいと思いながら、その扉を開けた。


「おい、これを使った武器を作れるか?」

「無理だな」

「ちっ、使えない無能だな。この店ならできると聞いてきたのによ」

「それは爺であってオレじゃねえからな」

「その爺はどこにいんだよ」

「知らねえよ、急に出ていきやがったんだからな」

「くそ、どっちにしても使えないじゃねえかよ」


そんな会話が入ったときに聞こえてくるとは思っていなかった俺は戸惑ったが、その声と横顔にどこか見覚えがあることに気づいた。

あれは勇者…

俺はさっと開いていた扉を閉めた。


「あれ?ただし入らないの?」

「いや、やつらがいたからな」

「え?誰?」


そう言われて、説明しようとしたときだった。

扉が勢いよく開く。

それによって扉の前にいた俺は尻餅をつく。

それを見下ろすようにして見ていたのは、勇者だった。


「て、てめえらは…」

「ただし、大丈夫?」

「ああ、すまない」


アイラに手を取ってもらって立ち上がる。

それを勇者はバカにしたように見てくる。

そしていいことを思いつたと言わんばかりに、にやりと笑いかけて言ってくる。


「おい、今からでも俺のもとにこないか?」

「何で?」

「そりゃ普通に考えて、俺の方が優秀だからに決まってるからだろう。わからないのか?」

「それは今だけでしょ。この後成長したらただしの方が強くなる可能性だってあるからね」

「ふは!だったら、そいつのスキルはなんなんだよ」

「わからないってでたけど、それが何?」

「んだそりゃ?どうせ使えないスキルなんじゃないのか?」

「そんなことない。これから芽吹くスキルだと思うよ」

「ま、だったとしても俺の勇者よりも使えるスキルじゃないだろ?今だったら別に夜の相手をしろなんてことを言うつもりはねえからよ。どうだ?」

「だから嫌だって言ってるでしょ」

「ちっ…本当にそういう面倒な女だから嫌いなんだよ」


そう悪態をつきながらも、今は勇者の他に誰もいなかったので、それ以上できないのだろう。

すぐに去って行った。

なんて言ったらいいのだろう。

あれが勇者だというのを全く信じられない。

そんなことを思っていると、アイラも大きなため息をつく。


「本当にあれが勇者ってスキルを持っているのが不思議ね」

「ええ、騎士として一度しっかりとした稽古を行いたいものです」


その言葉を聞いて、俺は少し疑問に思った。


「勇者はこの世界に召喚されたっていう話しだったよな?」

「ええ、そうですよ」

「それだと普通、召喚されたときに戦闘訓練とかってしなかったのか?」

「それは…」

「しなかったという話しですよ」


言いにくそうにするアイラの変わりに、シバルがバッサリと言い捨てる。

どういうことだろうかと思っていると、シバルが続ける。


「ボクが聞いた話にはなってしまいますが、最初は訓練や模擬戦を行っていたという話しでしたが、模擬戦で負けまくり、俺はそんなことをしなくても大丈夫だと言い張っていたようですよ」

「なるほど、それは…」

「あんなのになっちゃうわよね」


先ほどのやるとりからかなりヤバいやつなのだということはわかっていたが、それでも多少は訓練などをしているだろうと思っていたのにそうではなかったらしい。

というか、普通に勇者でちゃんと訓練してもらってということをしてもらえる状況にいるのに、それができないとか…

自分の才能がどれほどのものだと思っているのだろうか?

俺なんか、本当にどうしていいかわからないんだからな。

そんなことをしているときだった。

ドンと音がしてまた扉が開く。

また尻餅をつく俺…


「あ、さっきのやつらじゃないな?ってシバルじゃないか」


顔を出した男はシバルを見てそんなことを言うが、シバルとアイラの二人に手をかしてもらっていたので、最初は無視するような形で、俺の手をとってから返事をする。


「そうだけど」

「どうしたんだ、こんなところにきて?」

「それはいろいろあるからだけど、そんなことりもまずは謝ってほしい」

「いや、でもそれはほら、店先に立っているほうが悪いだろ?」

「それでも倒していいことにはならないだろ」

「…」


なんだ、この気まずい雰囲気は…

アイラは二人の一触即発の雰囲気にのまれて黙っているし…

というかね、全く気にしてないんだけど。

こういう酷い扱いには社畜時代に慣れちまったからな。

だから俺も言ってやる。


「いや、俺の運動神経が悪くて避けられなかっただけだ」


ただ、精一杯の格好つけて言った、そのセリフは大いに滑ったのだった。

いや、誰かこの雰囲気どうにかして…

そう思いながらも、アイラがこらえきれずに笑うまで、その微妙な空気は続いたのだった。

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