第9話
「だ、大丈夫か」
最初に起き上がった勇者が目を覚ますと、驚いたように周りに声をかけた。
それにより次々と目を覚ました他のメンバーたちだったが、近くにいたのが追い出した元聖女だということに気づいたのだろう、声を荒げる。
「なんでお前が!」
「現場に出くわしただけだから仕方ないでしょ」
「んだと」
ゴブリンを倒したのが二人だというのに、何を言っているんだかと思いながらも、俺はしっかりと荷台で着替え、その荷台から這い出るようにして姿を現す。
「終わったのか?」
「はい。行きましょう。シバルも」
「はい」
後ろからいろいろな言葉が飛んできていたが、ゴブリンを倒したのはこの二人とヘンタイな人だったこともあり、さらにはたくさんの目があるここでは何かを言っている勇者たちのほうが白い目で見られているというのはいうまでもなかった。
その後は活躍したということもあり、早めに中に入れてもらったところでギルドへと来ていた。
「お疲れ様でした」
「いや、俺は何もしてないですよ」
「そうなんですか?」
「まあ、隠れてやり過ごしていましたよ」
「それでも、さすがはアイラ様とシバルさんですね」
「えっと…」
「ごめんなさい。前回はしっかりと自己紹介をしていませんでしたね。受付嬢のジルと言います」
「ジルね。私のことは別にアイラでいいわよ」
「ですが…」
「いいのよ。冒険者になったんだから、特別扱いされると周りからの目がきついからね」
「それでも、やっぱり才女と呼ばれた所以はさすがですね」
「ありがと」
照れているアイラを見ながらも、俺はシバルと薬草を確認してもらうために少し離れていた。
「おお、これは…しっかりと集めてきてくれたのか」
「薬草くらいなら別に簡単では?」
「そうも言っておられん。薬草はいろいろなことに使用できるから重宝するのだが、一回で多く採取するというのが難しいからな」
「そういうものですか?」
「ああ…仕方ないかもしれないが、薬草にはモンスターを呼び寄せる何かがついていて、特に多く持ち帰ると途中でモンスターに追いかけられるということがあるという話しだ」
「それじゃ、入口で起こったことって」
「いや、聞いただけにはなっちまうが、そこまで強いモンスターが出たというのであれば、最初から近くの森でモンスターの巣ができているって考えるほうが無難だな」
「モンスターの巣ですか?」
「そういうこった。とりあえずはその変の話は後ろにいる騎士さんかギルドのもう少し上の人に話を聞けば詳しく話をしてくれるぜ」
「なるほど、それじゃその話は後で聞くとして…」
「ああ。名乗っていなかったな。買い取りを専門としてるカイだ。よろしく」
「よろしく。」
「そっちの騎士のお嬢さんもな」
「よろしくお願いします。ちなみにボクはこちらを買い取りをお願いしておきたくて」
「おお、魔石か」
そこにあるのは魔石だった。
それも俺が最初に手に入れたゴブリンのものより大きい。
これは先ほどの戦闘で手に入れた魔石だった。
一つはゴブリンソルジャーのもう一つがゴブリンウィザードのものとなっている。
「これは、ゴブリンの両方上位種だな」
「え?ウィザードはボクも見たことがありますが、もう一体は普通のゴブリンに見えましたよ」
「いや、普通よりも魔石が大きいから、これはゴブリンの中でも武器の扱いを熟知して戦ってくるやつ…ソルジャーといったところか」
「そのようなものが…」
「いい状態の魔石だ。少し高めに買い取れるな」
「よろしくお願いします。その間にただしは先ほどの巣について話をしましょうか」
「教えてくれるのか、よろしく」
そうして鑑定が終わるまでの間に、俺とシバルはギルドにあった席につく。
受付嬢との会話が終わったアイラも合流した。
「それで、どうだって?」
「あー、何かモンスターの巣ができているっていう話しだったかな」
「そういうことね。ということは私たちが倒したゴブリンたちは通常のゴブリンではないってこと?」
「そうですね。どちらも上位種という話しでした」
「なるほど、それでただしは巣について教えてもらうことになったってこと?」
「ああ…」
「一応私も説明できるから、私がしましょうか?」
「どっちでもいいよ」
そう口にしたが、それに対してアイラはどことなく不機嫌そうだ。
それをなんでだと思いながらも、理由がわからないので、少し首をかしげるように見ていると、アイラに呆れながら、言われる。
「まあ、いいんだけど。巣というのが何か簡単に想像できる?」
「えーっと、ほんとになんとなくでいいならだけどな」
「それを言ってみて」
「そうだな。あれだな、モンスターたちが出てくる場所ってことなんじゃないのか?」
「へえ、それをなんとなくでもわかるのなら話は早いかも」
「ええ、その発想をできる人が少ないですから」
「どういうことだ?」
「ま、言うとね…」
そうしてモンスターのことと、そのモンスターが世間一般ではどこから出てきているのかという風に思われているのかを教えてもらった。
それによるとモンスターというのは、世間一般ではどこからか急にやってくるものらしい。
でも、それなら魔石という普通の動物にはないものを備えていることから、違うということになり調査をした結果出てきたのが、巣というモンスターが出てくる場所だった。
それは、簡単にいえば黒い何かが浮いていて、それは穴になっていてそこから出てくるのだという…
なんだろう、話を聞く限り、ワープホールというか、完全にゲームの感じになってきたな。
そのワープホールを壊せるのが、勇者だという。
だから、二人は最初勇者と旅をすることになりそうだったのを、最初に話した通りのことになったのだ。
なるほど…
勇者にしか壊せないワープホールみたいな穴ね。
それで思うのがあんなに弱い奴らで大丈夫なのかということだ。
渋い顔をしていたので、アイラもそれに気づいたのだろう。
「ただしはさっきの戦いを隠れてみてたんだよね」
「ああ、だから心配だ。勇者にモンスターを倒して、さらにはその穴も壊せるのかってね」
「無理でしょうね。」
「アイラ様?」
「だって、もう隠しても仕方ないことでしょ。結局私が選ばれなかったのなら、こうなるってわかっていたからね」
「そうなのか?」
「ふふん、こう見えても私はかなり修道女の通う学園、言ってしまえば修道院では上にいたからね」
「シバルはどうなんだ?」
「ボクか?」
「シバルは私の騎士だからね。この場所でいえば私と同じ年齢の騎士では最強ね」
なるほど…
そんな強い二人なら、確かに勇者と一緒にパーティーを組むというのが理解できる。
そこで疑問が残る。
「そういえば、気になったんだけど、勇者はどこの誰なんだ?」
「私が聞いたことといえば、何か召喚というものをされたってことだったかな?」
「ええ、そのように聞きましたよ」
まじか…
俺以外に召喚されているやつがいるだと…
いや、すでに召喚されていたのか?
うーむ、詳しいことはよくわからん。
勇者をぼっこぼこにして話を聞いてみるか?
そんなことを思いながらも、話はこの後どうするかという話題になる。
「まだ昼を過ぎたくらいだよな」
「まあね。でもまた依頼に行くというのは難しいかな」
「どうしてだ?」
「一応今回で、私たちは受けられる依頼が増えるだろうから、その手続きとかね」
「あー、俺は何もしてないけどいいのか?」
「それは大丈夫。私たちはパーティーだからね、シバル」
「はい。パーティーというのはリーダー含めて仲間全員が一番下からのスタートになるのに対して、仲間が一人でもある一定のランクに達する依頼をこなすことができればあがるシステムなのだ」
「えーっと、それじゃかなり強い人が一人いるだけで、ランクが上がったりするんじゃないのか?」
「確かにね、それができればいいんだけど、勇者を見て思わない?」
「あー、確かに無理そうだな」
そう、二人が戦えるモンスターに対して全く対処できないのが、今の勇者パーティーなのだ。
勇者であの程度だったら、確かに一定以上のランクとなると上がるのはかなり厳しそうだ。
そんなことを思っていたときだった。
「アイラ様のパーティーの皆さま」
受付嬢さんに呼ばれる。
一応リーダーは俺にはなっているが、こういうときアイラの名前が呼ばれる。
いや、むしろいいんだよ。
俺みたいな冴えないやつが名前を呼ばれて、ここでランクが上がります。
なんてことを言われたら面倒くさいからな。
そう思って呼ばれた場所に行くと、受付嬢がお辞儀をする。
「最初のゴブリンの魔石。今回の上位種の魔石により、指輪の色を青色に昇格させていただきます」
「ほ、ほんとうに昇格ってそんなに早くていいものなのか?」
さっきまで、昇格するであろうという話しだったが、いざそうなってみるとかなりの驚きだった。
それを聞いた受付嬢さんは、説明をしてくれる。
「そうですね。まずはアイラ様、シバルさんの戦闘能力としてのランクは最初から黄ランクはあることは報告で受けていましたので、あまり一番下で遊ばせておくのも勿体ないだろうという意見から、最速でランクを上げるということになりました。」
「なるほど…俺は?」
「ただしさんは、すぐに薬草を見つけられたのこと。戦闘はこれからまだまだ成長するはずですので、採取としての腕を磨きながら、特にシバルさんなどに稽古をつけてもらう形をとってもらえれば、問題ないかということで、今回の昇格となりました。」
「なるほど…」
ということは、俺はこれから稽古というものが待っているのか…
そう思ってシバルの方をみると、しっかりとした笑顔で親指を立てている。
いや、任せておけって?
逆にこえーよ…
くう、こういうときに普通のスキルに目覚めていればこんなことにならなかったのにと後悔することになるとは…
頭を抱えそうになっていたのを我慢しそうになっていると、受付嬢さんから箱を差し出される。
「これは?」
「青の指輪です」
その言葉の通り、箱の中身は青色の指輪だった。
これを白と入れ替える。
「それでは青ランクということで今後の依頼を受けられるものが増えます。そしてここからモンスターを討伐するという依頼を受けられるようになりますので、こちらを見てください」
そういって見せられたのは、何かが書かれた一覧だった。
何々…
野にでるウルフ退治に、大ネズミ退治に、ゴブリンの追跡に、後は薬草とかの収集を行うものか…
これは受けられる依頼ということか。
確かに最初はとほぼ強制的に受けさせられた薬草採取のみの依頼に比べて、かなりの数あるな。
何がいいのかまだわからないな。
そんなことを思ってみていると、アイラが口を開く。
「ジル、ごめんなさい。私たち、依頼は明日また受けに来るね」
「どうしてですか?」
「えっと、ただしに稽古をつけるにも武器が必要だから買いに行こうかなって」
「それは、確かにそうですね。ちょうど先ほどの魔石も鑑定が終わり、換金されましたので、それをお持ちいただいて買うというのは必要なことですね。」
「それに、服装もね」
そう言われて、俺は今更ながらに思い返す。
確かに今の服装はこの世界に来てから変わっていないのだ。
だから一般的な服装であるけれど、さきほどの勇者パーティーにいたような、しっかりと防具のような服装ではないので、冒険者だとパッと見てわからないのかもしれない。
確かに一人で最強となるなら、それでいいのかもしれないが、すでにパーティーを組んでいるし、俺のスキルがスキルなのである程度身を守れるものが必要なのかもしれない。
後、これは全く俺の趣味ではない。
断じて違うのだが、スキルのためにも女性用の下着をゲットしておかないといけないこともあるのだ。
だからこそ、ここは少しどうしていいかわからない感じを出しながらいう。
「えっと、お任せします」
「任せなさい」
「それではこちらを」
そうしてお金を受け取った俺たちはギルドを後にした。
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