第8話
「きゃあああ」
「ゴブリンよ」
その言葉とともに、列の後ろを見ると、確かにゴブリンたちがいた。
それも荷物を狙っているのか馬車に襲い掛かっている。
ただ、考えてほしい。
ここはかなりの人数がいる場所なのだ。
それも弱いとされているゴブリンともあれば…
「おい、冒険者はいないのか?」
「ゴブリンなんて、くそ、こんなときに…」
「誰か!」
「助けてくれ!」
あっれー…
どういうことだ?
モンスターを倒すくらいのことは誰でもできそうな気がするんだが…
そう思っていたときだった。
「任せろ」
そんな言葉とともに出てきたのは勇者だ。
さすがに勇者だからこういうときもしっかりと戦ってくれるんだろう。
そう思っていたのだが…
戦闘は始まる。
ある程度距離をとって、俺たち含めてみんなが見ている。
ゴブリンはどうやら三体いるらしい。
それを五人でしっかりと見ている。
盾と剣を構えた前衛の男二人と、真ん中に剣を持った勇者。
そして後ろでは杖を持った黒いローブを着た女性と、白いローブを着た女性がいる。
魔法使いと、後はアイラの後釜の聖女というやつだろう。
ゴブリンについては、二人がこん棒を持っていて、後ろにいるのはゴブリンウィザードだろう。
杖を持っている。
あのタイプは初めて見るけど、強いのだろうか?
というか一撃で倒してしまったのでわからないというのが正直なところだ。
あのときのオーガもアイラの魔法で消し飛んでいたし、正直なところを言うと…
最初に死にかけたところくらいしか記憶がない。
ただゴブリンは俺が思うよりも強いようだ。
「シールドをお願いします」
「わかりました。我の前に壁を、バリア」
どことなく弱そうなバリアがはられる。
「えっと、あれは?」
「修道女魔法の初級防御魔法。バリアね。でもあれじゃ」
「ええ、攻撃を一撃防ぐのがやっとですね」
「アイラならわかるのか?」
「ええ…あの程度の魔法じゃ、ほとんど防げないわね」
その言葉の通り、ゴブリンの攻撃でパリンという音がしてバリアは簡単に割れる。
あー、あれはきつそうだ。
そう思ったときには、前衛にいた一人が攻撃を盾で受けているところだった。
ガンという音がして受けるが、少し後ろによろけるくらいには攻撃を殺しきれていなかった。
うーん、これは…
「まずいですね」
「アイラ様もそう思いますか?」
「うん?何かまずいか?」
「まあ、ただしは戦闘をしたことがないからわからないのかもしれないけど、このままだと負ける気がする」
いや、とぼけてはみたが、確かに今のままでは負けるということがわかる。
といっても、今見ている限りでは防御が足りていないというだけで、攻撃力が強いのであればこれは覆せるということがわかっているのだから…
そう、攻撃は最大の防御っていうからね。
そんなことを思っていると、どうやら攻撃を行うようだ。
勇者が剣を前に向けて言葉を紡ぐ。
「いくぞ、ゴブリンども。雷よ、相手を倒す稲妻となせ、サンダー」
「火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
これは…
俺が使いたかった魔法か!
そんなことを思いながらも、火と雷はお互いのゴブリンに向かって飛んでいく。
そして直撃するが…
「火力も足りていないね」
「そうですね。あれは倒せるのでしょうか?」
「きつそう」
俺が素直にそう言葉にするくらいには、ゴブリンは魔法をくらったところでそれなりにダメージを負ってはいるが、倒れはしない。
でも、勇者がいるのだ。
この程度で魔法が終わりではないだろう。
そう思っていたときだ。
「ギャギャギャギャ!」
そんな声とともにゴブリンウィザードが持っていた不格好な木の棒を振った。
すると出来上がったのは火の玉。
「あれは」
「まずいですね」
その言葉とともに、火の玉は勇者パーティーに向かって飛んでいく。
「我の前に壁を、バリア」
それでもなんとか現聖女らしい女性がバリアを張るが、それを破って勇者パーティーに火の玉が降り注ぐ。
あー、これは…
と思ったときには後の祭りだった。
直撃をもらった勇者パーティーたちは、地面に倒れていた。
「ただし、私たちはいきます」
「アイラ様が行くのであればボクも」
そして、倒せないとわかると二人は前に出て行ってしまった。
「うわー、逃げろー」
そして、見ていた人たちからはそんな言葉とともに町に向かって逃げる人たちが多数いた。
これはどうしようか?
「(おい、俺はどうしたらいいと思う?)」
【そんなこと、さっさと参戦してきなさい】
「(いや、俺ってスキル使ってないときかなり弱かったんだと思うんだけど)」
【何?だからあたしに下着をよこせっていうの?】
「(ここは仕方ないだろ)」
【だから昨日、しっかり泥しないとって寝る前に忠告したのに】
「(それはすまなかったと思っているが、こんなことになるとは思ってないだろ?)」
【あたしはわかっていたわよ】
「(どうしてって…あれか?)」
【そうよ】
確か、望まなくても敵はあっちからやってくるというものだったはずだ。
それにしてもゴブリンがあんなに強いとは思わなかった。
「(なあ、ゴブリンってあんなに強いものなのか?)」
【何を言っているの?あれはゴブリンソルジャーとゴブリンウィザードだから、全部普通のゴブリンよりは強いに決まってるわ】
「(なるほど)」
いや、違いがわからんから…
そんなことを思っていると、そのゴブリンたちは勇者パーティーにとどめを刺すために攻撃をしかけようとしていた。
だが、そこでアイラの声が聞こえる。
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
それにより相手の勢いが鈍る。
それを見ていたシバルが持っていた剣をしっかりと構える。
「聖騎士剣術、一の型、返し斬り」
その言葉とともに、振り下ろしからの高速の振り上げ。
剣筋が一つに見えるほどのそれは、しっかりとゴブリンの武器を斬った。
「く…」
「いえ、さすがシバルよ。いくわ。我の周りを聖なる光にて癒しを与え給え、ホーリーヒール」
ゴブリンたちは急な登場をしたアイラたちの強さに少し戸惑っているようで、一旦距離をとった。
そこでアイラが回復魔法だろう。
それを唱え、そしてシバルがアイラの前に盾を構えて立っている。
さすがの連携というべきだろうか…
というか、口だけではなかったということだな。
あれだけ強いなんてな。
だが、倒せるまでには至っていない。
どうすればいいか…
そう思っていたときだった。
荷馬車から仮面が落ちていた。
変態度合いとすれば弱いかもしれないが、これは使えそうだ。
【やるのね】
「(仕方ねえだろう)」
俺はその仮面をかぶる。
なんていえばいいのだろう。
パンダにしか見えないその仮面というか、ぬいぐるみの頭を被った俺は上半身を裸に脱ぎ、ズボンを隠し、上に着ていた服を下に履く。
ふ…
我ながら変態にしか見えないな。
周りにいた人たちも注目しているのはゴブリンにのみだけで、しっかりと死角で着替えていた俺のことは見られていない。
いくぞ…
「ギャギャギャ」
ゴブリンたちは、ちょうどウィザードがまた火の玉を放っているところだった。
「く!」
それにより耐えられなくなったバリアが割れる。
そしてシバルがしっかりと盾を構えたところで、俺が間に石を投げる。
戦闘中の全員が驚いてこちらを見る。
「ぎゃ?」
「へ、ヘンタイがいます!」
「あのときのやつ?」
そして反応は予想通りだった。
ゴブリンたちは完全になんだこいつは状態であり、二人はあのときのようにヤバい奴がきたということで引いている。
ふ、不本意ではあるがこれでわかる。
力があふれてきやがる。
それはあのパンツを被ったときの比ではなかった。
これはたぶん、ヘンタイスキルがしっかりと発動しているからだろう。
前回はゴブリンにのみに見せていたが、今回は周りに多くの人がいる。
確か、変態だと思われる強さや人数によって強化されるなんてことを話していたはずだから、これはいける。
俺は離れた距離を詰めるために、再度石を投げる。
ひゅっと音がなり、石は狙った通りにウィザードが持っていた木の棒で作られた杖を破壊した。
「ヘンタイなのに、やっぱり強い」
「う、受け付けないわ」
アイラのケッペキスキルが発動する前にしっかりとけりをつけないといけないだろう。
前回のようになる前にはしっかりと撤退をしなくてはいけないことを考えると、一瞬でけりをつける。
「ギャギャギャ」
怒ったゴブリンウィザードが何かを言っているが、そんなことはどうだっていい。
俺にはそもそも時間がないのだからな。
怖いのはお前にじゃない。
アイラに俺はビビっているということを教えてやる。
よくあるやついくぞ。
今の体の強化段階を考えた俺は、前に踏み出す。
それによりかなりの強さをもった踏み込みは、地面がめり込むほどだ。
加速する体で拳を繰り出す。
「ふ!」
普通のゴブリンでは一撃だったろうそれは、ゴブリンウィザードに当たっても一撃だった。
その調子で、まだ驚いているゴブリンソルジャーに向かって同じように拳をふる。
「ふ!」
でも、さすがはゴブリンの中でもソルジャーと呼ばれるだけのことはあるだろう。
一撃目は避ける。
まだまだ!
二撃目を繰り出す。
それにソルジャーは反応をして、こん棒で防ごうとするがこん棒を俺がくりだした拳が粉砕し、ソルジャーも吹き飛ぶ。
ただ、先ほどのやつと違い、感触が甘い。
その予想の通り、吹っ飛びながらも態勢を整えると、去って行く。
もう一体のゴブリンソルジャーはシバルが切り伏せていた。
さすが元聖女についていた騎士だということだろう。
まあ、それよりも勇者パーティーがさすがにここまで弱いことにビックリしたが…
そんなことを考えながらも、俺はここから逃げるべく、片足を地面につけ、もう片方で回転する。
これにより、人工的に砂埃を巻き上げる。
その目くらましを使い俺は普通の状態に戻った。
なんとかなったと一件落着しながらも、この後を考えると少し頭が痛くなるのは言うまでもなかった。
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