第7話
「あれー?元聖女様ですか?」
「ゆ、勇者…」
「おっかしいな…様をつけてほしいんだけどな?」
「すみません、勇者様」
そう出会ってしまったのだ。
アイラが出会いたくない相手ナンバーワンだろう。
それにしても、口調が悪役のそれだけど、勇者として大丈夫なのだろうか?
後、周りもなんだあれ?
そうなのだ。
勇者と自分で言っている男の両隣を女が腕を組んでおり、そのかなり後ろを男二人が荷物をもって歩いている。
うわー…
言ってはなんだけど、関わりたくないパーティーだ。
そんなことを思っているが、自称勇者はアイラをバカにするのをやめない。
「まあ、口の利き方に関しては、ここで土下座をすれば、許してやるよ」
「え?」
「ほら?土下座だ、わからないのか?」
何?
あの悪役勇者め、女性に土下座を強要しようとしているのか?
おいおいおい…
ここは俺がいくしかないな…
「おい!」
急に勇者は声をかけられてビックリしたように身体を後ろにのけぞりそうになるが、まあ女性の手前というのもあるのだろう、我慢している。
ただ、その目が俺を見たとき、それはバカにしたものに変わる。
「なんだ?急に声をかけてくるから、なんだと思ったら、ただの一般人じゃないのか?」
「一般人?違うな…俺がアイラの新しいメンバーだ」
「ぶは…んだそれは?まさか、元聖女様は、自分でギルドに入れないからパーティーを組めないからって、こんなやつのパーティーに入ることになったのか?それはずいぶん落ちぶれたな」
そう言われて、アイラは唇を噛む。
俺は、それが見てられなくなり、それを行動に移した。
勢いよく前にでる。
「んだ?」
驚く悪役勇者の目の前で俺はジャンピング土下座をした。
ただ、普通であればこんな地面に膝からいけば、足を痛めるだろう。
だからつく前に目の前にいる、女子たちの足を見た。
一瞬の変態的思考が頭をよぎり、スキルが少し発動したのか、痛くない。
予想通りだ!
いくぞ!
「どうもすみませんでした!ここは一つ見逃してはくれませんか!」
「な、なんだお前は?」
「くう…こんなに謝っているというのに、勇者様はやはり気に食わないんですか?」
「あー、別に許すよ」
「ありがたき言葉、ありがとうございます。」
そう、ただ俺が土下座をしたのではない。
大きな声をだすことで、野次馬を呼び、こちらが謝っているという行動を見せるという戦法だ。
まあ、悪いのはあっちだけれど、こんなことをされれば相手も、俺たちに絡んでくるのが面倒くさいと思わせるのだ。
こいつのことは、もう自称勇者でいいだろう。
そんなことを思いながらも土下座を続ける。
「く、行くぞ」
一向に頭をあげない俺に対して、さすがに勇者も分が悪いと思ったのだろう。
捨て台詞を吐いて去って行く。
ふむ、一度はやってみたかった必殺技。
ジャンピング土下座をできたのだから、これはこれでありだったな。
そんなのんきなことをを思っていると、顔をあげたときに、アイラに手を指し伸ばされた。
「ありがとう」
「それは、私の言葉だよ。ありがとう」
「ボクからも礼を言うよ。もう少しで手を出しそうだった。」
「まあ、戦略ってやつだね。冒険者になってすぐに問題起こして、冒険者の権利を剥奪されても嫌だったし、ま、後はあの苦虫を嚙み潰したような顔をさせてみたかったから」
「それは、確かに…」
「ボクも言いたい放題言われるのも嫌だったから、さすがだよ」
「そうだろ、もっとほめろい」
「調子にのらなかったら完璧なのにね」
「急にアイラ冷たくない?」
そういうが、アイラはため息をついてやれやれと首を振るだけだ。
せっかく助け船をだしたというのに、扱いが酷い。
そんなことをありながらも、俺たちは早速依頼をこなすべく、町の外に出たのだった。
「いや、遠くないか?」
「どうしたんだ急に?」
「普通にギルドからここまで遠くないですかって話だよ」
「そんなことをボクに言うなよ。というか、アイラ様にも言うなよ」
「どうしてさ?」
「わかるだろ?」
「…」
確かにわかっていた。
そもそもこれまで社畜時代はパソコンに付きっきりでろくに運動をしてなかった。
だからうっきうきで冒険にでようとするアイラについていくので精一杯だったのだ。
でも言いたい。
確かに見た目は同じ年齢にしか見えないだろう。
ただ、心の中はまだ社畜時代のままだ。
だってたったの二日だぞ?
それで社畜時代のことを忘れてしまうなんてことはあり得ないのだ。
自分でしかわからない悩みを抱えながらも、俺はそれでも笑顔で手を振るアイラについていくしかない。
薬草が見つかるという近場の丘についたところで、俺は気になったことを聞いてみた。
「そういえば、冒険者になるのなら魔石を見つければいいってことであれば、冒険者としてパーティーを組む一歩手前まで行っていた二人なら、魔石をもっていたりしなかったのか?」
「それはその、ほら…売り言葉に買い言葉っていうか…」
「簡単にいえば、アイラ様がそういうことをされそうになったときに、嫌だからってことで言い争いになりまして、その際に言われたんですよ。俺様が勇者として頑張っているから、こうやってモンスターを倒せて、魔石を回収できたんだろって」
「そうそう。だから言ってあげたのよ。だったら魔石とかいらないから抜けるってね」
「なるほど、それが…」
「ええ、このざまってわけね。本当は違う町に冒険者として行っていたんだけど、結局パーティーを抜ける際に冒険者の証であるこれね」
そういって、首につけているパーティーの名前が書かれたプレートを指さす。
「これも投げつけちゃったから、一度ギルドで冒険者登録をしてもらおうと思って。そのときに必要だからって、帰る途中にモンスターに出くわしたんだけどね。」
「ええ…あれはなかなか強かったんですが…よくわからない人の登場と、アイラ様の魔法により撃退したのですが、魔法の威力が高すぎたせいで魔石ごと相手を倒してしまったんですよね」
「仕方ないじゃない。いつもより魔法の威力が高くなったんだから」
「そうですね。でもどうして魔法の威力があがったんでしょうかね?」
「わからないわ」
あー…
これについては見たことがあるというか、その変な人が自分自身なので、あまり口を挟んでしまうとうっかり口を滑らせてしまいそうなのでやめておく。
ただ、ここで驚きなのがアイラが自分のスキルをわかっていないというところだ。
俺は薬草を探しながらも、それをスターに聞くことにした。
「(スター。聞きたいことがあるんだが)」
【なあに?もしかして聖女様がどうして自分のスキルを把握していないかってことを聞きたいの?】
「(そうだけど、わかっているのなら教えてくれ)」
【簡単な話よ。理解していないのよ。】
「(いや、どういうことだよ)」
【察しが悪いようじゃダメね。だからスキルが発動したってことを認識していないのよ】
「(なるほど…違いを感じなかったってことか?)」
【そうなるわね。あれだけ魔法の力が桁違いに強くなっているのにも関わらずにそれがスキルの力ってことを認識がないってことね】
「(なるほど、あのときの魔法が火事場のバカ力で発動したってことになっているのか?)」
【そういうことね。だからわかっていないのよ。】
「(それはなんというか…)」
【でも、その方がいいのかもしれないわね。スキルがわかったら、どう思うかわからないわよ】
「(確かにな)」
俺は少し遠い方向を見ながらも、考えつつ、ようやく今回の趣旨である薬草の捜索を再開した。
といってもどれかわからない。
渡されたのは一枚の紙。
だけど違いがわかるわけではない。
この世界の知識がないから仕方ないのだけれど、それでもこういうのってよくある。
草を持っただけで薬草ですなんてアイコンが出てくるものじゃないのか?
持っただけでは何も表示されない。
これで草を見分けろって?
無理だろう。
そう思っていたのだけれど、そこは自称神がバックについている俺である。
【もう、持っているそれがちゃんと薬草よ】
「(ま、まじかありがとう。)」
【見てられないんだけど。というかそれに似たやつがほとんど薬草だから、これくらいの依頼で苦戦しないでほしいわ】
「(いや、この世界の知識がほとんどないのに、簡単なものに対して苦戦するなってほうが無理なんだが…)」
【わがままを言わないの】
わがままなのか?
そんなことを思いながらも、順調に薬草を拾った。
ちなみに言っておく。
アイラとシバルは全くというほど使えなかった。
「集まったか?」
「これかな?」
「アイラ様違いますよ。これですよ」
そういって見せられたものは…
あきらかに葉っぱが違うものと茎の途中で色が変わっているものだ。
どうやって間違えたのか聞きたいくらいだ。
「いや…絵を見てるか?」
「な、何?ただしのものしっかりあってるじゃん」
「ちゃんと紙を確認したらいけると思うんだが…」
「た、確かによく見るとボクのも違う。」
「よく見なくてもすぐわかるような違いにしか思えないだろ」
これがポンコツということなのかと頭を抱えそうになっていると、シバルが言う。
「でもボクたちはモンスターを倒すのは得意だから、そういう依頼なら…」
「最初は薬草の依頼をこなしてからって言われてただろ?」
「そうなのよ。あたしたちもそれさえできればもっと依頼をこなせるはずなのにね」
「いや、自分の評価が高すぎるだろ」
「ふふふん、こう見えても元聖女様って呼ばれるくらいには魔法なんかもできるからね。」
「そうだぞ、アイラ様はすごい人なんだから」
「まあ、それで勇者に反抗して今みたいになってるんだから、すごいっていうのがわからないんだけど」
「これが終われば…」
「さいですか…」
そうして多めの薬草を背中に背負っていた籠にいれる。
これは依頼の際に支給されたものだ。
前いた世界でもテレビとかで背負っている人を見たことがあったが、自分が背負うことになるとは思わなかったが、背負ってみるとこれが便利だったんだからいいものだ。
「それじゃ、帰りますか」
「そうですね」
「はい。」
そうして帰ろうと丘を後にしたときだった。
それがいたのは…
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