第6話
「いや、初日なんだし、そろそろ寝かせてくれよ」
さすがに空気を読まない自称神のスターは、そんなことをお構いなしに話しかけてくる。
【寝るなんて、まだやっていないことがあるでしょ?】
「いや、ないよ。ほとんど終わったよ」
【何を言っているの、ここからがやるべきことがたくさんあるじゃない】
「いや、逆に聞くけど、ここから何をすればいいんだよ?」
【もちろん、下着泥よ】
「いや、聞いて損した」
【ちょっと、寝ようとしない】
俺はさすがに無視して寝ようとする。
ただ、スターは諦めていないのか話の手を緩めることはない。
【考えなさい、ただし。あなたは今、ゲームでいうところの何も装備がないのと一緒の状態よ。だから、装備品である下着を取りに行くのよ】
「…」
【む、無視してるわね。いずれ本当に後悔することになっても知らないわよ】
「…」
【く…もういいわよ。神であるあたしを無視したこと、後悔するからね】
そんなことがありながらも無視して眠りにつき、俺たちは朝を迎えていた。
目が覚めると、見慣れた天井じゃないことに驚きながらも、すぐに異世界にきていることを思い出した。
夢落ちじゃなかったのか…
起きて支度をしますかね。
まずはギルドに行くって言っていたな。
場所がどこかも含めて教えてもらわないとな。
宿屋を出た俺たちは、アイラの先導の元、ギルドに向かっていた。
昨日の寝る前に言っていた、冒険者になるのは楽しみだという言葉通りなのだろう、アイラの勢いはかなり強い。
むしろ騎士であるシバルのほうが押され気味になっているのはどことなく面白い。
朝、出発する前に、アイラとシバルは名前で呼ぶようにというアイラに言われてしまった。
これはシバルがアイラを呼ぶときもそういうふうにしろということだった。
たぶん、これまで聖女と呼ばれ続けてきたのが嫌になって変えたいのだろう。
そんなことを思いながらも、俺たちは朝早い時間にはギルドについていた。
「ここがギルドよ」
「ここがそうか…」
木造で作られた建物で、これぞギルドという感じで建物の前には紋章のようなものが掲げられていた。
まさに見たことある光景だ。
まあ、テレビとか画面の中でとかで、この目で現実的にみられるとは思っていなかった。
そんなことを感慨深げに思っていたが、二人はさっさと中に入ってしまう。
く…
こういうところを見ると、やっぱり異世界に来たんだと思うが、ギルドか…
普通にゲームとか物語とかだと、ここで面倒ごとにまた巻き込まれる気がするな。
そんなことを思いながらも、俺はギルドに入る。
ただ、入って受付に向かうと問題が起こっていた。
「ですから、アイラ様は冒険者登録は難しいのです」
「なんでですか?」
「それは、上からのご指示でして」
「じゃあ、どうすれば冒険者になれるのよ。」
どうやら、冒険者にはなれないことに対してアイラが怒っているようだ。
確かに昨日の話を聞いただけでも、冒険者にというべきか、自由に憧れているような感じだったのに、それができないとなると怒るのも理解できた。
でも、さすがに詰め寄るというのはやりすぎだ。
注目をかなり集めている。
そんなときに、一人の男…
見た目的にかなりチャラそうな男がアイラに近寄る。
「あ、勇者に捨てられちゃったアイラ様じゃないですか?」
「それが何か?」
「そういうことなら、僕たちのパーティーに来ませんか?」
「どうして?」
「僕たちと一緒のパーティーにさえなれば冒険者となれますからね!」
なるほど、そうすれば冒険者になれるのなら、ここで俺はお役目ごめんということなのだろうか?
そう思っていると、アイラはチャラそうな見た目の男を睨むという。
「あいにく、私はそういう安っぽいお誘いにはのらない主義なのよ」
「んだと…」
「それに、私にはそういう相手がすでにいるから間に合っているのよ。」
「何?」
驚いている男を置いて、アイラはこちらに向かってくる。
そしてそのままの勢いで、俺の手を掴んだ。
「そのパッとしないやつがアイラ様のパーティーだっていうのかよ」
「そうだけど?悪い?」
「ぶわはははは…」
「何?」
「いや、面白いって思っただけだ。そういうことならせいぜい頑張ることだな」
そんな言葉とともに、その男とギルド内にいた数名が出ていく。
どうやら、パーティーで来ていたようだ。
静かになったギルドで、アイラが再度口を開く。
「冒険者になれるかしら?」
「はい、その方か、もしくはシバルさんをリーダーとしてでしたら…」
最初にそんなことがありながらも、俺たちは冒険者になれることができた。
簡単になれるのかと言われたら、最初に試験があるということだったが、それに受けて、合格できる気がしない。
だから思い出したかのように、魔石を見せると、驚かれたと同時に最低ランクでも冒険者になることを許された。
「こんなもんなんですか?」
「そうですね。簡単に冒険者登録するというのは無駄な死をなくすために必要なことですので、こうしてすでにモンスターの魔石を出していただけると試験も突破ということになります」
「えっと、魔石を買ってということは?」
「それは難しいですね。買い取りをしているのは法律でギルドだけでのみということになりますし、もし闇市というもので買ったということがあっても、かなりの金額であなたの見た目でそんなお金があるとは思いませんから」
「そうですか…」
ということは、別にモンスターを倒さなくてもスターに頼んで魔石をもらうことができれば、それで冒険者になれたということなのだろうか?
くそ、苦労しなくてもよかったじゃないのか?
そんなときに思い出した、今日は朝からその自称神の声を聞いていないことに…
「(おーい、起きているのか?)」
【…】
「(こっちから状況がわからないから、何か返事ほしんだけど)」
【…】
どうやら留守らしい。
仕方ないか…
そう思いながらも俺の登録を済ませるための手続きが続いた。
「それではここに手を置いてください」
「これは?」
「あなたのスキルを調べるためのものです」
「な、なんだと…」
どうしたらいいんだ?
ここで手を乗せるということは、この受付嬢の人というか、この場にいる全員にスキルがヘンタイであることが知られてしまうということなのだろうか?
それは嫌だ…
だが、このまま手を乗せないというのも難しい。
そんなことを思って、その水晶に手を置くのを躊躇していると、横にいたアイラが手を乗せた。
すると何かが表示される。
「アイラ様はスキルがわからないんですから意味ないですよ」
「そうなんですけど、少しは何かわからないかと思ったので」
なんだと、アイラのスキルはケッペキ。
それがこの水晶には表示されないということは、これは俺もあるのか?
俺も水晶に触れると、受付嬢の顔が不思議そうだ。
「えっと、表示できないって書かれているんですけど、どういうことですか?」
「どういうことだろうね?」
なんだと、反応が違うということか…
そう思っていると、それまで何も話すことなく待機していたシバルがこちらに近づいてくる。
「心配するな。ボクもスキルは表示できないだ」
そう思ってシバルが手を置くと、確かに同じように書かれているようだ。
ということはシバルも同じようにスキルがあるということだろうか?
でも騎士なのだから、それなりのスキルがあるって考えるのが普通だと思うんだが…
仕方ない。
「(おい、おーい)」
【…】
く…
これあきらかに無視してないか?
たぶん昨日の盗みをしなかったことを怒っているのか?
とりあえず謝って様子を見てみるか…
「(昨日はすみませんでした)」
【わかればいいのよ。それで何かよう?】
やっぱり怒ってやがった。
くそ、普通に考えて、仲間になった初日に仲間の下着を盗もうなんて考えているやつがいたらヤバいと思うんだけど、そういうところは考えていないのだろうか?
ま、自称神だから、こちらがそんなことを考えても仕方ないことなのかもしれないけどな。
かといって、ここで俺が反抗したらダメだ。
「(えっと、俺のスキルが表示できないってなっているんだけど、これはどういう意味なんだ?)」
【それは、だって…ヘンタイスキルなんて表示は誰も見たくないでしょ?】
「(確かにそれはそうなのかもしれないけど、それじゃあのシバルはどうなんだよ?)」
【そこにいる騎士ちゃん?】
「(そうだよ)」
【うーん、わからないわね】
「(いや、なんでだよ?)」
【だって、さすがにスキルが発動するまではどういうスキルがその人に宿っているなんてこと、わからないのよ?】
「(だったらどうして俺のスキルはすでにわかったんだよ?)」
【変態感があふれ出ていたから?】
「(な、なんだと)」
そんなことがあるというのか…
変態感…
俺は後ろを振り返ったりした。
【そんなことでわからないわよ。というか、急にそんな動きしたら、周りがかなり驚いているわよ】
そうだった。
今は、まだギルドの中だったんだ。
受付嬢含めた三人が、俺のことをかなり訝し気に見てくる。
「えーっと、こうなると俺って冒険者に登録できないのかなって思ってしまって、少し上を見ていただけですよ」
「そういうことですね。登録できますよ、大丈夫です」
「まじですか…」
「はい、こちらがギルドに入るための注意事項です。」
「えーっと…」
そこに書かれていたのは、まずギルドに加入するためには試験を受けてもらうこと、これはやったな。
ギルドにて依頼を受ける際には最初に少しの契約金を払うこと。
ギルドでパーティーを組む際には、専用のアイテムを装着すること。
最後だけがなんだか初めての内容だな。
「あの?最後に書かれているものって?」
「それですね。少し待っていてくださいね」
そう言うと、受付嬢は奥に引っ込んだ。
そしてすぐに金属のプレートをもってきた。
「これは?」
「パーティーを表すプレートになりますね。」
そこには三枚のプレートが一人ずつ用意されていた。
よく見ると、何か文字が彫ってある。
「三人の名前が書いてあるってことですね」
「はい。そしてリーダーであるただしさんにはこちらもつけておきますね」
「指輪か…」
「はい。これがギルド加入の証になりますので、パーティーのランクが上がるたびに指輪の色が変わっていきます。現在が最下位の白、次が青、緑、黄、赤、シルバー、ゴールドという順番になります」
「なるほど、それで見分けているんだ」
「はい。これによって冒険者としてギルドに登録し依頼をこなしていくたびに評価されてランクが変動するという形になりますね」
「ちなみに、最初はどんな依頼があるんですか?」
「そうですね。薬草採取が主にですね。最初からモンスター退治をしたいという人が多いですが、依頼は低ランクのものから順番にという形になりますね」
「どうする?」
「私たちのリーダーはただしですから。」
「ボクはアイラ様についていくだけです」
「それじゃ、それを」
「わかりました」
こうして、薬草を採取する依頼をこなすことになったが、ギルドを出るときにすでに問題が起こったのだ。
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