第5話
まずは確か、魔石の鑑定からする予定だったんだけど、ここはどこなのだろうか…
ようやく町の中に入れたのはいいが、全く知らない土地ということもあり、下手に動けずにいた俺は、たぶん頼りになるであろう、スターに話かける。
「おい、どこに向かえばいいんだ?」
「何がですか?」
ただ、それは周りにいるときにすることではないということが、今更ながらに気づいた。
話しかけてきたのは声からして女性だろう。
そう思ってそちらを向いたときだった。
「…!」
「どうしたのですか?驚いて…」
「いえ…少し知り合いに似ている気がしたものですから」
「そうですか」
「せ、聖女様。ダメですよ急に話かけては…」
「仕方ないじゃないですか…それに何か独り言を言っておられたので、少しお困りのように見えたんだから」
そう話しかけてきたのは、あのときに見た、ケッペキスキルを持った聖女様だったのだ。
もう一人も、あの時の聖女様を守る騎士だろう。
その二人が何かを相談しあっていた。
一番会いたくない相手だが、このまま急に逃げ出すということはできないので、どうしたものかと考えていると、スターが話かけてくる。
【あれ?ちょっと席を外した間になんだから面倒なことになってるわね】
一番重要なタイミングで席を外しやがって…
く、仕方ない。
こうなれば小声で…
「(いや、どういう確率でこうなるのかはわからないが、なんでこうなったんだよ?)」
【わからないわよ。ちゃんと見てないのが悪いわね】
「(いや、お前も席を離れてるって言ってたじゃないか!)」
【だってほら、ずっと見ておくのって疲れるでしょ?だからお菓子と飲み物を取りに行ってたのよ。あと下着もね】
「(え?あれから履いてなかったのか?)」
【ふふふ、ヘンタイスキルの持ち主だから、気になるところはそこなのね】
「(く…純粋に疑問だっただけだったのに、そこまで言われるとは思わなかったぞ)」
【でも、これはある意味チャンスじゃない?】
「(どういうことだ?)」
【ほら、このタイミングで、仲良くなってその聖女様の弱みを握っておけばいいのよ】
「(なるほど、リスクはあるがそれは一理あるな)」
そう思って、二人の方を見ると、あちらはまだ何かを話し合っているようだ。
どうしたものかと思っていたときに、話し合いが終わったのだろう、二人がこちらに向き直った。
「ちなみにですが、お金などをもっていたりしますか?」
「どういうことでしょうか?」
聖女様が言ってきた意外な言葉に驚きながらも、聞き返すと、少し注目を浴びてきていたので、ここではなんですからという言葉により、聖女様たちの案内の元、俺は今度はかなり古いボロ屋のようなところに連れてこられたのだった。
うーん、どういう展開なのだろうか?
そう思っていると、騎士にあたる女性がいきなり土下座した。
「すまない、お金を貸してはくれないだろうか?」
「いやいやいや、何事?」
「詳しく説明するとだな…」
と騎士は顔をあげると、説明をしてくれた。
それによると、どうやら、ここにいる聖女と呼ばれている女性は、今は聖女ではないらしい…
というのも勇者パーティーに誘われた際に、勇者の夜の相手もさせられそうになり、嫌だからと断ったら強引に迫ってきたのではたいたらしい。
まあ、ケッペキスキルがあるからというのをわかっていなくて、普通にビンタしたらしい。
すると強化されたそれにより勇者は吹っ飛び、それを問題にした他の人たちによって勇者パーティーを追い出されたらしい。
その際に聖女という称号をはく奪されたというのがここまでの二人にあった出来事のようだ。
「それで、俺はどうすればいいのかな?」
「もし、よろしければお金を貸していただければと思いまして…」
「えっと、貸すということは返してくれるってことでいいんだよね?」
「そ、それは…」
騎士が口ごもっていたときだった。
聖女様が頭を下げる。
「どうか、この通りです」
「えーっと、ごめんそういう意味じゃなかったんだけど」
「では、何か?お前もあの卑劣な勇者のように、体でというのか?」
「違う違う…」
確かに体で払ってというのは魅力的だろう。
でもそんなことを言える状況ではないし、そんなことをしても弱みを見つけるなんてことができない可能性があるのだ。
今後何かがあってヘンタイスキルを使うときにも、ケッペキスキルを持つ女性が、それを恨みにして襲ってくれば…
考えるだけで恐ろしい状況が待っているのだ。
だからここで俺は考えていたことを話す。
「別にお金はあげるからさ。ただ、この世界のことを教えてほしい。あとよければ一緒に冒険者?になれればと思っているんだ」
「どういう意味なんですか?」
「実は、その…記憶喪失というやつで、記憶があいまいでわからないことが多くて、それをサポートしてくれるなら一緒にどうなのかなって思って?」
「な、なるほど…それは確かに、何か間違いがあってもボクらも守れるということですね。聖女様どうでしょうか?」
「わ、私はありがたいことだけど、いいの?」
「はい。むしろここでの過ごしかたを教えてください」
「わかりました。改めまして、私はアイラ」
「ボクはシバル。よろしくお願いします」
「俺は、ただし。よろしく二人とも」
こうして仲間となった俺たちは早速、そろそろ夕方になる空模様を前に、ご飯を食べ、宿屋を決めることにした。
異世界居酒屋か…
見た目は一応成人しているか、いないかくらいなので、お酒は飲めるとしても…
ここはいいところを見つけたと思う。
宿屋と居酒屋が一緒の建物に入っているタイプで、この体でお酒を飲んでどれくらい耐えられるかわからないので、すぐ近くにあるというのは安心ポイントだった。
お互いに荷物を部屋に置き、居酒屋に集まった俺たちは乾杯していた。
「カンパーイ」
「「カンパーイ」」
異世界の料理は確かに美味しかった。
というか、現実世界の料理と見た目は確かに違ったけれど、味は同じというものが多くて、見た目と味のギャップに驚きながらも、食べ物に舌鼓をうっていく。
それにしても、注目されている…
仕方ないことといえば、それまでなのかもしれないけれど…
理由はわかっていた。
まずは、その目を引く二人の美貌である。
最初のときはそもそもあれを被っていたし、オーガという敵がいたから意識もあまりしていなかったが、元聖女のアイラは銀髪の碧眼でかなり整っており、プロポーションもしっかりとあり、勇者がわが物にしたいという気持ちもわからないではない。
シバルのほうは、赤髪に隻眼であり、さらにはかなりメリハリがあるプロポーションをしているので、ビックリだ。
それと、先に部屋に荷物を置いてから集まったのだけれど、あの胸の鎧の下にはこんなものが収まっていたのかという驚きを隠せないでいた。
やっぱり鍛えるというのは大事なのだろう。
どこがとは言えないが…
そんなことを思いながらも、ご飯を食べ進めていく。
夕食を終え、しっかりと支払いを済ませた後で、今後の予定を決めるということになり、部屋に戻った。
三人部屋というわけではなく、二部屋を隣あって借りていたので、人数の多い、少し広めである女性側の部屋に集まると、話が始まった。
「ただしは何かやりたいことがございますか?」
「えーっと、これをまずは換金したくて」
そう言って、ポケットから例のものを出す。
「魔石ですね」
それを見たアイラさんはすぐにそれが何かわかったようで、俺はすぐに次のことを聞いた。
「どこで換金できるのかわかりますか?」
「ギルドにて、できますよ」
「ギルド、どこにあるんですか?」
「それは明日案内しますね」
「わかりました。」
そこでふと会話に入ってきていない人がいることに気づく。
「そういえば、シバルさんは?」
「寝ていますね…」
そうなのだ。
部屋に行ったはいいものの、俺と話をしているのはアイラさんのみ、というのもシバルさんはお酒を飲んで少ししてすぐに寝てしまったのだ。
部屋までおんぶをしたのだけれど、それはいい感触が背中に感じられたというものだ。
顔がにやけるのをなんとか我慢していると、アイラさんは急にため息をついた。
「ほんとに、嫌になるなー」
「どうしたんですか急に?」
驚きを隠せずに言うと、アイラさんはやれやれといったふうに頭を振ると愚痴りは始める。
「だってさ、急にだよ。これまで聖女になるためにって頑張って修道女として鍛錬していたのに、いざ聖女候補の一人になって、勇者に気に入られて、それでようやく聖女って認められて、楽ができるものって思ったのに、次は勇者の相手をしろだよ。私はそんな安い女じゃないのに」
「えっと…」
「いいわよ、気を使わなくて…私を慕ってくれているシバルだけはついてきてくれたし、だからシバルの前ではしっかりと聖女っぽくいなくちゃいけないけどさ、やっぱり面倒くさいって思っちゃうよ」
「そういうものか?」
「そうよって、記憶消失の人だったらわからないから、こういうことを言っても大丈夫かなって思って言っているだけだから、愚痴を言ってるんだから適当に聞き流してよ」
「まあ、そうだな」
相当誰か知らない人に聞いてほしかったのだろう。
話した後には少し吹っ切れたような表情をしていた。
「それじゃ、明日はとりあえず、ギルドに行くということね。私も冒険者登録したいしちょうどよかったかな」
「そうなのか?」
「そうそう…ま、湿っぽい話は終わりにして、お休み」
「おう、お休み」
そうして部屋を出る。
元聖女ということと、これまでの言動や行動から、かなり堅苦しい人なのかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。
確かに抑制されてた後に、また面倒ごとをやらされそうになったら俺もキレるな…
そんなことを思いながら、部屋で寝ようとしたときだった。
【ミッションよ】
そんな声が頭に響いたのは…
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