第12話

「じ、じじい、いつ帰ってきやがった」

「え、今?」

「いや、見たらわかるわ」

「まあまあ、うるさいぞケイタ」

「それはごめんって、オレが悪いだけじゃないだろ。というか、武器とかの依頼がきてるから、さっさと作ってくれよ」

「無理!」

「はあ!」

「ワシはこれから、こやつの武器を作るからの」


そうしてじじいは俺のことを指さしてくる。

あれ、そんなに俺はじじいに気に入られたのか?

そう思っていると、ようやくわかった男、ケイタが俺を指さす。


「こ、こいつー?」


そんなに驚かなくても、かなり失礼なんじゃないのか?

さすがの俺でも傷ついちゃうよ。


「失礼でしょ。ケイタ君だっけ?さっきただしに負けたんだから、そういう言い方はよくないよ」

「く、そう言われたら何もいえない」

「なんじゃ?ケイタは負けたのか?」

「ふ…俺の作戦勝ちですよ」

「まあ、かなり初見殺しというものですよ」

「ふわははははは。それでも勝ったということじゃから、そこはすごいことだ。とりあえず武器だ」

「いや、他の武器を作れよ」


ただ、そんなケイタの言葉を無視してそのじじいは鍛冶屋の奥に入っていく。


「ほれ、お主もついてこい」


そう言われて、俺もついていく。

そこには漫画でよく見る鍛冶屋の風景が広がっていた。

炉ってやつがあり、後は叩くもの…

スキルで才能があればこれもできたのか。

そんなことを思いつつも、じじいが何を作り始めるのかを聞いてみる。


「それで、じじいはどんな武器を俺に作ってくれるんだ?」

「気になるか?」

「そりゃ、急に作るぞなんて言って、作るものも教えられてないからな」

「簡単じゃよ。ナックルじゃな」

「いや、なぜー」


普通に考えて剣とか、後俺には魔法がないんだから、それを踏まえての最新技術で銃を作ったとか、そういうのがあると思うんだけど、そうじゃないのか?

異世界に来たんだから、強くなるためにも必要なものってあると思うんだけど、そういう人と変わったものを武器にするのが普通じゃないのか?

ただ、じじいは真剣だった。


「任せろ、最強に硬い拳にしてやる」


いや、何を任せればいいんだよ。

しかもただ硬いだけとは?

そういうのって、普通だったら何かギミックがあるものだろ。

どうしたってもただ硬いだけの拳になる武器なんていらないだろう。

そう思っていたのだが、一人目を輝かしている人がいた。


「それは、ものすごい武器になりそうですね」

「ほほう、やはり騎士の嬢ちゃんは話がわかるの!」

「はい」


こうしてナックルが作られるのを後ろから見るというなんとも不思議な時間を過ごした俺は、アイラと二人いつの間にかため息をついていたのだった。


「ほれ、できたぞい」


時間にして一時間もたっていないだろうか、完成したようだ。

えっとナックルってこんなに早くできるものなのか?

使ったことない武器だからわからん。

ゲームだとロードが入って一瞬だから余計にわからんけど。

そうして出来上がったナックルをつけてみろといわんばかりに、差し出してくるじじいに根負けした俺はそれをつけるのだけれど、すぐにビビった。


「いや、ぴったしなんだが…」

「それはよい。そういう風に作ったからな」


どうやってサイズを測ったんだよと言いたかったが、先ほどのこのじじいのスキルがゴッドハンドだということを聞いていたので、そのスキルでわかったのだろう。

というか、ゴッドハンドすげえな…

ただのナックルだというのに強そうに見える。


「後は嬢ちゃんの剣も見ておこうかの」

「よろしくお願いします」


そして、シバルも剣を渡して、見てもらう。

その間にやることといえば、武器の試し殴りだ。


「いや、試し殴りなんてワード初めて聞いたんだが…」

「仕方ないだろう。ゲンタ様がただしにあうものとして作られたのが、ナックルだったんだから、こういうものは文句を言う前に試さないとだよ。ほら、これに向かってうってきて」


そういってシバルが持っているのは木の板。

なるほど、ここを殴れということだな。

俺はしっかりと構えて拳を引き絞り、突き出す。


「はっ」


声とともに突き出した拳は、簡単に木の板を突き破った。

いや、うそーん…

ゴブリンを殴ったら痛がっていた、あの手が武器を装備しただけで木の板を簡単に破壊できるほどの強さになるなんて、そんなもんもうチートやん。

あのじじい、ヤバいな。

そう思っていたのはどうやら俺だけではなく。


「す、すごいね」

「ああ、自分でも驚いてるよ」


アイラも驚いたようだ。

ただ、一人シバルだけは満足気にうなずきながら言う。


「そうでしょう、そうでしょう。ボクが使っている武器もここで買ったものですからね」

「そうなのか?」

「はい。だから名工ゲンタの武器となると、騎士の中でもそれなりに強くないと持たせてもらえませんから。それに今回のように専用の武器を拵えてもらえるなんてかなりすごいことなんですから」

「そ、そっかー」


ということは、いざっとなったら売ったりすればかなりの金額になるのでは?

これはいいアイテムをゲットしたものだ。


「何か今、よからぬことを考えていなかったですか?」

「全然」


くそ、急に勘繰り深くなりやがって、それをあのケイタを好きということを気づくことに使えよ。

そう思うが言うわけではない。

社畜時代にもよく使う。

心の中で思っていることと、言っていることは違うってやつだ。

まあ、こんなことをしていれば、あの自称神に演技がうまいのねって言われそうだけどな。

そして、その後はというと…


「いや、キッツ…」


そんな言葉を発しながらも俺は、シバルに筋トレをさせられたのだった。

戦力になってもらわないと困るって言われてもな。

デスクワークしかしてこなかった俺には、キツイんだって…

ただ、そんなことを言えるはずもなく、一時間近く筋トレは続いた。

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