第10話 レベルアップ!
薬草、レンガ、レンガ、薬草、レンガ、レンガ、レンガ……。
二階層で宝箱から出てきたアイテム一覧である。
「レンガって何なんだよ、このやろー!」
「地味に薬草もいらないんだけど。なんなの、私に調薬師にでもなれって?」
相変わらず出てくるケイブラットに苛立ちを込めた剣を振るう陽斗と、スライムに風の弾丸を放つ美海。イイ感じに壊れてきてますなー。僕は既に使い道のなくなってきたバリアーを張りつつ目を逸らす。
代わり映えのない景色が続く洞窟内で、変わらない魔物たちの襲撃に対処するのは、既に単調作業に近くなってきた。
これで、たまに見つける宝箱から良い物が出てくるなら、変化があって精神的に回復できるのだが、一向にその雰囲気はない。
「むむ、これはマズイ流れです……」
「そんなに気にしなくても、これくらいのことはここに来る前から予測してたことだぞ?」
顔を顰めて考え込むアイに肩をすくめる。
陽斗はダンジョンに長時間居続けることを軽く見ていたが、僕も美海も精神に与える影響を軽視してはいなかった。
陽斗に合わせて苛立ちを露わにしているように見える美海は、完全にフリである。陽斗の苛立ちの相手をしてやっているだけだ。なんて優しい。僕はめんどくさがって完全に空気に徹しているのに。
「そろそろ違う魔物が現れるはずなんですが、大きな変化を見込めないところが、問題です」
「安全に攻略できる分にはいいんだが。……確かに、実力にそぐわないレベル帯の階層に居続けるのもストレスが溜まるな。特に、陽斗はゲームでは要領よく突き進むタイプだし」
弱い魔物ばかり相手にするから
最初に能力を測定した際は、ゲームみたいな細かい能力値は一切なく、経験値と言う数値的概念はなさそうだったが、その認識は改めなければならないらしい。一定数の魔物を倒すと段階的に能力値が上がっていると実感できるから。
まあ、そうなると、考えなければならない問題もあるわけで――。
「僕とアイは、多分レベル低いよなぁ」
直接魔物を倒す機会が少ないので、如実に差が出てきている気がする。それに気づいてからは、陽斗と美海が逃した魔物にバリアーをぶつけて昏倒させ、ナイフでとどめを刺すということもしていた。だが、そもそも僕のところまでやって来る魔物は時間が経つほどに減ってきているので、微々たる影響だ。
「ふむ。確かに能力値のことを考えたら、優弥さんだけでなく、私も頑張るべきなんですが……その隙がないです……」
なにせ、陽斗たちが苛立ちのまま殲滅しているのでね。
アイが噤んだ言葉を脳内で呟く。一度計画を練り直さなければ。
「アイ、今何時?」
「およそ十三時です。まだセーフティーゾーンに着いていませんが、休憩にしますか?」
「そうだな」
「すぐそこの扉を開いたら、小部屋があります。入ってすぐに罠がありますが、そこの回避さえすれば、バリアーを張って安全圏を確保するのは容易いでしょう」
元々は、この階層にあるセーフティーゾーンに辿り着いたところで昼飯にする予定だった。そこだと、僕がバリアーを張らずとも魔物が襲ってくることがなく、罠もないので。
だが、このまま進んでも非効率。特に陽斗は無駄に力を使いすぎて、若干の疲労感を溜めているように見える。
「……陽斗! 美海! そこの扉開けるぞ。一旦休憩だ。入ってすぐ罠があるらしいから――」
「うおおっ!」
言葉の途中で扉を開けた陽斗が、天井から突き出てくる数多の槍をギリギリで回避した。前髪が数本舞い落ちる。
「……馬鹿なの?」
「馬鹿だよな」
「……わ、私は、そんなこと、思っても言えません」
思ってるって言ってる時点で僕らと変わらないと思うぞ、アイ。
「もっと早く教えてくれよぉ」
情けない声を上げてへたり込む陽斗の脳天にチョップを落として、扉の先に進んだ。聞かない奴が悪いんだ、ばーか! でも、陽斗が身を挺して罠を解除してくれたので、悠々と部屋に入れるようになったことは褒めてやろう。
◇◆◇
作り置きしておいたサンドウィッチとスープで遅めの昼食を終え、紅茶で一服。この世界に日本と同じような紅茶の葉があって本当に良かった。
「それで、どうするの?」
美海もこのままではいけないと思っていたのだろう。真っ先に口を開いた。
「陽斗たちのレベルに対してここの推奨レベルが低すぎるのが問題だな。僕とアイのレベル上げに付き合ってもらうのも一つの手ではあるけど、それは二人にストレスかかるだろう?」
「私はそうでもないけど……」
美海が視線を向けたのは陽斗だ。陽斗は紅茶を飲みながら難しい顔をしている。それはまさか紅茶の渋さにやられているわけじゃないよな? 僕はそんなミスはしないぞ。
「……正直さ、レベルっぽい概念があるのは確定として、それを俺らはどこまで重視すんの? このダンジョンを攻略した後、何か強敵と戦う予定があるわけ?」
陽斗の意見に美海と共に沈黙した。言われてみればその通りだった。たまにやっていたゲーム的なノリでレベル上げを提案してみたが、僕たちはここのダンジョンさえ攻略できたらその後はとりあえず問題がないはずだ。
ゲーマーとしてノリで突き進みそうな陽斗が思いの外冷静だったことに驚いた。
「一応、利点はありますよ」
僕たちの視線が一斉にアイに集まった。
「ダンジョンマスターがダンジョンを改変する際に、これまで集めたアイテムの他、魔力も使うんです。大きく改変させようと思えばそれだけ魔力も必要で、レベルアップによる魔力保持量増加率を考えると、ある程度のレベルアップはその後のダンジョン運営で利点となります」
どうやら、アイはダンジョン攻略中の能力値変化をずっと測定していたらしい。それならそうと言ってくれればいいのに。
そんな思いで見つめたら、アイが気まずそうに眉を下げた。
「……もっと正確に数値を出せるようになってから報告しようと思っていたんですが」
「気にすんなよ! 今必要性が分かっただけで、今後の方向性が定まったんだし!」
「そうそう。アイちゃん、教えてくれてありがとう」
別に僕はアイを殊更責めるつもりはなかったんだが、何故か僕の様子を窺った陽斗たちが口々にアイをフォローしだす。まるで僕が悪者みたいじゃないか……。とは言え、しょんぼりしているアイを見て罪悪感が生まれるのも事実。
「アイ、気にしないでくれ。……アイのおかげで今後の方針が立てられるよ」
「……はい!」
ポンポンと頭を撫でると、アイがはにかんだ。
「……優弥って、意外と手が出るタイプだよな」
「言葉の使い方間違ってるけど、納得はする」
陽斗と美海が半眼で何か言っている。聞こえない、聞こえない。
「よし、今後の方針としては、僕とアイのレベル上げのために、暫く陽斗たちは戦闘をセーブするってことで!」
「……おう」
「……了解」
「私も頑張りますよー。とりあえず、とどめを刺すのにテレパシーを使ってもオッケーです?」
沈黙。暫くアイが何を言っているのか分からなかった。
「待って? テレパシーって魔物を倒せるようなものだったの⁉」
唯一アイからのテレパシーをくらったことのある美海が悲鳴のような言葉を紡ぐ。アイがサッと目を逸らした。僕が空間隔絶技術を習得する際も使われる可能性があったはずなんだが、その危険性きっとわざと黙ってただろ⁉
「大丈夫です。AIたる私が、美海さんたちを傷つけるはずがありません!」
「それはそれとして、説明はちゃんとしろ!」
「私の時は緊急事態だったとしても、後から説明はしてほしい!」
口々に責められたアイがオロオロとしながら陽斗に視線を向けた。
「――アイ、がんば!」
「ふえぇ、味方がいないんですけどぉ……」
さすがにこれは泣いたとしても反省してもらわなきゃならないことだからな?
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