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王宮内にある射手団本部へ辿り着くと、テオが泣きべそをかきながら駆け寄ってきた。
「ビアンカさーん! 一体どこ行ってたんですか!? 無事で良かったですけど、もしものことがあったら僕はっ僕はぁっ」
「テオ、昨日捕まった農家の男の人達はどこにいるの?」
「へ? ビアンカさんを襲った人達ですか? ここの地下牢にいますけど、それがどうかしました?」
「地下牢、案内してくれる?」
「はいぃっ!? いや、地下牢への立ち入りは射手団だけで、ってビアンカさん?」
地下にあるのなら、射手団本部の階段を降りていけば良いだけ。テオの脇をすり抜け、階段を見つけて駆け下りた。
「ちょっ、ビアンカさんそっちはっ!!」
テオが私を制止する声で射手団員達が何事かと振り返っていたが、気にすることなく階段を降りきった。
しかし、地下牢の前で警護している射手団ふたりに止められてしまった。
「あなたは確か、ビアンカさんでは? 団長なら団長室にいます」
「カイルではなくて、私は昨日捕まった農家の人に話をしたくて」
「ここから先の立ち入りは許可できません。犯罪者だらけの牢屋に花の代表を入れるなど」
「でも、どうしても話しておきたいものがあって」
「だめです。絶対に」
どうしても入れてくれないようだ。テオのように簡単に脇を抜けることもできない鉄壁の守りに、諦めざるをえなかった。
「では、彼らに言伝を頼みます。村長と共に調べたら、不作の原因は土に邪悪な魔力が含まれていたことが分かったということ、それから、団長に誤解していたことや暴言を放ったことを謝って欲しいということを」
それだけ伝えて、テオと共にコールドウェル邸へ帰った。
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「ビアンカ、ちょっと話せるか?」
朝以外にカイルが部屋を訪ねてくるのは初めてだ。扉の前にいるであろうカイルの声は低くて、心なしか怒っているようにも聞こえる。怒るのも無理はない。カイルの言いつけを守らずに行動してしまったから。
「……ええ」
案の定、扉を開いた先にいたカイルは怒っていた。でも。
「どうして危険な真似をしたんだ? 自分を襲った奴がいた村に行くなど。奴らと同じ思考をした男達がまだいたら、とは思わなかったのか?」
ソファーに腰掛けていた私に近づいてきたカイルの顔をよく見れば、怒りだけではなくてどこか悲しそうだった。
心配をかけてしまった。それは素直に謝らなければ。
「ごめんなさい。でも、私にはやらなきゃいけないことがあったから」
「自分の身が危なかったとしても?」
「好きなものを守るためなら、困ってる人を助けるためなら何でもする。カイルも私と同じ立場だったら同じことをしたでしょう?」
口をつぐんでしまったが、否定はしなかった。
「私は花を見る為に掟を破って花の森を百回も抜け出すようなフローリアよ。それに、
くすっ、とカイルが苦笑した。表情が緩んだかと思えば、天を仰いで笑い始めた。
「忘れてた。ビアンカは見た目によらずやんちゃだったな」
「やんちゃって!」
「掟破るとかやんちゃだろ」
カイルは、笑って目尻ににじんだ涙を拭った。
「奴らに、俺に謝れって言ったのはどうして?」
「人を傷つけたのなら謝るのは常識でしょう?」
「別に俺は傷ついてなんて——」
「悲しそうな顔してた。お母様のことやカイルのことを悪く言われた時、そう見えたから……だから私、不作の原因は他にあるって証明したくて」
「まさか、俺のため?」
本人を前にすると気恥ずかしくなってしまう。でも、きちんと伝えなければ。前のように、俺の何が分かるのかと突き放されたくはない。
「あの
私の思っていたことを全て話すと、カイルは目をみはったまま黙りこくってしまった。
「カイル?」
また気にさわるようなことを言ってしまったのだろうか。カイルは視線を落とし、しばし悩んでいる素振りを見せた後、再び私に視線を戻した。
その瞳がやけに真剣で、でもどこか不安気に揺れているようにも見えた。
「まだ話していても平気?」
「ええ、私は大丈夫よ」
「なら……話したいことがある。俺の部屋で」
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