第13話  対策


 街には人々が戻りつつあったが、大臣の発言から再び国民は不安にかられてしまった。そして不満をぶつけるかのように、声を上げる人々。それは瞬く間に拡大していく。

 国会議事堂前から警視庁、桜田門にかけて、かなり大人数のデモが行われ、道路を塞いでいた。プラカードを掲げながら叫ぶデモ隊。原子炉の廃炉! 武器を捨てろ! 自然破壊をやめろ! 等々、ヨロイの要求をそのまま写したようなものだ。一方、街宣車でヨロイへの徹底抗戦を掲げ、呼びかける団体も現れ、デモ隊との衝突が始まる。それを止めに入る警察隊。

 同様の事案が各所で頻発している。東京は混沌としていた。

 

 しかし、この瞬間にも敵に襲撃されるかもしれない。その為、街には常に防衛隊が配備されていた。

 新宿都庁前。リクの所属する第二中隊も、交代で警備にあたっていた。通りの向こうで、溢れかえるデモ隊と警察が揉みくちゃになっている。その光景を横目にリクはため息をもらす。

「どうされました? 浮かない顔して」

 セナがじゃれてきた。

「こっち来んなよ! 任務中だろ」

 迷惑そうなリク。

「みなさんお盛んですねー」

 デモ隊を見ながらリクの横に来るセナ。

「まったく」

 デモ活動に呆れている様子のリク。しばらくゴタゴタを眺めている二人。

 セナが口を開く。

「何なんだろうな、俺たちのしてきた事」

「ほんとだよな。必死に戦って目の前で仲間殺されて」

「みんなを守る為なのにな」

 セナが悲しそうに呟くと、リクが間髪入れず

「そうなんだよ。みんなを守る為なんだよ! それなのに武器を捨てろとか、勝手な事ばっか言ってきやがって。じゃあどうやってヨロイと戦うんだよ! 〝いや、戦わない方法があるはずです〟やかましいわ! 実際に何百もの犠牲が出てるしヨロイだってやる気まんまんだろ!」

 リクが熱くなってきた。そして続ける。

「環境破壊するな! それは分かるんだよ。ガソリン使いすぎ! それも分かる。でもお前らが言うなってんだよ! お前らがプラカードに書いた文字もガソリンから作ったペンで書いてるだろ。着てる服も履いてる靴も、ほとんど石油製品じゃねーか!」

「リク。リク落ち着いて」

 セナがなだめる。はっ、と我に返り、

「あっ。少々声を荒らげてしまいました」

 冗談っぽくごまかすリク。すると今度はセナが語りはじめた。

「まあ、お前の言ってる事はわかる。あのヨロイの要求だって、飲めるものならとっくに飲んでるよ。人間が悪い。よくないよ。よくないと分かりながら石油掘ったり原爆作ったり、ズルズルここまできちゃったんだ。愚かなんだよ人間って。でも俺もお前も人間なんだよな。残念ながら愚かな生き物の一人なんだよ。 ヨロイが正しくても、人間が間違っていても、賛成でも反対でも俺たちは人間を守るんだ。人間が、自ら愚かだったと気づき、改める事を願いながら、人類を滅ぼさせない為に、自国防衛隊の一員として、命をかけて戦うんだ。俺はそう決めたんだ」

 セナの熱弁をじっと聞いていたリク。

 ‘感動しています’の顔をしばらくして、

「おーいー。なんやすごいやないかー」

 にやにやしながら肘でセナを小突く。

「いつ考えたんや、そのかっこいいセリフ。おーいー、やるやないかー。このこのー」

 と、からかいまた小突く。

「あっええ。あっ。えへへ」

 と、照れたふりをするセナ。

「まー、考えてる事はみんな一緒ってことなんやな」

 なぜか関西弁っぽいリク。

「ははは」

 二人、下手くそな芝居のように笑った。すると背後から

「コラッ! ちゃんと配置につけ!」

 の声。振り向くとアキラがいた。

「はい。すいません」

 素直に謝る二人。セナが持ち場に戻ろうとすると、

「ではセナ隊員! 人類を滅ぼさせない為に、自国防衛隊の一員として、命をかけて戦ってください」

 アキラが、さっきのセナのセリフを真似てニヤッとしながら敬礼した。敬礼し返し、肩をすくめ少し恥ずかしそうに自分の持ち場に戻るセナ。その姿を見ながらアキラが言う。

「セナは面白い奴だよな」

「そうですね」

 リクも認めた。

 冗談っぽくなってしまったが、アキラもリクも、先程のあのセナの言葉は本気だろうと確信していた。本気が顔に出ていた。自国防衛隊の隊員は、おそらく全員セナと同じ思いだろう。  

 するとアキラが、

「お前らいいコンビだな」

「そうですか?」

「俺はコータがいたから今までやってこれたと思ってる。あいつがいなきゃ、とっくに挫折してたろうな」

「えっ、ほんとですか?」

 アキラ、リクを見て、

「同じ目標の仲間やライバルがいるって、すげーパワー出るんだよな! だからお前らの関係、大事にしろよ」

「はい」

 確かに、セナがいなかったら、あんな苦しい訓練で笑ってられなかったし、戦場でのプレッシャーを越えられなかったろう。今さらながら、セナに深く感謝するリクであった。

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