第11話  声明


 ヨロイ襲来から七日。高円寺の内田家。


 父はリビングでパソコンを開いていて、その横で母はテレビを観ている。友美は二階の自分の部屋にいる。一見、普通の日曜日のようなありふれた光景に見える。外は危険そうなのと、電気などのライフラインは問題ないので、避難する事はひとまずやめて、家にいる事にした三人は、外出を極力やめ、家にこもっている。

 友美は、自分の部屋で友達とメールで安否確認と暇つぶしをしていた。

 風花〔暇なんだけど〕

 友美〔遊びたいね! フウカもヨシノも会いたいよー〕

 佳乃〔会いたいねー。でも、うち厳しいから当分外出禁止だわ〕

 友美〔うちも!〕

 風花〔夏休みどこも行けないの棺桶〕

 友美〔棺桶〕

 佳乃〔そういえばヨロイの動画見た?〕

 風花〔知らぬ〕

 友美〔存ぜぬ〕

 佳乃〔MUM【マム】で上がってる動画! 再生回数すげーんだけど、ヨロイがしゃべってんの!〕

 

 ※マムとは、MUM【my up movie】という最近流行りの動画サイトである。

 あと、メールの会話に出てくる〔棺桶〕というのは、この時流行っていた言葉で、〔最悪!〕とか、〔死んだ!〕などの意味がある。

 

 静かなリビングに、二階からドタバタと友美が降りてきた。

「ヤバいヤバい」

「何だ騒々しいな」

 父がイラつく。

「ちょっと見て見て!」

 と言いながらソファーに座り、スマホの画面を見せる

「なになに」

 と母が近づく。父も面倒臭そうに近づく。

「あー、やっぱテレビ繋ぐわ!」

 と、テレビをMUMに繋いだ。テレビにつながっているキーボードをカタカタ叩く。

「まだ全部見てないんだけど、ヨロイがヤバいんだって!」

 父と母は顔を見合わす。そして動画が再生された。

 テーブルに鱗だらけの手を置き、椅子に座っているヨロイと思われる生き物。ギョロッとした目でカメラを見ている。

 最近のテレビでは、戦闘時の映像が何度も放送されていて、ヨロイはもはや馴染みの生物だが、こんなに鮮明に映った映像はあまりない。

『みなさん』

「しゃべった!」

 驚きが出てしまった父。しゃべったところは見た事が無かった。

「しっ」

 制止する友美。

『私はみなさんに、ヨロイと呼ばれる者です。本日は皆さんに、相談とお願いがあり、この動画を撮っています。』

「日本語しゃべるの?」

 母の質問に友美がうなずいて答える。まるでどこかの首相か大統領の演説のように続けるヨロイ。

『日本政府に再三の忠告をしてきましたが受け入れられず、我々とのやり取りも国民に秘密で、非常に困っています。経済大国と言われるような国々に同じメッセージを送り続けましたが、どれもいい答えが帰ってくる事はありませんでした。なのでこちらに動画を送らせていただきました。先日の攻撃は驚かれたと思いますが、我々の要求が通らないとなれば、再度攻撃せざるを得ないと考えます。』

「いやー、フェイクだろ」

 父が目を細めた。睨んで黙らせる友美。ツバを飲む父。

『そこで国民のみなさんに直接問いたいと思います。我々の要求は、全ての核兵器と原子炉の廃絶、全ての武器の廃棄、汚染物質の海洋流出の禁止、ガソリンや天然ガスなどの地球資源の使用禁止、自然破壊の禁止であります。この要求を飲むのか、飲まないのか、決めてほしいのです。人間は調子に乗りすぎました。ここ二百年で地球はめちゃくちゃです。全て人間の責任です。人間はもっとシンプルに生きるべきです。地球は人間のものではありません。今こそ国民が団結して政府に訴える時です。そして地球を元の美しい星に戻しましょう。この要求が通らなければ、人類は終わるでしょう。まだ期限は決めませんが、何らかの動きがなければ、近く地球奪還戦争が始まるでしょう。我々は必ず地球を守ります』

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