第9話 激論
ヨロイの襲来から三日。
緊急事態宣言も解除され、攻撃された街は少しずつ修復が進められ、日常を取り戻すべく動き出していた。
しかし、人々は不安と恐怖で未だパニック状態。政府への不満を爆発させ、各地でデモが頻発していた。攻撃されたのが都心部だけだった為、地方に避難する人も多く、高速道路は大渋滞、鉄道は超満員、どさくさに紛れて犯罪も増加して、東京の秩序は乱れていた。
パニックになるのも無理はない。地球外生命体が攻めてくるなどの説があったとはいえ、テロ組織がまさかトカゲの化け物だとは誰も思ってなかっただろう。
テレビでは、連日ヨロイ襲来事件について議論されていた。
太陽テレビのスタジオ。
ワイドショー番組の生放送中、ここでも激論が展開されていた。国際ジャーナリスト、軍事評論家、政治評論家らが意見を交わす。
「政府が隠蔽しているんです!」
国際ジャーナリストの田辺が声を荒らげている。
「田辺さんは政府が何を知っていて何を隠蔽していると思うんですか?」
キャスターの近藤渚が問いかけた。
「分かっていたら言ってますよ! 隠してるから私にだって分からないですよ。そうじゃなくて、先日起こった事を考えればそう思うでしょう。無差別攻撃すると言われた。で、トカゲが攻めてきた。しかし攻められたのは防衛省などの政府関連の施設と、渋谷などの都市部の人が住んでない所。住宅街等は被害が出ていない。軍隊、警察等には多大な被害があったが、一般国民にはほぼ被害がなかった」
「一般人にも数十人は死傷者出てますけどね」
軍事評論家の小林が口を挟む。
「ちょっと待って小林さん。ほぼって言ってるでしょ、黙ってて!」
手で静止し、突き放すように吐き、話を続ける。
「住宅街には見向きもせず都心部だけの攻撃、明らかに無差別ではなかったんです。そして攻撃時刻も宣言通りだった。何か目的なきゃこんな事しないでしょ! あのトカゲが何かは分からないですけど、それを使って何者かが日本に何かしようとしてるんです。何らかの要求があったはずです、必ず。あれから三日も経ってるんですよ! なのに政府は三日も何も言わないで、被害報告だけしかしない。また今日にも攻めてくるかも知れないのに! アメリカでもイギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国でも同じ事があったでしょ。そのうち何処かが公表しますから、日本も速やかに知ってる情報を出すべきです」
政治評論家の相馬が手を挙げた。
「分かるけど無理な事もあるでしょ。何でもかんでも筒抜けにはできないからね。国中パニックになっちゃうから、吟味して精査して発表するんです。今その最中なんでしょう」
「いやいや、すでにパニックですから!」
議論は白熱している。
それをフロアの奥でプロデューサーの林田豊久が編成の秋山恵と眺めている。
「至極真っ当な事を言っているなあ」
「田辺さんですか?」
議場を見たまま、林田の呟きに反応する恵。
「何で政府は沈黙なんだろうか。防衛省の一連の事件も発表は後出し感は否めない。何かあるよな」
「調べてるんですけどねえ」
「新しく就任した防衛大臣、細田さんだっけ? ここに引っ張り出してきてスタジオで聞くか」
それを聞いた恵、林田の方を見て、小さくうなずきながら言った。
「それは、いいですねえ」
林田は少しニヤッとしたが、すぐに真顔にもどった。
「それより田辺さん、あんなに政府批判して大丈夫か?誰かに殺されやしないかなー。心配だ」
「ほんと、すごい勢いですね」
その後もスタジオは国際ジャーナリスト田辺の独壇場で舌なめらかに語り続けていた。
「トカゲたちは自分の爪だけで戦い、武器は持っていなかったと言うじゃないですか。だから街をめちゃくちゃにしたのはむしろ人間側だという意見も出てます。奴らの目的、何処から来て、黒幕は誰なのか、早急に公表するよう求めます」
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