第2話 昼
しばらく鈴の家で暇をつぶしているうちにふと時計を見ると、十一時十分を指していた
「晴馬、そろそろ行こ」
「ん? にしてはちょっと早い気もするが」
「こういうのは余裕もって行ったほうがいいの」
「へぇ、やっぱ好きなことには積極的なんだな」
「嫌いなことに積極的になんてならないよ」
「なるほど、だから学校だとギリギリで登校するんだな」
「まぁね」
軽く身支度を済ませた後、外を出る。
歩いてる途中しばらく無言状態が続いたので、俺が沈黙を破る。
「お前って、エビが大好物なんだよな」
「そうだけど」
「エビのどこが好きなんだ?」
「尻尾」
「……え?」
「なんか可愛い」
「…………あはは、そっか」
そういえば鈴って、ちょっと変わってるやつだったな。
いたってボロイ廃墟をかっこいいと言ったり。
ごみ箱に捨てられているごみを見て「お疲れ様」とたまに呟いてたり。
……。
「あんたは何のネタが好きなの?」
「あー、俺はマグロかな」
「王道だね」
「だからこそ美味いんだ」
「ふーん」
……あまり会話は盛り上がらなかった。
そうこうしているうちにあの店に着いた。
もうすでに何人か並んでる。
鈴は上に張られている店名を見る。
「西谷寿司屋……。きっとここだね」
「あぁ」
まだ開店時間まで少しあるのでしばらく待つことにする。
すると徐々に俺たちの後ろに列ができてきた。
「なんかすごい人来たね。早く来て正解だった」
「西谷さん人脈すごいからな。きっとここにいる人たちのほとんどは知り合いとかだろうな」
まもなくして開店時間となった。
「いらっしゃいませー。鈴晴カップル入りまーす」
「その言い方やめてください」
今ので数人くらい笑っていた気がする。
受付の人は西谷さんの娘の志都美さんだった。
そういえばこの人も、俺達が小さかった頃にたまに遊んでくれたのを思い出す。
年上だから、姉さんと俺は呼んでる。
ちなみにみんなからシズミンと呼ばれている。
「へへっ、でも君たち、幼稚園の頃から仲いいじゃん。これはもういっそのこ―――」
志都美さんが何か言い切る前に俺たちはカウンターに着いた。
「ねぇ、ここ注文ボタンないよ?」
「回転寿司と違って注文は自分で言わないといけないから、自分で頼むんだぞ」
「面倒くさいからあんたお願い」
「はぁ~。すいませーん、マグロ二貫とエビ二貫お願いします」
「はいよー、へへっ、やっぱそれ頼むと思った」
返事をしたのは、店長の西谷さんだ。
「おじさん、家族で営業してるんですね」
「だれがおじさんや! 店長と呼べい!」
「あ、すみません。店長」
「どっちでもいいけどな! 俺が寿司屋を立てるってシズミンとユウミンとハヤミンに言ったらさ、三人ともうちらもやるって言いだしてなぁ、ほんとは俺一人でやるつもりやったんやけどな」
ちなみにユウミンは、優美さん。
志都美さんの次女だ。
奥で寿司を握っている。
ハヤミンは、隼人さん。
長男だ。
同じく店長の横で寿司を握っている。
「一人じゃきつくないすか」
「今思えば確かに一人でこの客の数は大変やな! だから、こいつらには随分助けてもらってるんや。っておいハヤミン、寿司の握り方が違う!こうやってやるんや!」
「ひいいすいません」
そうこうしてるうちにネタが置かれたので、食す。
―――ん。
「……美味い」
思わず声が漏れてしまった。
回転寿司とは比べほどにならないほど美味しい……。
鈴もエビをいただく。
……俺と同じように「美味い」と声を漏らしている。
これが本格的の寿司か。
「へへっ、そうか美味いか!」
「本当に美味いです……」
「鈴ちゃんはどうだ?」
「……エビ四貫と二十貫ランダムでお願いします」
「鈴?! 頼み過ぎじゃないか?」
「はっは! かしこまりい!」
流石にここまで頼むのは意外だったな。
果たして全部食べ切ってくれるだろうか。
その後もどんどんネタを食い尽くす鈴。
無理をしていないかと心配になりチラッと横顔を見てみる。
……笑みは浮かべている。
本当に寿司は別腹なんだな。
しばらくして鈴は合計二十六皿を食べ尽くした。
最高記録更新だ。
ちなみに俺は二十貫食べた。
こちらも記録更新だ。
「……鈴、お前すげえな」
「……まだいける」
「もうやめとけ、俺たちの財布が空っぽになる」
「それもそっか。お会計しよ」
「そうだな」
俺達はカウンターを立つ。
気付けばほとんど客がいなくなっていた。
お会計をする。
「……なんじゃこりゃ」
代金は万を優雅に超えていた。
「……代金も記録更新だな」
「ねぇ、財布の中足りる?」
「お前と俺でギリギリ足りるな」
お会計を済ませ、礼を言う。
「またのご来店お待ちしておりまーす!」
「晴ちゃん、鈴ちゃん、また来てくれよなー!」
店の雰囲気、寿司の味、何もかも最高だった。
それは鈴も同じ気持ちのようだ。
きっとこれからは、回転寿司じゃなく西谷寿司屋に行くことになるだろう。
店を出た俺たちは、鈴の家に戻った。
「なぁ、お前どっか行きたいとこあるか?」
ゴールデンウイークなのにどこも出かけないのはつまらないと思ったので、鈴に提案してみた。
「んー、別にって感じ」
「……はぁ、行ってみたいところとかないのか」
「あんたがいればそれでいい」
……何かっこつけたことを言ってるんだろう。
「んじゃ俺は、今から海にでも行こうかなー」
「一人で海って……悲しいね」
「うるせぇ」
「……ねぇ、お散歩しない?」
「……だったら最初っから言えよな」
「近くにさ、確か海あったよね」
「あー、あそこか」
「たまにあそこで一緒に遊んだよね」
「ははっ、懐かしいな。んじゃ今から行くか」
「いや、夜に行きたい」
「……夜?」
「うん。夜なら、きっと人もあまりいないと思う」
「んー、まぁいいけど」
そういえば、さっきから鈴の様子が少しおかしい気がする。
何か考え事をしているような。
何か決心したような。
気のせいだと思うが。
……もしかして。
‘‘あの時の答え‘‘を言うつもりなのだろうか。
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