俺の幼馴染が可愛すぎる
黄昏 光
第1話 朝
―――ピロリン♪
スマホの通知音で目が覚める。
「……ん、誰からだ?」
ホーム画面に表示されている時刻を確認すると、朝7時を過ぎていた。
通知の内容を確認する。
『おはよう晴馬。暇だから私の家きて』
俺の幼馴染である鈴からのお誘いの内容だった。
あぁ、またか。
ゴールデンウイークになってから、やけに鈴からのお誘いが増えてきた。
学校が休みだからって特に旅行することもなく、家に引きこもっている鈴は、きっと寂しいんだろうなと思う。
それに、こうやって甘えてくるようになったのは、きっと、あの時が原因だろう。
『へいへい』
俺はそう返事をした後、体を起こし洗面所で歯を磨く。
鏡に映る俺は、寝癖がかなりひどかった。
ニキビも最近出来てきた。
「……後で薬買ってこようかな」
歯を磨き終えた後、寝癖を直すため、タオルを濡らし電子レンジに入れて五十秒ほど温めた後、髪の上に乗せしばらく放置する。
こうすると寝癖が少し治るのだ。
……少しだけど。
十分ほど放置してみたものの、結局寝癖は立ったままだった。
外出の準備の途中で、髪の寝癖がすごい母さんが起きた。
「おはよぉー。今日も鈴ちゃんの家?」
「あぁ」
「ふふっ、相変わらず仲が良いわねぇ」
仲が良い……か。
まぁでも、今は間違ってはないか。
「じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
玄関のドアを開け、外に出る。
「そろそろ暑くなってきたな」
外は直射日光が降り注いでいる。
もう半袖でも充分なんじゃないかとさえ思う。
こんな日こそ、どこかお出かけしたい気分だ。
夏葉 鈴は、幼稚園の頃からお互いの両親の縁があって、よく一緒に遊んでいた。
鈴はあまり感情を顔に出さないため、喜んでるのか怒ってるのかよくわからない場面もよくある。
だから、俺が鈴をいじりすぎて激怒させてしまい、しばらく口を利かなくなることもあるから、少し面倒ではある。
でも、そんな鈴だからこそ、時折見せる笑顔や照れ顔が本当に可愛い。
後、鈴は寿司が好きだ。
基本寿司ならどんなネタも食うけど、特に鈴が好きなネタはエビらしい。
普段は少食のくせに、回転寿司とかに行くと鈴一人で二十皿以上食べつくすこともざらにある。
寿司は別腹なのだろうか。
鈴の家までは、信号に邪魔されることなく道なりで行けるため、五分もしないうちに着く。
歩道を歩きながら周りの建物を見ていると、ふと見慣れないお店があった。
「あれ、こんなところに寿司屋なんてあったんだ」
看板には今日十二時オープンと書かれている。
ここはもともと俺の知り合いの西谷さんの一軒家が立っていたはず。
上に張られてる店名は「西谷寿司屋」と書かれていた。
あぁ、わかりやすい。
「……西谷さん」
西谷さんは、俺と鈴がまだ小さかったころよく一緒に遊んでくれたおじさんだ。
おじさんは昔から寿司を握るのが好きで、いつか寿司屋を開くのが夢だと、いつも口癖のように言っていたのを思い出す。
「夢、叶ったんだな」
知り合いの夢が叶う瞬間を目の当たりにして、なんだかこっちまで嬉しい気分だ。
……今日の昼飯はここにしよう。
鈴も一緒に。
そう思いながらしばらく店の前に立っていると、窓越しで店内で準備をしてる西谷さんと目が合った。
するとすぐさま、出入り口の扉を開けた西谷さんが出てきた。
「おぉー晴ちゃん! 久しぶりやなぁー。小学校以来じゃないか?」
「お久しぶりです西谷さん。夢、叶って何よりです」
「へへっ、十年間頑張って修行して、ようやく寿司屋を開けるようになったんや! 今日の十二時からオープンやけど、よかったら来るか?」
「もちろんそのつもりです」
「おう! あ、そうや」
「はい?」
何故かしばらく間をおいて、にやにやとした顔でこう言った。
「……鈴ちゃんと、一緒にきな!」
「はぁ、はい」
「ん。さては照れてるな?」
「違います」
「ははっ! んじゃ昼頃にまた会おう」
「はい、それじゃあ」
そうして西谷さんと別れ、再び鈴の家まで歩み進める。
寿司屋を始めたこと、きっと鈴も驚くだろうな。
鈴の家のインターホンを押す。
しばらくして扉が開き、鈴が出てきた。
「よう」
「……いらっしゃい」
「どうした? 俺の顔になんかついてるか」
「ニキビがついてる」
「……うるさいな」
「後寝癖がひどい。そういうところもお母さんに似てるね」
「タオルおいても治らなかったんだよ。ちきしょう」
こういうくだらないちょっかいをしてくるのも、鈴らしいな。
「朝シャンすれば治るんじゃないの」
「……あー、確かに」
「はぁ。まぁいいや、入って」
鈴に促されお邪魔する。
鈴の両親は共働きなため、一日の大半は一人で過ごすことが多い。
だから俺がこうやって鈴の家に遊びに行くのだ。
俺が玄関から床に上がろうとすると、鈴に足止めされた。
「……私の家に上がる前にやることは?」
「……消毒をすること」
「正解」
ちなみに鈴は潔癖症である。
家に上がる前に玄関で消毒しないと上がらせてくれない。
まぁこれは良いことだしな。
机の上に置いてある消毒器の上部分を押そうとしたとき、何故か鈴に消毒器ごと奪われた。
「何してんだ鈴」
「手だして」
「はぁ?自分でやるから」
「手」
「……はぁ~」
よくわからないが、おとなしく手を差し出す。
―――プシューー
勢いよく霧状の消毒液が俺の手の平にぶちまけられた。
もはや溢れ出して床にただれおちている。
「……出し過ぎや」
俺が引くような表情をしていると、鈴に促されたので、手に染み付かせた後に床に上がる。
「何か飲み物いる?」
鈴が提案をしてきたので、俺はいつも通りの「ポカリで」と言った。
「はーい」
ポカリは自販機やコンビニなどで売っているペットボトルではなく、粉状のを使って自分で作るというやつだ。
塩分の調整ができるから、自分好みの量を作れるし最高だ。
しばらくして鈴がポカリを持ってきた。
「サンキュー」
机に置かれたポカリを飲もう、とした。
「……なぁ鈴」
「ん?」
「なんか俺のやつ白っぽくないか?」
「気のせいじゃない?」
「多く入れたねぇ絶対」
鈴は知らんぷりして通常の量の塩分が入ったポカリを飲んだ。
「はぁ」
俺は異常な量の塩分が入ったポカリを飲んだ。
案の定めっちゃ甘かった。
今後は自分で作ることにしよう。
俺は移動中コンビニで買ってきたお菓子を出して、鈴と一緒に食べた。
「朝飯は食ったのか?鈴」
「食ってないよ。一日二食で十分でしょ」
「まぁそうか。俺も一日三食も食わなくていいと思うわ。間食とかで足りるし」
「ね。今日昼飯どうする?」
鈴がいい質問をしてくれた。
「よくぞ聞いてくれた」
「……?」
「なぁ鈴、西谷 浩一っていうおじさん覚えてるか?」
「ん。あー、将来お寿司屋さんになるって言ってた人? 懐かしいなぁ」
「あぁ、実はな、今日の昼頃から西谷さんの家だった場所に寿司屋として開店するってよ」
俺がそう言うと、鈴は目を大きく開いて「えっ」と声を漏らした。
「……おじさん、ほんとに寿司屋開くつもりだったんだ。びっくり」
「あぁ、今日の昼飯はそこにするぞ」
鈴は嬉しそうに「やった」と呟いた。
はは、案の定驚いてるし、すごく喜んでる顔してる。
良かった。
‘‘ゴールデンウイーク前までの鈴‘‘よりもちゃんと感情があって、生き生きしている様子だ。
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